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.国際  投稿日:2022/12/29

アメリカ中間選挙の読み方 最終回 郵便投票という大課題


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

【まとめ】

・今回の中間選挙で多かった郵便投票を行ったのは圧倒的に民主党支持者が多い。

・民主党は2020年の大統領選挙の前から郵便投票を組織的に拡大してきた。

・共和党は不正の温床だと非難している。

 

さて今回の中間選挙でもう一つの大きな特徴は郵便投票の多さだった。

有権者が多様な理由で選挙当日に公式の投票所へ出かけて、支援する候補者に一票を投じるという正常の当日投票ではなく、投票日の期日前に有権者が自分の票を郵便で送るというシステムである。

郵便投票といえば、アメリカの選挙の長い歴史でも2020年の大統領選挙で初めて飛躍的に増大し、共和党側からは不正の温床だとする非難がぶつけられた。

郵便投票は前回大統領選では民主党が組織をあげて全米規模でその実行を拡大し、集票に大きな成果をあげた。

今回も郵便投票では民主党票が共和党票より圧倒的に多いことが判明した。共和党側からまた不満や抗議が出ており、アメリカの選挙制度自体への多様な批判がまた渦巻くことも予想される。

全米州議会会議の調査によると、今回の中間選挙では全米の約40州で投票日の11月8日の49日前から4日前までの期間に事前投票が実施された。その事前投票のうちの半数以上が郵便投票だと目されている。

フロリダ大学の選挙研究機関によると、今回の中間選挙での郵便投票と投票日の前に投票所に出かけて票を投じる不在投票を合わせての事前投票の総数が公式の投票日の時点で全米約1500万、その数日後の調査では一気に4000万以上と目された。

そのうちのどれほどの数が郵便投票かはまだわかっていないが、少なくとも半数以上、3000万以上と推測される。中間選挙での全体の投票が1億2,3千万とすれば、郵便投票は全体の3割近くとみられる。

その後、特定の州からは事前投票の総数を示す統計も明らかにされた。その結果、事前投票、とくに郵便投票を履行した有権者は圧倒的に民主党支持が多いことが判明した。

たとえば全米でも最激戦とされたペンシルベニア州では投票日前の調査で事前投票をした民主党支持者は約53万、共和党支持者は約14万と判明した。郵便投票の内訳もその半数ずつで民主党票が圧倒的に多いと判断された。

ノースカロライナ州では郵便投票をした民主党支持者の数が共和党支持者のおよそ3倍にも達したという記録が明らかになった。NBCテレビの全米調査では投票日に投票すると答えた有権者は共和党層では60%、民主党層では36%という数字が出たという。事前投票は郵便投票を含めて民主党側で圧倒的に多いというわけだ。

この現象は民主党が党の方針として2020年11月の大統領選の前から事前投票、とくに郵便投票を重視してきた背景による。アメリカ政府当局の統計によると、前回の大統領選では新型コロナウイルスの大感染がまず主要な原因となって、郵便投票が急速に広まった

投票総数約1億5千万のうち70%が事前投票で、そのうちの郵便投票部分が総投票の43%にも達したという。そしてその郵便投票の内訳は2対1の比率で民主党バイデン候補に投じられたことが明らかになった。

その背景としては民主党が2020年の大統領選挙の少し前から郵便投票を組織的に拡大し、その結果を自党に有利に導く努力を重ねてきたという実態があった。

有権者の登録の簡素化、郵便投票での本人確認の手続きの緩和、郵便投票の到着期限の緩和、郵便投票の内容と送付者の身分証の合致検査の緩和、政治活動家的な「投票収穫人」による多数の郵便投票の収集(収穫)の自由化などを求める、というような施策だった。

民主党はこうした施策を2019年1月に「選挙改革法案」としてまとめ、ナンシー・ペロシ下院議長の主導で下院に提出した。その内容について大手紙ウォールストリート・ジャーナルの選挙問題に詳しいキンバリー・ストラッセル記者が2020年11月13日付の同紙に「2020年選挙での収穫」と題する長文の解説記事で説明していた。以下の骨子だった。

・民主党はまず登録有権者のリストアップを従来の選挙管理関連の資料からだけでなく、社会福祉や大学入学の記録などから得ることで有権者基盤の拡大を目指した。有権者層の自由な拡大は民主党票を増やすことにつながる。

・民主党は同時に郵便投票を容易にするために、多くの民主党票を集める「投票収穫人」が地域社会の多くの世帯を回り、多数の郵便投票を集めて選挙管理当局に届ける手続きを可能にすることを図った。

・この民主党の「選挙改革」は連邦レベルでは上院共和党の反対のために連邦法とはならなかったが、各州政府は民主党側の個別の要請を受けて、郵便投票の緩和や自由化の方向への措置を認めるにいたった。

ストラッセル記者の記事は以上のように伝えていた。それからの2年余り、郵便投票のあり方には共和党側も反撃し、多くの州のレベルで郵便投票の本人確認などの規制を厳しくする措置を求めた。だがそれでもなお、郵便投票につける本人の署名の確認や郵送の期日の確認などに関して州レベルで民主、共和両党の主張がぶつかり、未解決のまま今回の中間選挙を迎えたという州の実例も報道されていた。

だから今回の中間選挙でもこの郵便投票の合法性の確認などに多数の州や選挙区で数週間にも及ぶ時間が費やされたわけである。またその確認の方法をめぐっても、すでに共和党側から「不正」を訴える声も起きてきた。この郵便投票がまた民主、共和両党の対立を燃えあがらせるという見通しも否定できないのだ。

アメリカが世界に誇る民主主義の根幹となる自由な選挙制度がここへきて構造的な問題点を露呈して、新たな政争の原因になるともいえる状況なのである。

(終わり。その1その2その3)

トップ写真:米国議会議事堂で行われた記者会見でメディアに語るミッチマコネル上院院内総務(2022年12月13日、アメリカ・ワシントンDC)出典:Photo by Nathan Howard/Getty Images




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