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.国際  投稿日:2023/1/6

米中戦争は起きるのか


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

【まとめ】

・2023年の国際情勢で危険要因をあげると、やはりアメリカと中国の激しい対立だろう。

・中国の国際秩序への敵対的なチャレンジは、習近平国家主席が異例の任期延長を果たしたことでさらにどぎつくなる。

・アメリカ側ではそんな中国の動きの野望に備え、軍事面でも経済面でも戦いの構えをも固め始めた。

 

 2023年の国際情勢で危険要因をまずあげるとなると、やはりアメリカと中国の激しい対立だろう。この対立が対決となり、衝突となり、戦争にまでエスカレートするという危険は決して非現実的な想像ではない。そんな危険を連想させる現実の衝突要因が明白だからである。

 だがこの米中対立の根幹をみると、やはり激動の発端は中国側の動向にある。いまや中華人民共和国が世界を揺るがせているのだ。アメリカにとっても日本にとっても中期、長期の展望を考えると、いまウクライナ侵略で国際秩序を崩そうとするロシアよりも中国の脅威はもっと巨大な荒波をぶつけてくるようにみえる。

 アメリカや日本が中核となる長く安定してきた戦後の国際社会にとって中国の潜在、顕在両方でのチャレンジはロシアよりずっと強大な国力を有するだけに衝撃はまた格段と大きいといえるようだ。

 

 私は報道の拠点をアメリカの首都ワシントンにおいてこの中国の動きがアメリカに与える影響と、アメリカ側の反応とを長年、考察してきた。トランプ前政権からバイデン現政権にかけてのここ数年、アメリカは超党派かつ官民一体の形で中国の膨張的な動きに注意し、批判し、非難して、ついに具体的な対抗措置をとってまで対決するという段階にいたった。

写真)ホワイトハウスで講話するバイデン氏(2022年12月22日)

出典)Photo by Alex Wong/Getty Images

 現在でもすでにアメリカは中国を敵視し、激突したといえる。中国も同様に激しく反発し、アメリカを糾弾する。そのアメリカの同盟国である日本に対しても尖閣諸島への軍事攻勢のような敵対的な行動をとる。

中国のそうした日米側の既成の国際秩序への敵対的なチャレンジは、2022年10月、中国共産党の全国大会で習近平国家主席が異例の任期延長を果たしたことでさらにどぎつくなることが確実視される。

 かねてから中国の独自の価値観や理念で軍事力を基礎にして世界統治へと進もうとする習近平主席の国内での独裁体制や対外的な強硬姿勢がさらに顕著となるからである。

写真)APEC首脳会議での習近平(バンコク、2022年11月19日)

出典)Photo by Lauren DeCicca/Getty Images

 アメリカ側ではそんな中国の動きの野望に備えて、軍事面でも経済面でも戦いの構えをも固め始めた。すでに米中開戦前夜と呼べるような空気がアメリカ側の国政の場でも感じられるのだ。

 とくに台湾に対する中国の軍事的な威嚇や実際の攻撃力の強化はアメリカ側にも台湾有事としての軍事的な緊張の対応を生んでいる。台湾をめぐる米中両国の戦争は現実的なシナリオをみなされるにいたってきたのだ。

写真)中国の侵攻を想定した台湾の軍事訓練 (2022年7月28日)

出典)Photo by Annabelle Chih/Getty Images

 しかしアメリカ側では中国に対して軍事での戦争に限らず、経済や政治、外交などで断固として中国の動きを抑えようという闘争の構えが強くなった。

 そしてアメリカ側のその決意の背後にはこれまでとくに経済面で関与や交流を重ねてきた中国との絆を絶っても構わない、という主張までが広がってきた。

 アメリカ議会の動向をみても、実際に中国との経済や政治の交流を最小限にする対中切り離し論が輪を広げ、提出される法案の内容にまで反映されてきた。独裁がますます強化された習近平氏支配下の帝国のような中国の新政治体制に対する絶縁状の叩きつけとも評される動きもみられるのだ。

 アメリカでは周知のように2022年11月に連邦議会の大部分を改選する中間選挙が実施された。その結果、与党の民主党と野党の共和党が激しくぶつかり、予想以上の熱戦を展開した。バイデン政権への不満や要望も新たに表明された。

 だがアメリカ全体としての中国に対する姿勢はこの中間選挙戦では主要な争点とはならなかった。民主党も共和党も中国に対してはこんご対決を覚悟の強固な政策で接していかねばならないという意見の一致があったからだ。この一致は「ワシントン対中コンセンサス」とも呼ばれる。

 

 私は米中関係のこうした現状と展望を旧知のアメリカ人国際関係研究者との共著という形で本にまとめた。アメリカがなぜ中国を危険視するのか、他方、中国はなぜアメリカを敵視するのか、という基本点をまず調査し、報告したうえで、こんごの予測を試みた総括である。同時に中国は日本をどうみるのか、も主題の一部として位置づけた。日本にとっての中国問題とはなんなのか、を日米両方の視点から考察することも試みた。

 その共同作業のパートナーはアメリカ側で米中関係や中国の動向をまず経済安全保障の観点から長年、追ってきた著名なエコノミストのクライド・プレストウイッツ氏である。

写真)クライド・プレストウィッツ氏

出典)ClydePrestowitz.com

 この報告の集大成として彼と私との対論という形式をとった。双方の報告や主張の交換だが、対談と呼ぶにはそれぞれの発表が長く深いため、共同討論という意味での対論という表現が適切に思えるからである。

 そして総括としてはプレストウイッツ氏と私がそれぞれアメリカと日本が中国の脅威に対してこんごなにをすべきかを提言することにも努めた。

 この記事は自己の著書の紹介でもあるが、その背景には米中関係の緊迫という日本の目前にも迫った危機が影を大きく広げており、その危機についての警告が主旨である。

図)「米中開戦前夜古森義久、クライド・プレストウィッツ著

ビジネス社

 

トップ写真:アメリカと中国の国旗

出典: cybrain/GettyImages

 

 

 

 

 




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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