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.国際  投稿日:2023/5/31

アメリカはいま――内政と外交・ワシントン最新報告 その6 トランプ起訴の大統領選への影響は


古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・トランプ氏は起訴されても、有罪になっても、大統領選挙に出馬できる。

・次回準備会合は12月4日。1月24日の大統領選最初の党員集会前にイメージ悪化を狙う思惑か。

・トランプ氏が起訴されても民主党が有利になるような反応は起きなかった。

 

アメリカではほかにももっと地上波のテレビでCBSとか、NBCとかありますが、これらもみんな、呆れるほどの民主党びいきです。CNNは、日本のなかで一番親しまれ、なおかつ頼りにされてきているテレビのメディアです。これがことトランプ論評となるととんでもない、トランプ氏を悪魔に仕立てています。私などがさらりと視聴していても、トランプ氏のことを嘘つきだとか、邪悪だとか、とにかく悪口雑言です。

しかし、そうではないメディアというのも存在します。新聞だと、全米で一番部数の多いウォール・ストリート・ジャーナルというのは、共和党寄りとまでははっきり言えないけれども、民主党ベッタリとは違います。

また共和党寄りで、しかもつい最近までトランプ氏を大々的にサポートしてきたFOXテレビ……アメリカのニュースチャンネルではFOXが圧倒的に視聴率が高く、CNNの3倍ぐらいになっているが、このチャンネルは徹底して共和党びいきです。バイデン政権の悪いことをずーっと拡大して報道し続けている。だから、アメリカにいて、アメリカの政治の状況を正確につかむためには両方のメディアを見ていないといけない。

何度も同じことを言いますが、日本の場合には、やはり民主党びいきの大手メディアへの依存が伝統的に高いですね。朝日新聞がニューヨーク・タイムズとずっと提携している。読売新聞がワシントン・ポストと提携している。日本で24時間のアメリカのケーブルテレビを見るとしたらCNNしか見られません。よほど自分のパソコンでいろいろやればFOXも見られますが。

ですから、どうしても、トランプはダメなんだ、悪い人間なんだ、というようなメッセージが誇張されて日本側に対しては流れてくる。そんな状況です。

そしてトランプ前大統領は起訴されても、あるいは、有罪になっても、大統領選挙には出馬できるということで、これからも彼は闘っていくでしょう。ブラッグ検事の政治姿勢を見ると、この次に何をやるのかというと、罪状認否の後は、次は裁判です。大陪審に民間人を集めて判断を仰ぐということで、起訴しましょうという意見が多数派になって検察官が起訴したわけですが、次は裁判の準備になります。

▲写真:トランプ前米大統領の罪状認否後の記者会見で話すアルビン・ブラッグ検事(2023年4月4日 米・ニューヨーク)出典:Photo by Kena Betancur/Getty Images

いつかというと次回のそのための会合は12月4日だというのです。いまは4月です。8カ月間何もしない。なぜ12月4日なのかというと、どうしても、思惑として考えざるを得ないのは大統領選がいよいよ始まるというタイミングです。

年が明けて、1月、4年に1度の大統領選挙はいつもはアイオワ州で党員集会ではじまるのですが、今回は民主党も共和党もサウスカロライナからはじめようということになっています。それが1月24日です。だから、民主党の思惑としてはそれに合わせてトランプの裁判ということになると彼のイメージが悪くなるだろうということでしょう。そういう思惑がどうしても出てくるのです。何度も同じようなことを言いますが、民主党側は非常に期待しています。トランプの悪い罪状をどんどん、正義の味方のブラッグ検事が暴いて、追い詰めていく。そんな展開を期待するわけです。

ここで一歩二歩引いてこのトランプ氏に対する起訴処分は一体、何なのだと考えてみましょう。

罪状にされている対象というのは2016年の大統領選挙です。7年前です。日本では、もうトランプ氏は終わりだ、とする見方も多いです。昨年の中間選挙で最大の敗者はトランプ氏だった、というのが多数派の見方になっている。しかし、そんなダメになった人のことを、なんで7年前にまで遡って追い詰めて、棺桶に入れて釘を打ち、棺桶の蓋を閉じるようなことまでしなければいけないのか。

これは、やはり、ドナルド・トランプという指導者が民主党にとってなお大きな脅威だから、ということになるでしょう。放っておくと、また出てきてやられる。現に出てきているわけです。つまりトランプ氏は民主党側にとって、まだまだ現実の脅威なのです。

ところが、起訴ということをやってみたら、さきほど述べたような民主党が有利になるような反応は起きなかった。そのへんを予測していた向きもあったのどうか。よくはわかりません。だけれども、予測していた向きもあるのだという見方もあります。

(その7につづく。その1その2その3その4その5

**この記事は鉄鋼関連企業の関係者の集い「アイアン・クラブ」(日本橋・茅場町の鉄鋼会館内所在)の総会でこの4月中旬に古森義久氏が「アメリカの内政、対中政策――ワシントン最新報告」というタイトルで講演した内容の紹介です。

トップ写真:トランプタワーに姿を見せたドナルド・トランプ前大統領(2023年5月28日 米・ニューヨーク)出典:Photo by James Devaney/GC Images




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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