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.国際  投稿日:2022/11/27

アメリカ中間選挙の読み方 その1 日本での異様な関心の高さはなぜか


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

 

【まとめ】

・4年に一度の米大統領選挙のちょうど間に実施される議会選挙は中間選挙という。

・2022年11月のアメリカ中間選挙には日本側の関心が異例なほど高かった。

・戦後最大の軍事的な脅威や危険が現実に迫ってきた日本はアメリカからどこまで支援してもらうのかが中間選挙の結果と強く関わっている。

 

 アメリカで中間選挙が11月8日に催された。この選挙は2年に1度、主として連邦議会の上下両院の議員たちを選ぶ政治行事である。民主主義の旗を高く掲げるアメリカ合衆国にとって、その民主主義の根幹となる一般国民による選挙である。その選挙によって国家の政治を動かす立法府、つまり議会の選良たちを選ぶ。

 議会はいうまでもなくアメリカの国政を構成する三権、つまり行政、立法、司法の重要な一角を占める立法府である。アメリカ全体の政治メカニズムでも国民一般と最も緊密に結びついたのが立法府だともいえる。その立法府の構成を2年に1度、国民が決めるのがこの中間選挙なのだ。

 もっとも連邦議会の選挙は大統領選の実施される年にも実施される。だがこの全体選挙の際には内外の関心は大統領選にもっぱら集中する。議会選挙の重要性は上記のとおりだが、アメリカ国内でも、国際的にも、まず最大の注意は大統領選の結果に集まってしまう。

 だがこの議会選挙は4年に1度の大統領選のない年にも実施される。つまり大統領選挙の2年後である。2度の大統領選挙のちょうど間に実施されるのがこの議会選挙なのだ。だから中間選挙と呼ばれるわけだ。

 ふつうならこの中間選挙に対する内外の関心は大統領選挙よりははるかに低い。私も長年、ワシントンを拠点としてこの中間選挙を取材し、報道してきた体験から、日本側でのアメリカ中間選挙への関心はきわめて低いと感じてきた。大統領選挙への関心にくらべれば、足元にも及ばないといえるほどだった。

 思えば私が毎日新聞の特派員としてワシントンに初めて赴任したのは1976年9月である。その年の11月には私にとって初めてのアメリカ大統領選挙を体験した。共和党の現職ジェラルド・フォード大統領に対して民主党新人のジミー・カーター候補が挑戦する大統領選だった。周知のようにカーター候補が勝利した。

 連邦議会上下両院の選挙もその際、同時に実施されたのだが、私自身はほとんど無関心だった。最大関心事はなんといっても大統領選挙であり、そのころの議会では上下両院とも民主党が多数を占める結果があいつぎ、あっと驚くような展開は起きなかったのだ。

 それ以来、私のワシントン駐在は断続の年月こそあったが、現在にまで及び、その半世紀ほどの間に中間選挙は通算10数回は体験しただろう。ここでの「中間選挙」とは大統領選のない年に開かれる、つまり4年に1度の連邦議会選挙という意味に限定しておく。連邦議会選は実は前述のように2年に1度、実施されているのだが、大統領選と同時の年の選挙は「中間」には含まないこととする。

 私はワシントン駐在の長い年月の間には東京に戻った数年もあるし、ロンドンや北京に駐在した歳月もあった。ワシントンにいなかった年月もかなりあったのだ。だから中間選挙の取材にも断続があったのだ。だがそれにしてもこれまでの中間選挙の報道では日本側の関心が低いことが一種の悩みだった。

 中間選挙に備えて現地でワシントンを拠点に多くの州を訪れ、それぞれにホットな現地の状況をニュースとして日本に送り、中間選挙の事前の状況を詳細に伝えても東京本社では熱心な反応を示すことが少なかった。だから現地からの記事も大きく載ることが少なかった。それほど頻繁にも掲載されず、ボツになることも珍しくはなかった。

 中間選挙が終わった結果の報道も東京本社からは同様の鈍い反応を示された。要するに日本側のアメリカ中間選挙への関心は伝統的に低かったのである。

 ところが今回の2022年11月のアメリカ中間選挙は異なっていた。日本側の関心が異例なほど高かったのだ。私は今回は7月、8月、9月とワシントンに拠点をおき、中間選挙へと進むアメリカの状況を考察した。その状況を記事にして日本に送った。そして投票日の11月8日には東京に戻って、中間選挙の結果を追ったのだった。

 その事前と事後の中間選挙への考察としてまず痛感したことは日本側での関心の高さだった。新聞やテレビをはじめとする日本の主要でメディアではまず事前に「アメリカ中間選挙はどうなるか」式の報道があふれていた。私自身が送った記事も中間選挙の事前も事後も幅広く報じられた。

 選挙の投票、開票の11月8日の当日とその夜(現地時間)は日本のメディアの報道の勢いはまるで自国の選挙であるかのように、敏速で綿密、かつ広範だった。NHKが主要ニュースの時間にアメリカの議会選挙の開票、集計の途中経過を画面の下を流れるテロップで伝えている様子はまさに日本の選挙並みの扱いだった。

 さてこの日本側の関心の異様な高さはなにが原因だったのだろう。

 ドナルド・トランプ前大統領というドラマ性に満ちた異端の政治家が共和党の総参謀のように活動していたことがその理由の一つかもしれない。

 

 だがそれよりもなによりも、私はいまの日本が直面した国難に近い危機がその最大の理由だったと思う。

 

 日本は中国の武装艦艇により固有の領土の尖閣諸島の日本領海を常時、侵略されている。その中国は台湾への威嚇の軍事大演習では日本の排他的経済水域(EEZ)内に5発もの弾道ミサイルを撃ち込んだ。決してミスではなく予定通りの行動だと中国当局は胸をはる。それでなくても中国の人民解放軍は日本全土を射程に納める各種ミサイルを1000基以上も保有しているのだ。

 北朝鮮も日本の方向にミサイルを頻繁に撃ってくる。日本列島を越えて飛ぶミサイルもあった。同時に日本に対しては主敵のアメリカの追従国と断じて「核兵器で海底に沈めるべき国」だとまで糾弾する。

 そして今年2月に起きたロシア軍のウクライナ侵略は軍事力で主権国家の領土を奪うという無法行為の極として、日本の非軍事の対外姿勢を瓦解させる効果を発揮した。

 日本への軍事的な脅威や危険が現実に迫ってきたのだ。そんな外的変動に対して日本は同盟国アメリカの軍事抑止力にまず依存するほかに方法はない。

 日本が戦後最大の危機を迎えた現状ではアメリカがどこまで日本を支援してくれるのかは、最も気がかりな点となったわけだ。そのアメリカの動きを知る目前の最大の方法がアメリカのこんごの政治動向を決める今回の中間選挙だということになる。

 だからアメリカの国政では民主党が勝つか、共和党が勝つか、あるいはバイデン現大統領が優位となるか、トランプ前大統領が優位に立つか、熱のこもった視線が向けられたのだといえよう。

 私はそんな解釈だった。

(その2につづく)

写真)民主党全国委員会主催のイベントで民主党の下院での勝利を祝い、共和党の「赤い波」に飲み込まれるのを防いだと述べる、ジョー・バイデン大統領とカマラ・ハリス副大統領。(2022年11月10日 米国・ワシントンDC)

出典)Photo by Samuel Corum/Getty Images




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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