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.政治  投稿日:2023/1/8

ハコモノ白書は「パンドラの箱」秦野市② 「高岡発ニッポン再興」その43


出町譲(高岡市議会議員・作家)

【まとめ】

・公共施設に関するデータを集約し、現場を取材して完成した秦野市の「ハコモノ白書」。

・既得権、エゴ、事なかれ主義、もんだ族。浮き彫りになった問題の数々。

・白書は、公共施設に関し、行政や住民にとって都合の悪い情報もさらけ出した。

 

秦野市は、どうやって公共施設に切り込んだのでしょうか。

まず、実施したのは、公共施設について、管理課に調査書を送付したことです。そこに、土地の面積、建物の面積、建設時期、耐震補強、利用者数、維持管理費などを書き込んでもらいました。


そのデータを集約し、現場も取材して、できあがったのが、200910月に公表した「ハコモノ白書」です。

高岡市も公共施設白書をつくっていますが、秦野市の8年後の2016年です。秦野市では、志村さんが中心となり、作成に没頭しました。公共施設は、国などの補助金でかつて争うように造られたものばかりでした。


財政が豊かな時代。公共施設を建設する際、建て替えの費用など計算していなかった実態がわかったのです。

当時、役所の中では、国から補助金はいくらで、一般財源をいくら充てるか、そんな議論ばかりでした。住民も、利用者数は少なくても自分の家のそばに欲しいと要求したといいます。人口が減少し、税収が落ち込む時代を想定していなかったのです。

カリスマ公務員・志村さんの表現は生々しい。

「白書はまさに『パンドラの箱』です。既得権、あるいはエゴといったものも見えてきました。また、役所の中の前例踏襲とか、事なかれ主義とか、そういうものが全部浮き彫りになったのです」。


「パンドラの箱」とはギリシャ神話に出てくる言葉です。あらゆる災いが詰まっている、開けてはならない箱です。ただ、この箱には最後に「希望」が残ったといわれています。


志村さんはそういう意味で、ハコモノ白書は最後には将来世代への希望となるようにしたいと意気込んでいました。

さらには「内なる敵」もいました。役所の中の「もんだ族」です。

「もんだ族」というのは、「世の中こんなもんだ」「○○とはそういうもんだ」という発想から抜け出せない公務員のことです。つまり、彼らは、前例踏襲や縦割りを重視するのです。


さまざまな「抵抗勢力」が跋扈(ばっこ)する中、秦野市は全国の自治体でいち早く、その問題に着手。志村さんは振り返ります。

「当時の企画総務部長は課長と課長補佐だった私に『3人でサンドバッグになろう』と言っていましたが、まさに『もんだ族』からサンドバッグ状態でした。『将来世代のために頑張れ』とよく部長に言われました。体調を崩すほどプレッシャーがかかりました。正直、サンドバッグになりたくないというのが本音でした」と笑っていました。


白書は、市内にある457のすべての公共施設の現状と課題を挙げました。一つ一つの公共施設について、実に具体的なデータを盛り込んでいたのです。

例えば、公民館。それぞれの公民館の稼働率や利用者数だけでなく、時間別の稼働率や部屋別の稼働率などをデータで示しました。


大事なのは細かいデータです。インターネットの予約システムから、データを入手できました。わかってきたのは、どの公民館も稼働率が極めて高い時間帯は午前中で、部屋は大会議室でした。住民から公民館が足りないという声を聞きますが、実は、使いたい時間と部屋が集中しているだけだったのです。


「利用者の数だけを比べて、少ない方だけを廃止して、多い方に統合する。これをやると失敗すると思う」。


志村さんのデータの分析によれば、稼働率の高い公民館と低い公民館の違いは、夜間に使われているかどうかです。夜間あまり使われていない公民館については、学習塾などに貸し出したほうがいいというのが志村さんの考え方です。時間貸しで使用料をとれば、市の財政に貢献するというのです。

そして、子供たちの教育にも役立ちます。学習塾が駅前のビルを借りて塾を運営する場合、家賃も高いのです。子供が負担する月謝は3万円ほどになるかもしれません。一方、公民館を開放すれば、コストダウンが可能となります。家賃ではなくて時間に応じた使用料でやれば、月謝は大幅に下がる可能性があります。


縦割りで外から実態の見えなかった公共施設だが、白書を作成することで、さまざまな利用方法が浮かび上がりました。白書は、行政や住民に都合の悪い情報も包み隠さず、さらけ出した。それではどのように実行に移したのでしょうか。

(③につづく。はこちらから)

トップ写真:神奈川県秦野市役所

出典:りょっち07/PhotoAC




この記事を書いた人
出町譲高岡市議会議員・作家

1964年富山県高岡市生まれ。

富山県立高岡高校、早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。


90年時事通信社入社。ニューヨーク特派員などを経て、2001年テレビ朝日入社。経済部で、内閣府や財界などを担当した。その後は、「報道ステーション」や「グッド!モーニング」など報道番組のデスクを務めた。


テレビ朝日に勤務しながら、11年の東日本大震災をきっかけに執筆活動を開始。『清貧と復興 土光敏夫100の言葉』(2011年、文藝春秋)はベストセラーに。


その後も、『母の力 土光敏夫をつくった100の言葉』(2013年、文藝春秋)、『九転十起 事業の鬼・浅野総一郎』(2013年、幻冬舎)、『景気を仕掛けた男 「丸井」創業者・青井忠治』(2015年、幻冬舎)、『日本への遺言 地域再生の神様《豊重哲郎》が起した奇跡』(2017年、幻冬舎)『現場発! ニッポン再興』(2019年、晶文社)などを出版した。


21年1月 故郷高岡の再興を目指して帰郷。

同年7月 高岡市長選に出馬。19,445票の信任を得るも志叶わず。

同年10月 高岡市議会議員選挙に立候補し、候補者29人中2位で当選。8,656票の得票数は、トップ当選の嶋川武秀氏(11,604票)と共に高岡市議会議員選挙の最高得票数を上回った。

出町譲

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