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.国際  投稿日:2023/1/18

日米メディア 首脳会談評価の違い


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2023#3」

2023年1月16-22日

 

【まとめ】

・米国メディアには、岸田バイデン首脳会談に好意的な記事が多かった。

・ワシントンポストは、「弱肉強食のリアルポリティークの時代に回帰する世界レベルのターニングポイント」と書いた。

・こうしたグローバルな視点からの的確な指摘は日本では少ない。

 

新年も早、三週目に入った。毎週火曜日午後に生出演させてもらっている「フジテレビライブニュースイット」でも、今週は天皇陛下御一家がDr.コトー劇場版をご覧になった話とか、スマホの使い方や東京都の子育て支援策など、幸い、というか、困ったことに、大きな国際ニュースのコメントがなかった。比較的平和な週なのかもしれない。

という訳で、今週は先週行われた岸田首相の欧米出張を取り上げよう。前回は「総理外遊をネタにした内政・政局記事のお粗末さ」について書いたが、一部のメディアはどうやら相変わらずのようだ。そこで今週は、岸田首相の海外出張を日米のメディアがどうコメントしたかについて、勝手にコメントしてみたい。

米国メディアをざっと見た限りで、今回の岸田バイデン首脳会談には好意的な記事が多かった。岸田総理もバイデン大統領もそれぞれ内政上難題を抱えているといった(間違いではない)報道はあるが、この日米首脳会談がバイデン大統領の支持率回復に貢献しない・・・などといった的外れの記事は、少なくともアメリカの主要紙には見られない。

最も良く書けているのはワシントンポストの記事だった。ヘッドラインは「Japan PM Kishida and Biden summit talks mark a turning point」「Biden and Kishida bolster the U.S.-Japan security relationship」。ニューヨークタイムズでも「Biden and Kishida Vow to Bolster U.S.-Japan Alliance as China’s Power Grows」とある。

少なくとも、日本の某紙社説のように「自衛隊と米軍の一体化加速や日本の防衛費急増が地域の軍拡競争に拍車をかけ、地域の安定を損ねることにならないか憂慮する」などといった懸念の声を聞かれない。むしろこうした動きが「地域の安定に資する」という観点から書かれたものが殆どだった。

特に、ポストの記事は日本の変化をドイツのそれと比較しつつ、こう書いている。時間がないので原文しかご紹介できないが、「some analysts contend that the Zeitenwende (ターニングポイントの意)is about more than just Germany — indeed more than just Europe — and that the world forged in the wake of the explosion of the war in Ukraine reflects an end to idealism in the international system and a return to more hard power-based realpolitik.」

要するに「世界で、戦後の国際主義、理想主義の時代は終わり、再び弱肉強食のリアルポリティークの時代に回帰するという世界レベルのターニングポイント」だというのだ。ところが、こうしたグローバルな視点からの的確な指摘は日本では少ない。主要紙の社説を批判的な順に並べるとこうなる。

<社説>軍事協力「深化」 日米安保の変質を憂う:東京新聞

(社説)日米首脳会談 国民への説明 後回しか:朝日新聞

日米首脳会談 緊張制御する安保戦略を:毎日新聞

[社説]日米同盟の深化で世界の安定に貢献を:日経新聞

日米首脳会談 強固な同盟は国際秩序の要だ:読売新聞

日米首脳会談 世界の平和へ結束示した 同盟の決意を中朝は見誤るな:産経新聞

某タブロイド紙の「岸田首相は欧州歴訪の効果なく前途多難…支持率回復の足を引っ張る・・・」ほど酷くはないが、内容は良くも悪くも、ポスト紙記者が指摘する「第二次大戦後のan end to idealism in the international system」を象徴するような旧態依然とした論調だと思う。日本メディア外報部・国際派の奮闘をお願いしたい。

〇アジア 

17日に発表された中国の統計で、2022年末の総人口は前年末から85万人減り、世界第2の経済大国は人口減少の段階に入ったと報じられた。人口が減り始めること自体は驚かないが、問題はそのスピードとインパクトである。大きな変化は我々が想像するより早く来るかもしれないので要注意だ。変な国だね、それにしても。

〇欧州・ロシア

ドイツの国防相がウクライナをめぐる不適切な発言などの責任を取って辞任したそうだ。同国防相は去年、軍事支援を求めるウクライナにヘルメットを供与することを決めたり、ハイヒールを履いて軍隊を視察したり、息子を軍のヘリコプターに乗せるなどで、資質が問われていたそうだが、そういえば、日本でも似たようなことがあったな。

〇中東

WSJのウォルター・ラッセル・ミードのコラムで、サリバン米大統領補佐官のイスラエル訪問について、「イスラエル新政府の立場はすべて、バイデン政権の政策的選好および、米国の多くのリベラル派やユダヤ人が深く抱いている社会的・文化的信念に反する」と書いた。日本メディアでは決して読めない記事だが、実は必読だと思う。

〇南北アメリカ

 インディアナ州のアパートで四歳の幼児がおむつ姿で銃を振り回している防犯カメラ映像が生放送で流れ、父親が育児放棄容疑で逮捕されたそうだが、アナ恐ろしや。さすがはアメリカである。これでも銃規制が進まないのは何故だろうか。理由は余りに根源的なものなので、解決策が見当たらない。米社会の怖さを感じる。

〇インド亜大陸 

 特記事項なし。今年はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

 

トップ写真:ホワイトハウスでのジョー・バイデン大統領と岸田文夫首相(2023 年 1 月 13 日 アメリカ ワシントン DC)

出典:Photo by Chip Somodevilla/Getty Images




この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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