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.国際  投稿日:2023/8/23

日米韓首脳会談「キャンプデービッド精神」とは


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2023#34

2023年8月21日-27日

【まとめ】

・日米韓首脳会合前、米国メディアの関心は予想以上だった。

・共同声明は「キャンプデービッド精神」

・三国連携の「制度化」は定着するのか?

 

今週は先週末にキャンプデービッド山荘で開かれた日米韓首脳会談を取り上げるが、まずはいつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きから始めよう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の専門家たちの今週の関心は次の通りだ。

 

8月22日火曜日 パキスタン前首相、収賄有罪判決に反論

【カーン前首相は5日に収賄罪で禁錮3年の判決を受け、8日には選挙管理委員会が今後5年間公民権停止を決定したため、国会議員の資格も失った。これで各種選挙への立候補も認められなくなるので前首相が反発するのは当然だが、名誉回復の道程は遠いだろう。】

カンボジア新議会、新首相を選出

【7月の総選挙で改選された下院がフン・セン首相の後継に長男フン・マネット氏を選出し、世襲による新内閣が発足する。フン・センは71歳で筆者と同世代だが、既に40年近く首相の座にあったのに、まだ息子を後継にして権力維持しようというのかね。権力欲は枯れないねぇ。カンボジアは王室も、首相府も世襲ということかい?】

南アフリカでBRICS首脳会議(24日まで)

【BRICSかぁ。随分色褪せたなぁ、と言ったら失礼か?】

 

8月23日水曜日 インド、月の裏側に軟着陸を目指す

【ロシアは21日に着陸に失敗したが、インドは探査機「チャンドラヤーン3号」で同国初の着陸を目指しているらしい。ちなみに、3日後の26日には宇宙航空研究開発機構(JAXA)が日本の実証機「スリム」で高精度の月面着陸に挑むそうだ。】

ジンバブエで大統領選挙

【ジンバブエではロバート・ムガベ前大統領死後初の選挙となるが、その公正性に疑問が生じている。選挙戦の一部として無料のフライドチキンが配られたなどと報じられたが、それ以上に問題なのは選挙自体に対する根本的な懸念や投票操作への恐れがあることだという。これは泥仕合になりそうだなぁ。】

 

8月24日木曜日 トルコとインドネシアの中銀が公定歩合を審議

【一か月前、トルコ中央銀行は政策金利を二か月連続で引き上げ、15%から17.5%となった。年38%台に及ぶ激しいインフレの抑制が目的だろうが、市場では「不十分」との見方が根強いが、今回はどうだろうか?】

インド、G20貿易・投資大臣会合を主催(25日まで)

【今のG20で新たな決定は不可能だろうね。】

 

8月25日金曜日 インド首相、ギリシャ訪問

ブラジル大統領、アンゴラ訪問(26日まで)

 

8月26日土曜日 ガボンで総選挙

【ガボンはアフリカ中部の産油国だが、現職のボンゴ大統領は、41年間政権の座にあり父でもある前大統領の死後、後継の大統領として君臨。父子で計55年間もボンゴを支配する「王朝」だが、現職の勝利は確実なのだそうだ。そういえば、今年習近平国家主席はこの大統領と会っている。中国は相変わらず独裁者が好きなようだ。】

さて、冒頭にも書いた通り、今週の筆者の関心事は日米韓首脳会議「キャンプデービッド精神」と題された共同声明だ。先週は米国出張中にNYTとワシントンポストから取材を受けたと書いた。幸い、筆者のコメントの一部が記事で引用されたらしい。理由は不明だが、恐らくタイミングが良かったということかなぁ・・・。

両社とも一回の取材は30分弱でかなり長々とコメントしたのだが、通常、あれだけ喋っても引用されるのはほんの一言、二言。引用個所は「中朝に対し『正しいメッセージ』を送る意味がある」とする部分だったが、なぜか「韓国野党勢力に対する強いメッセージにもなる」との部分は採用されなかった。この点はあまり関心がないのかなぁ。

それはさておき、この日米韓首脳会合前、たまたま筆者も別件で米国出張していたが、現地メディアの関心と評価は予想以上だった。キャンプデービッドといえば、1978年9月、米大統領がエジプトとイスラエル首脳を招き国交樹立やシナイ半島返還などの合意を仲介した場所。筆者は外務省入省直後だったので思い入れが深い。

なぜ今回の共同声明は「合意」ではなく「精神」と題されたのか?なぜ米側は首脳会談を急いだのか?三国連携の「制度化」は定着するのか?韓国の外交戦略は変わるのか?中国はどう出るか?韓国でゴールポストは再び動くのか?以上が筆者の問題意識だったが、これらについては今週の産経新聞に書いたのでご一読願いたい。

 

〇アジア 

政治空白が続くタイでタクシン元首相派の第2党が、激しく対立してきた軍に近い保守政党との連立政権樹立構想を発表したという。タクシン派の復権につながるのかもしれないが、これでタイ内政が安定するとは思えない。総選挙で第1党になった民主派政党を排除した大連立だから、国内の反対派は黙ってはいないだろう。

〇欧州・ロシア

デンマークとオランダがF16戦闘機をあわせて60機近くウクライナに供与するらしい。既に米政府も了解していて、年明けにも第一弾の6機が出発するという。ウクライナの要請にようやく答える形となったが、これって典型的な「兵力の逐次投入」ではないのかね?残念だが、これではウクライナは勝てないだろう。

〇中東

やや旧聞だが、サウジで映画「バービー」が公開されているそうだ。日本ではオッペンハイマー映画との関係で論じられたが、欧米など一部からはこの映画が描く人間社会が圧倒的な「男社会」だと批判されたそうだ。他方、クウェート、レバノン、アルジェリアなどでは公開禁止になったようで、「所変われば評価も変わる」ということか。

〇南北アメリカ

23日に米大統領選挙出馬予定の共和党候補者による初の討論会があるが、トランプ氏は参加しないそうだ。アイオワ州でトランプ支持率は断トツの42%で他の候補者を大きく引き離しているそうだが、それは討論不参加の正当な理由にはならない。困ったことだが、トランプ人気は本物、仮にトランプがいなくなっても長く続くだろう。

〇インド亜大陸 

特記事項なし。

今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真: キャンプデービッドでの三者会談後に共同記者会見に到着するユン・ソクヨル大統領、ジョー・バイデン大統領、日本の岸田文雄首相(2023年8月18日 米国メリーランド州キャンプデービッド)

出典:Chip Somodevilla/Getty Images




この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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