制度的に不可能な国連改革
島田洋一(福井県立大学教授)
「島田洋一の国際政治力」
【まとめ】
・国連は制度的に改革不可能。自由主義圏中心の有志連合を活性化させていくのが正解。
・中露両国が国内で批准手続きを完了しない限り、日本は永遠に常任理事国となれない。
・G7やQUADのような自由主義を基調とした有志連合に重心を移していくべき。
国連は制度的に改革不可能な組織である。無駄な期待を持つのではなく、「国連離れ」を積極的に進め、自由主義圏中心の有志連合を活性化させていくのが正解である。
国連組織中、最大の権限を持つ安全保障理事会は、拒否権を握る常任理事国5カ国に、ファシズム国家の中国とロシアが含まれ、ロシアのウクライナ侵攻非難決議すらできなかった(ロシアは拒否権発動、中国は棄権)。
効率化という観点において、国連諸活動の「改善」を図る道はある。米国のジョン・ボルトン元米国連大使(トランプ政権で大統領安保補佐官)は、その唯一の方法は運営資金の「割当拠出制」を「自発的拠出制」に改めることだという。
すなわち経済力=国内総生産(GDP)に応じて各国に拠出金を割り当てる現在のシステムを、各国が自主的判断で「機能的な事業にのみ資金を拠出し、コストに見合った結果を求める」システムに替える必要がある。
《国連も「市場テスト」に掛けようということだ。加盟国は、意義なしと判断した事業からは資金を引き揚げればよい。国連以外の事業体の方が効率的と判断すれば、そちらに資金を振り向ければよい。国連を優遇する理由はどこにもない》
日本では、中露が拒否権を持つこの異形の組織に跪拝する「国連第一主義」がいまだ根強いが、率直に言って国民の税金を浪費し、カモにされ続けるだけである。
国連は数多ある多国間フォーラムの一つに過ぎない。むしろ、G7(先進7カ国)やクアッド(日米豪印)のような自由主義を基調とした有志連合にできるだけ重心を移していくべきだろう。それら組織では中露は拒否権保有どころか、参加すら許されていない。
「安保理常任理事国入り」を、いまだに掲げ続ける外務省関係者も多い。国際ロビー活動と称して、相当な税金を費やしてもきた。しかし、常識的に見て実現可能性はない。
常任理事国に関しては、具体的に5か国の国名が国連憲章に列挙されており、日本が新たに加わる場合、憲章の改正が必要になる。
改正は、「総会の構成国の3分の2の多数で採択」された後、「安保理のすべての常任理事国を含む加盟国の3分の2によって批准」されねばならない(第108条)。
「すべての常任理事国を含む」という所がミソである。仮に「総会の3分の2」という第一関門を突破しても、中露両国が共に国内で批准手続きを完了しない限り、日本は永遠に常任理事国となれない。
そして中露が、「アメリカと同盟を組む日本」を新たに常任理事国に加えるような、自らに不利となる(得にならない)憲章改正案を批准するはずがない。
1965年に、非常任理事国を6から11に増やす憲章改正が行われたが、これは常任理事国から見て、自らの権限を弱めることなく「民主的ポーズ」を取れる程度の「改革」だったからに過ぎない。
見返りに中露の身勝手な要求を受け入れる土下座外交を展開すれば(それ自体論外だが)、逆にアメリカの批准を得るのが難しくなろう。米国では、条約(国連憲章改正案もそれに当たる)の批准には上院の3分の2の賛成が必要であり、過半数でよい日本などと比べハードルが高い。常任理事国入りにこだわるならば、日本としては、どう転んでも外交的泥沼にはまらざるを得ない。
2022年5月、来日したバイデン米大統領が、改めて岸田首相に対し「日本の常任理事国入り支持」を表明したが、リップサービス以上のものではない。
その他、現常任理事国の拒否権発動に制約要件を科すような改正についても、以上のメカニズムから、実現不可能である。国連への期待は捨てねばならない。
トップ写真:国連総会で演説する岸田首相 2022年9月20日 アメリカ・ニューヨーク
出典:Photo by Anna Moneymaker/Getty Images
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この記事を書いた人
島田洋一福井県立大学教授
福井県立大学教授、国家基本問題研究所(櫻井よしこ理事長)評議員・企画委員、拉致被害者を救う会全国協議会副会長。1957年大阪府生まれ。京都大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程修了。著書に『アメリカ・北朝鮮抗争史』など多数。月刊正論に「アメリカの深層」、月刊WILLに「天下の大道」連載中。産経新聞「正論」執筆メンバー。