無料会員募集中
.政治  投稿日:2023/2/1

オスプレイは陸自から海自に移管すべき


清谷信一(防衛ジャーナリスト)

【まとめ】

・陸自ではオスプレイの能力は活かせない。海自に移管し、いずも級DDHや特殊部隊用CV-22に換装すべき。

・ヘリ不足の陸自からオスプレイ運用を切り離し、浮いた予算で小型ヘリの調達を。

・統合運用の観点から、自衛隊間での装備や要員の移管、既存アセットの活用で防衛費増大を抑えるべき。

 

防衛省は陸自に米海兵隊が導入したMV-22オスプレイを導入し17機が調達され、導入総額は3600億円という巨額の予算が使われた。毎年これまた巨額の維持整備費が必要だが、陸自ではオスプレイの能力を活かせない。むしろ海自に移管して、空母化されるいずも級DDH(ヘリ搭載艦)や特殊部隊用のCV-22に換装すべきだ。

陸自へのオスプレイ導入は極めて政治的なものであった。在日米軍が導入するにあたって、「危険だ」との世論が強かったので、安倍政権時代に官邸と防衛省の一部内局の合作で安全性をアピールするために、陸自への導入が決定した。また同時に高価な米国製兵器を導入して米政府の歓心を買うためだっただろう。

決して陸自が望んでいたものではなかった。当時の岩田陸幕長は、政治的意味は理解できると3~4機程度であれば、と考えていたようだ。だが蓋をあけてみればまさかの17機もの導入となった。調達単価は100億円ほどだ。

オスプレイはティルト・ローター機で、固定翼モードではヘリより遥かに高速で飛行でき、また航続距離も長い。ヘリモードを使用すればヘリコプターのように垂直に離着陸できる。概ね従来のヘリコプターと比べて2倍のスピード、3倍のペイロード、3〜5倍の航続範囲を飛行可能である。ペイロードは24名の兵員、または貨物内部搭載が概ね4.5トン強である。兵士24名搭乗時の航続距離は600海里だ。

だが利点ばかりではない。欠点もある。米陸軍の航空隊トップだった将官によると米陸軍がオスプレイを導入しなかった最大の理由は、飛行特性にあるそうだ。オスプレイが着陸する場合には固定翼モードからヘリモードに切り替えるが、ヘリと較べてかなり長い時間を掛けて徐々に高度を落としていく必要がある。また、その際には空中機動性能がヘリよりも劣り、ヘリのような急旋回やダイブなどといった機動ができない。

またヘリのように側面にドアガンを装備することができない。スタブウイングも無いので、これに機銃やロケット弾、ミサイルなどを搭載して地上を制圧することもできない。そして速度が遅い攻撃ヘリではエスコートできない。つまり、地上に敵がいるような競合エリアではオスプレイによるヘリボーン作戦を行えば、敵の対空砲火によって撃墜される可能性は極めて高くなる。

オスプレイは速度では固定翼機にはかなわない。ターボプロップ式の典型的な輸送機C-130Jの巡航速度時速634キロに対してオスプレイは時速443キロに過ぎない。つまり、ヘリほどの器用な空中機動はできず、また固定翼機ほど高速はでないという、ある意味中途半端な機体である。

防衛省は2014年度の予算でティルト・ローター機の導入に向けた調査として1億円の予算を計上したが、期間はわずか半年程度。オスプレイ導入ありきのアリバイ工作と言われても仕方ない。そして防衛省がオスプレイの競合機として挙げたのがアグスタウェストランド社(元レオナルド社)のAW609である。同機は当時完成もしていなかったし、基本的にビジネスユースで搭載量も少ない。これを競合機というのは、トラックを更新しようとする運送会社が10トントラックも、軽自動車もタイヤが4つだから同じ自動車だ、と強弁するに等しい。この点からもオスプレイ導入のいかがわしさが伺える。(参照:『オスプレイ選定の不透明、対抗馬は商用機?』          https://toyokeizai.net/articles/-/51614

陸自の運用にオスプレイは向かない上に費用対効果が悪い。陸自の航空隊に予算の余裕はない。オスプレイの調達費用3600億円はおおむね陸自のヘリ調達予算の10~12年分である。オスプレイ1機の整備費は年間約10億円とされており、17機ならば170億円だ。対してこれまでの陸自のヘリの整備予算は年間220億円程度にすぎない。オスプレイはその3分の2を食うことになる。

オスプレイ導入前から陸自ヘリ部隊の稼働率は低く、パイロットの飛行時間も年80時間程度と大幅に減っている。オスプレイを導入できる余裕はどこにもなかった。昨今自衛隊装備の稼働率の低さが問題視されているが、陸自航空隊の低さを悪化させたのは安倍政権の政治決断といえるだろう。

このようなオスプレイだが海自ならばもっと有用に使えるだろう。それは先述のようにDDHへの搭載と特殊部隊用だ。

海自ではDDHに哨戒機の護衛艦の救難や、ヘリのエンジンやローターブレードなどの輸送のための汎用大型ヘリを導入するUH-X(次期多用途ヘリコプター)計画があった。UH-X選定に先だって平成23年度に開催された、海上自衛隊の直轄部隊の長が集まる最高意思決定機関である海上自衛隊会議において、候補機は大型で、できれば既存機との共用を考慮するという方向性が確認されていた。そうであれば始めから輸送・掃海ヘリMCH-101の一択しかなかった。

だが調達現場が、小さくて安いヘリがいいと独断専行で調達を歪めたことにある。しかし現場の推すUH-60系ではペイロードが小さく、哨戒機のクルー全員を救助できる能力も、ヘリのエンジンやブレードを運搬する能力も無かった。これはUHXで大型ヘリに予算を食われたくないという航空隊の「反乱」であるといえよう。このため武居海幕長は60系編重を見直すように指導した。それが、特定の機種の採用を強要したと非難された。この騒動でUHXのプログラム自体が霧消した。

(参照:『海自ヘリ選定巡る下克上と内局 その1』

    https://japan-indepth.jp/?p=34774

   『海自ヘリ選定巡る下克上と内局 その2』

       https://japan-indepth.jp/?p=34784

このUH-Xの代わりに陸自のオスプレイを転用すべきだ。実際に米海軍は、戦闘捜索救難、艦隊兵站支援、特殊作戦としてCMV-22B型を採用している。陸自のMV-22をCMV-22Bに換装して、海自が運用すべきだ。

オスプレイはランプドアを有しており、MCH-101ほどの搭載量はないものの、ヘリのエンジンやブレードなどは搭載できるだろう。また海面へのダウンウォッシュが大きいという点はあるものの、ストレッチャーやメディック装備を搭載した上で、哨戒機のクルー10名程度を救助することは可能だ。必要であれば島嶼防衛において、いずも級を拠点に陸自の水陸機動団や第一空挺団を輸送することもできる。

またこれに早期警戒レーダーを装備すれば艦隊の対空監視能力は飛躍的に向上する。どんなに水上艦のレーダー性能が向上しても地球は丸いので水平線を見越して探知はできない。このため、レーダーの索敵範囲が狭くレーダーの死角からの攻撃、特に低空からの攻撃機や巡航ミサイルなどからの奇襲攻撃を受けやすい。防御に対する対処時間も局限される。米海軍では空母搭載の早期警戒機としてE-2Dを運用しており、空自でもE-2Dが採用されているがカタパルトを持たないいずも級では運用できない。

 

(参照:

『軽空母の能力を最大にする為には~マンガ「空母いぶき」のリアリティ その2~』

http://japan-indepth.jp/?p=23242

英海軍は空母「クイーン・エリザベス」に、タレス社の早期警戒システム「CERBERUS」を採用した。これは英海軍が運用するAW101「マーリン」HM.2ヘリコプターに搭載するもので、ロールオン・ロールオフタイプがあり、汎用ヘリを利用することができる。海自の運用している掃海・輸送ヘリ、MCH-101はこの派生型運用が可能だ。しかしオスプレイにはシステムが大きすぎて搭載が難しいだろう。

だがこの選定で漏れたロッキード・マーチンUKが開発した、イスラエルのIAIエルタ製AESAレーダー「EL/M-2052」 を搭載したセンサーポッドを搭載すれば、オスプレイを早期警戒機として使用できる。オスプレイはヘリより遥かに長い航続距離を有しているので長時間耐空が可能である。同じシステムを無人機に搭載して併用するということもできるだろう。

いずも級は限定的とはいえF-35B戦闘機の運用を可能とするために改修を受けている。F-35Bのセンサーと情報処理能力は優秀であり、限定的には早期警戒にも使用できる。これと早期警戒化したオスプレイを組み合わせれば護衛艦隊に強い艦隊防御力を与えることが可能になる。

また特殊作戦用にも使用すべきだ。海自には特殊部隊として特別警備隊が存在し、2機のMCH-101は彼らのために仕様を変えている。また陸自では特殊作戦群が存在しており、彼らの輸送のため第一ヘリ団の第102飛行隊のUH-60JAを特殊作戦用に換装している。だがこれらでは特殊部隊の兵力投射用としては質量的に十分ではない。

他国では特殊部隊用に大型ヘリCH-47や固定翼のC-130などをベースにした機体を運用しているが、我が国にはそのような装備がない。更に申せば他国では水上艦艇や潜水艦も特殊部隊運用のために使用しているが我が国ではこれまた存在しない。

特殊部隊の兵力投射能力の欠如は大きな問題だ。本来島嶼防衛では特殊部隊はキーとなる存在だ。その特殊部隊を密かに侵入させる輸送手段を自衛隊はほぼ持っていない。オスプレイならばヘリより早く展開し、航続距離も長い。またUH-60に比べれば搭載量も大きい。特殊部隊用のC-130やCH-47をそれぞれ3~4機揃えるよりオスプレイ4機を装備した方が費用的にも安い。無論C-130やCH-47ほどの搭載量はないが、現状よりも遥かにましである。

陸自のMV-22は海兵隊用モデルで、特殊作戦には向いていない。対して特殊部隊用の機体は夜間を低空で飛び、自己防御システムも充実させるなどしている。特殊作戦にオスプレイを使用するならばCMV-22B、あるいは米空軍の特殊部隊用のCV-22に換装する必要がある。特殊作戦用に4機あれば1機を整備に出しても、2機を作戦用、1機は故障に備えたスペア、常に2機の作戦用機体が用意できる。特殊部隊用機の運用は陸自の第一ヘリ団で行ってもいいだろう。自衛隊の統合運用の観点からも問題はあるまい。残りの13機は補機、訓練用を含めて2隻のいずも級で運用すればよい。

オスプレイの運用を陸自から切り離せば、陸自航空隊には余裕が生まれる。浮いた予算をUH-2の調達を増やしたり、他の用途に使用できる。実は陸自ではヘリは足りない。特に観測ヘリOH-6が退役してからは小口輸送や連絡、小型ヘリが存在していない。これに中型ヘリのUH-2やUH-60を使用するのはコスト的にも割が合わない。

AH-64DやAH-1Sなどの攻撃ヘリ、偵察ヘリのOH-1は用途廃止の予定で、偵察や攻撃は無人機をあてることになっている。このため有人の偵察ヘリも存在しなくなる。だが有人偵察の必要性が全くなくなるわけではないし、サイバー攻撃を受けて無人機が使用できない場合も想定される。

陸自では戦時に戦傷隊員を後送するためのメディバックヘリが存在しない。前線から後方の師団レベルの野戦病院まで迅速に輸送する手段が存在ない。他国では当然のように存在している装甲野戦救急車の調達もこれからだ。陸自は汎用ヘリで兼用するといっているが現在のヘリの数であれば航空隊にその余裕はない。

写真)海自がTH-135として採用したH135

出典)海上自衛隊ホームページ

そうであれば連絡、小口輸送、偵察、メディバックを兼ねた小型ヘリを調達すべきだ。筆者はエアバスヘリのH-135M、より大型のH-145M、あるいはその米陸軍が州兵向けに導入している派生型のUH-72Bラコタが適切だと考える。その理由はこれらの機体がクラムシェルを採用しておりキャビンが広く使えて、ストレッチャーや偵察バイクの昇降が容易であることだ。このため民間のドクターヘリにも多用されている。

またHフォース(HForce)という容易にロールオン・ロールオフが可能な武装キットが存在する。陸幕は既存のヘリに武装を搭載する構想を持っている。であればUH-60やUH-2が対象となるが、その分だけただでさえ不足している輸送能力が減ることになる。しかもあらたに武装システムを開発することになり、コストも高くなる。むしろ軽汎用ヘリを導入し、これを武装ヘリにも利用するほうがリーズナブルだ。

写真)HForceを搭載したH145M

© Airbus Helicopters / Anthony PECCHI

また上記2機種は民間型が日本で多数運用され、エアバスヘリの国内整備工場が存在していること、更にH-145は川重とのジョイントベンチャーで半分日本製であること、UH-72Bは米軍との相互運用性が確保できることなど、利点が挙げられる。

さらに陸自の練習ヘリもこれらの機体にすれば有事にはこれらを予備の機体として利用できる。H135は海自でも練習ヘリとして使用している。H-145は機体がより大きく、練習ヘリには過大だが、有事の予備機を兼ね、訓練や整備の共用性を考えれば費用対効果は意外に高い可能性がある。

いずれにしても統合運用という観点から各自衛隊間で、装備や要員の移管を行って予算を有効的に使うべきだろう。単に予算さえ増やせば防衛力が強化できるわけでなく、既存のアセットを有意義に活用して防衛費の増大は最低限に抑えるべきだ。

トップ写真:富士総合火力演習で展示された陸自のオスプレイ(2022年5月22日 静岡・東富士演習場)

出典:Photo by Tomohiro Ohsumi/Getty Images

 




この記事を書いた人
清谷信一防衛ジャーナリスト

防衛ジャーナリスト、作家。1962年生。東海大学工学部卒。軍事関係の専門誌を中心に、総合誌や経済誌、新聞、テレビなどにも寄稿、出演、コメントを行う。08年まで英防衛専門誌ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー(Jane’s Defence Weekly) 日本特派員。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関「Kanwa Information Center 」上級顧問。執筆記事はコチラ


・日本ペンクラブ会員

・東京防衛航空宇宙時評 発行人(Tokyo Defence & Aerospace Review)http://www.tokyo-dar.com/

・European Securty Defence 日本特派員


<著作>

●国防の死角(PHP)

●専守防衛 日本を支配する幻想(祥伝社新書)

●防衛破綻「ガラパゴス化」する自衛隊装備(中公新書ラクレ)

●ル・オタク フランスおたく物語(講談社文庫)

●自衛隊、そして日本の非常識(河出書房新社)

●弱者のための喧嘩術(幻冬舎、アウトロー文庫)

●こんな自衛隊に誰がした!―戦えない「軍隊」を徹底解剖(廣済堂)

●不思議の国の自衛隊―誰がための自衛隊なのか!?(KKベストセラーズ)

●Le OTAKU―フランスおたく(KKベストセラーズ)

など、多数。


<共著>

●軍事を知らずして平和を語るな・石破 茂(KKベストセラーズ)

●すぐわかる国防学 ・林 信吾(角川書店)

●アメリカの落日―「戦争と正義」の正体・日下 公人(廣済堂)

●ポスト団塊世代の日本再建計画・林 信吾(中央公論)

●世界の戦闘機・攻撃機カタログ・日本兵器研究会(三修社)

●現代戦車のテクノロジー ・日本兵器研究会 (三修社)

●間違いだらけの自衛隊兵器カタログ・日本兵器研究会(三修社)

●達人のロンドン案内 ・林 信吾、宮原 克美、友成 純一(徳間書店)

●真・大東亜戦争(全17巻)・林信吾(KKベストセラーズ)

●熱砂の旭日旗―パレスチナ挺身作戦(全2巻)・林信吾(経済界)

その他多数。


<監訳>

●ボーイングvsエアバス―旅客機メーカーの栄光と挫折・マシュー・リーン(三修社)

●SASセキュリティ・ハンドブック・アンドルー ケイン、ネイル ハンソン(原書房)

●太平洋大戦争―開戦16年前に書かれた驚異の架空戦記・H.C. バイウォーター(コスミックインターナショナル)


-  ゲーム・シナリオ -

●現代大戦略2001〜海外派兵への道〜(システムソフト・アルファー)

●現代大戦略2002〜有事法発動の時〜(システムソフト・アルファー)

●現代大戦略2003〜テロ国家を制圧せよ〜(システムソフト・アルファー)

●現代大戦略2004〜日中国境紛争勃発!〜(システムソフト・アルファー)

●現代大戦略2005〜護国の盾・イージス艦隊〜(システムソフト・アルファー)

清谷信一

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."