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.国際  投稿日:2023/2/16

「オフレコ破り」は情報ソースとの信頼破壊行為


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2023#7」

2023年2月13-19日

 

【まとめ】

・総理秘書官がLGBTQ+関連「オフレコ発言」問題で更迭されてから10日。

・「オフレコ」とされていた発言が「オンレコ」になった経緯には疑問が残る。

・事実を引き出すためには情報ソースとの信頼関係が不可欠だが、「オフレコ破り」はその信頼を根本から破壊する行為だからだ。

 

お約束通り、今週は「オフレコ破り」論議の続きを書こう。官邸の事務総理秘書官がLGBTQ+関連「オフレコ発言」問題で更迭されてから10日ほど経ったが、あのニュースについてはどうしても腑に落ちない不可解な点がある。

おっと、誤解のないように正確に申し上げるが、筆者が理解し難いのは某秘書官の発言内容ではない。 

あの種のLGBTQ+差別発言は公言すれば一発レッドカードで、弁護の余地はない。もしあの発言が日本社会一般の感度の低さを象徴するのであれば残念だが、今回筆者が理解し難いと思うのは、同秘書官の「オフレコ発言」が「オンレコ扱い」になった経緯である。事件が報じられた当時、海外にいた筆者は正直、半信半疑だった。 

帰国してようやく事実関係の詳細が見えてきた頃、先週ご紹介した元国連広報担当事務次長を務めた赤阪清隆大使の批判的小論を読んだ。これで、それまでモヤモヤしていた筆者の疑問は明確になった。

筆者の問題意識はLGBTQ+差別に止まらず、日本のジャーナリズムの「質」に関わる。改めて赤坂氏の主張を3点に要約しよう。

①毎日新聞は「首相秘書官の人権意識を重大と判断したが、実名報道はオフレコという約束を破るので、同秘書官に実名で報道する旨を事前に伝えた上で」実名で報じたというが、事前通報に対し同秘書官がどう応じたかを毎日新聞は説明していない。 

②オフレコを解除することについて同秘書官が同意しなかったか、返答する機会がなかったのであれば、毎日新聞は「オフレコ破り」をしたことになる。 

③仮に「発言内容が社会的に重大であり、より大きな公益にプラスとなる場合はオフレコ破りが許される」というのなら、そうした議論は国際的に通用しない。 

 この結論には筆者も全面的に同意する。筆者の論点とコメントは次の通りだ。 

①実名で報道しないという「オフレコ」の約束はどの程度効力があるのか? 

筆者の知る限り、成文による合意はない。となると、「オフレコ」の約束は口頭もしくは慣例となるが、仮に文章になっていなくても、約束自体は民法上有効である。 

②毎日新聞は総理秘書官に何を伝えたのか? 

「実名で報じたい」と伝えれば民法上は契約解除要請となり、特段の定めがない限り、解除は両当事者間の合意に基づくはずだが、秘書官がこれに同意した形跡はない。

 

③総理秘書官に実名報道を拒否する権利はあるか? 

当然あるが、拒否したかどうかは不明だ。いずれにせよ、口頭による「オフレコ」約束に「発言内容が重大である場合は一方的に契約解除できる」権利は含まれない。 

④毎日新聞が総理秘書官の同意がないまま実名を報道する権利はあるのか? 

民法上、解除には法定解除と約定解除がある。法定解除権は債務不履行や納品物の瑕疵などの場合認められるが、今回はそれに該当しない。また、同秘書官のオフレコ発言が如何に不謹慎でも、「公序良俗」に反する「不法行為」とまでは言えない。 

⑤総理秘書官はなぜ損害賠償を請求しないのか? 

不明である。人によっては告訴を考えるかもしれない。 

⑥この種の「オフレコ破り」は日本以外でも行われているのか? 

途上国の記者ならともかく、欧米先進国のジャーナリストで毎日新聞の行動を支持する者はいないだろう。そんな記者は自分がジャーナリストでないことを公言するに等しいからだ。 

なぜ、かくもクドクドと書くのか、と訝る向きもあるだろう。「オフレコ破り」については筆者も昔似たような経験を持っているので、どうしても一言モノ申したいのだ。

もう40年近く前の出来事だが、「オフレコ」約束の上で話した内容を、ある記者が「これはオフレコにできない」と言い出して、大騒ぎになったことがある。詳細は「オフレコ」だが・・・。

 

それ以来、筆者は日本人記者との間では「オフレコ約束」が成り立たないことを悟り、漏れても良い内容しか喋らなくなったという意味でも、悲しい体験だった。 

要するに、約束を守らない記者、つまり信用できない人には「事実を伝える必要はない」と思うようになったということだ。

日本人の記者の少なくとも一部はこの40年間、もしくはそれ以上の期間、全く進歩していない、ということなのだろうか。これ以上書くと関係者から嫌われるのでもう止めるが、筆者は決してそうだとは思いたくない。 

ジャーナリズムの本質は「事実を伝える」ことであり、「権力をチェックする」ことは、その副次的効果に過ぎない。このことを理解しない日本の一部の記者は、後者を優先するあまり、前者を蔑ろにしていると思う。事実を引き出すためには情報ソースとの信頼関係が不可欠だが、「オフレコ破り」はその信頼を根本から破壊する行為だからだ。 

 

〇アジア  

世界中で中国のスパイ気球もどきの話が報じられているが、全てが中国のモノと決まったわけではない。それよりも、気になるのは近年中国が高度1〜2万メートルの高度での情報収集活動を本格化させているという事実である。アメリカは漸くその問題に対処し始めたに過ぎない。高度2万メートルでの米中露などの戦いは続くだろう。 

 

〇欧州・ロシア 

ロシアとウクライナが第一次大戦型の長期消耗戦を戦う中で、アメリカは第二次大戦型の機動力による決着を目指している、といった分析が最近NYTに載っていた。消耗戦であればロシアが勝つ可能性も出てくるからだが、決着を急げば今度はロシアが暴発する可能性も高まる。戦争は新たな段階を迎えつつあるようだ。 

 

〇中東 

トルコ南西部とシリアの北西部の大地震による犠牲者が4万人を越えそうだ。心から哀悼の意を表するが、それだけでは被災者は救われない。特に、今も内戦が続くシリア側の状況は最悪だ。アサド政権が本気で救出活動をしようとするとは到底思えないだけに、心が痛む。 

 

○南北アメリカ 

ニッキーヘイリー元国連大使が2024年の大統領選に名乗りを上げた。副大統領候補狙いだと思うが、トランプ政権入りするまでは州知事を務めたこともあり、良い政治決断だったと思う。問題はトランプ氏の支持率が共和党内で今も47%あり、このままでは共和党が割れる可能性すらあること。困ったことである。 

 

〇インド亜大陸  

 特記事項なし。今年はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。 

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出典:SimonSkafar/GettyImages




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