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.国際  投稿日:2023/3/20

在米中国大富豪、郭文貴の逮捕


澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)

【まとめ】

・10億米ドル(約1332億円)超の詐欺を企てた亡命中国人実業家の郭文貴はニューヨークで逮捕。

・郭文貴は「反共」という名目で“信者”を呼び集め、“信者”の富を収奪。

・協力した余建明は逃亡中。彼の「親中」の属性から考えると、郭文貴は米国世論を攪乱するための“中国スパイ”だった可能性否定できず。

 

今年(2023年)3月15日午前、亡命中国人実業家の郭文貴は10億米ドル(約1332億円)超の詐欺を企てた首謀者としてニューヨークで逮捕された。米当局は、詐欺の疑いのある6億3千万米ドル(約839億円)以上を押収(a)した。

ニューヨーク南地区検察官のダミアン・ウィリアムズとFBIニューヨーク支局のマイケル・ドリスコは、郭文貴と余建明(Kin Ming Je、別名William Je)の起訴状12件―電信詐欺、証券詐欺、銀行詐欺、マネーロンダリング等の容疑―を公表した。なお、香港と英国の二重国籍を持つ余建明は現在逃亡中という

郭文貴は、自分と郭の近親者のために5万平方フィート(約1万5240㎡≒約4618坪)の豪邸を購入し、350万米ドル(約4億6600万円)相当のフェラーリを保有していた。更には3万6000米ドル(約479万円)相当の2枚のマットレスを購入し、3700万米ドル(約49億2700万円)相当の豪華ヨットを保有するなど、フォロワーから詐取したカネで私腹を肥やしていた容疑で起訴されている。

2017年初め、郭文貴は、中国メディア、明鏡(Mirror Media Group。創立者は何頻)のテレビインタビューに応じ、多数の中国共産党有力者の汚職疑惑に関するスキャンダルを暴露し、瞬く間に多くの世論を巻き起こした(b)。 

その後、VOAのインタビューでも、中国共産党上層部の内情を明らかにした。当時、政治局常務委員だった王岐山とその部下の家族の腐敗、及び王岐山と女性芸能人(范冰冰か)の不倫など、目を引く内容を数多く暴露し、ネット上で大きな支持を集めている。

ただし、明鏡が郭文貴の放送をやめた途端に、何頻と明鏡は郭に攻撃されたという。何は「郭や郭の組織の力が、私達に対し悪質な濡れ衣を着せ始めた」と語っている。

今回、米当局の起訴状によると、郭文貴は2018年、主にメディアプラットフォーム「GTV」、コミュニティ構築スキーム「Himalaya Farm Union」、高級会員制スキーム「G CLUBS」、暗号通貨プラットフォーム「Himalaya Exchange」の4つのプロジェクトスキームで資金調達を始めた(c)。郭は、資金調達の名目でカネを集めて、さまざまな方法でマネーロンダリングしていたという。

郭文貴による詐欺被害者に多数インタビューしている独立系監督、何楊は、郭詐欺被害者の大部分は10万米ドル(約1332万円)前後を投資しており、数千人が10万米ドル以上を失い、中には前後に数百万米ドルを投資した人もいるのではないかと述べている。

何陽は、郭文貴の成功は「カルト」的だと考えている。郭は「反共」という名目で“信者”を呼び集め、情報の閉鎖的なコミュニティを作り、郭を信じない者を罰する、いじめや脅迫を行う。郭は自分を「ゴッドファーザー」としてパッケージングした後、“信者”の富を収奪するという手口だった。

よく知られているように、郭文貴は、スティーブ・バノン元トランプ上級顧問と親交があった。郭の「新中国連邦」という“政府”は、バノンや郝海東(中国サッカー界のレジェンド)の協力の下、創設されている

3月15日午後、「新中国連邦」の一部メンバーは郭文貴裁判に出席した。ある者は議事録を作成し、ある者は法廷をスケッチするなどしている。法廷の外では、20人以上の“信者”が「新中国連邦」の「国旗」を掲げて、郭支持を表明していた。裁判中、郭文貴も、時折、支持者に声援を送っていた

ところで、余建明は、昨2022年2月、英国で「香港人協会」を立ち上げ、香港人のBN(O)ビザによる英国定住を支援(d)するとしていた。だが、余自身が「親中派」であることから、その意図に疑問が持たれている。

実は、余建明は、かつて重慶市中国人民政治協商会議のメンバーであり、香港の親共産主義統一戦線グループである「香港青年会」の執行委員長を務めた。在任中、周融ら「建制派」(親中派)の人物が創立した「保普選反占中大連盟」(Alliance for Peace and Democracy)に加わり、香港の「雨傘革命」などの民主化運動に対抗している

また、余建明は、元招商証券(香港)のマネージングディレクターで、マッコーリー銀行の中華圏株式市場会長を10年間務めた。2015年3月、余は同銀行を退職し、郭文貴がトップであるACA Capital Limitedグループ(阿中資本集団)のACA Systemの取締役社長に就任している。なお、余建明は暗号通貨「Himalaya Exchange」の創設者だという。

結局、郭文貴は「反中」を標榜しながら、実際は、米国世論を攪乱するための“中国スパイ”だった可能性を否定できないのではないか。

 

〔注〕

(a)『米国のスタンス』「速報:郭文貴がニューヨークで逮捕される」(2023年3月15日付)

(https://news.creaders.net/us/2023/03/15/2587404.html)

(b)『米国のスタンス』「中国の大富豪、郭文貴が逮捕される、真実は完全には明らかにされていないか?」(2023年3月15日付)

(https://news.creaders.net/us/2023/03/15/2587687.html)

(c)『米国のスタンス』「郭文貴の『富のコード』:反共の旗を掲げ、10億米ドル超の富を蓄える」(2023年3月15日付)

(https://news.creaders.net/us/2023/03/15/2587626.html)

(d)『米国のスタンス』「郭文貴詐欺事件 容疑者の余建明は親中派の素性」(2023年3月15日付)

(https://news.creaders.net/us/2023/03/15/2587656.html)

トップ写真:亡命中の中国の億万長者郭文貴がニューヨークで逮捕された(2023年3月15日、アメリカ・ニューヨーク)出典:Photo by Spencer Platt/Getty Images




この記事を書いた人
澁谷司アジア太平洋交流学会会長

1953年東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。元拓殖大学海外事情研究所教授。アジア太平洋交流学会会長。

澁谷司

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