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.国際  投稿日:2023/3/12

中国共産党による在米中国人の監視


澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)

【まとめ】

・テクノロジーが共産党の独裁的支配をグローバルへと拡大し、監視は以前より広範囲かつ高度になっている。

・中国共産党が、「海外警察署」を設置し、外国籍を取得した華人やすべての在外中国系の人達をモニタリングしている。

・在米中国人デモ隊はニューヨークで、中国共産党の監視に対する抗議の声を上げている。

 

過去70年以上、中国大陸の支配者、中国共産党は政敵に対する支配を徐々に海外にまで拡げてきた。今日、伝統的な「マンツーマン」方式の監視は続いている(a)という。だが、新たなテクノロジーが共産党の独裁的支配をグローバルへと拡大し、監視は以前よりはるかに広範囲かつ高度になっている

5年前(2018年6月)、オーストラリアのシンクタンク、豪戦略政策センターが報告書を発表し、北京は海外華僑・華人が経営している企業に対し監視装置を設置しようとしてきたという。

報告書の著者、中国の国家安全保障政策の研究者であるサマンサ・ホフマンは「このシステムは、自国民に対する政治統制を強化するだけでなく、国際的企業や華僑・華人社会にも影響を与え、他国の主権に直接干渉しかねない」と批判している。

昨2022年暮れ、CNN、ボイス・オブ・アメリカ(VOA)等は、中国共産党が欧州やアフリカ諸国との二国間安全保障協定を利用して、100以上の「110海外警察サービスセンター」、通称「海外警察署」を設立し、亡命中の中国人を監視し、時には中国へ送還していると報じた(b)。 

北京は、“国際犯罪対策”という名目で、世界各地に「海外警察署」を設置し、公安部管轄の下、中国の法律を執行している。もし、この機関が「狐狩りプロジェクト」―約2万人の汚職官僚、あるいは指名手配中の犯罪者だけを調査して帰国させるだけならば良い。しかし、同署は、外国籍を取得した華人や(台湾や香港の出身者を含む)すべての在外中国系の人達をモニタリングしているという。

昨2022年3月、米連邦捜査局(FBI)は、中国共産党の代理人として秘密裏に活動した容疑でスパイ5人を逮捕(c)した。彼らが尾行・嫌がらせ・監視した被害者のうち2人は、米国五輪フィギュアスケート選手の劉美賢(アリサ・リュウ)とその父親である有名な民主運動家、劉俊である。

さて、一般に、多くの人々は、中国共産党による監視や脅威をなかなか理解・認識できないが、その実態は想像以上(d)だという。北京は、人工知能(AI)、高度なアルゴリズム、ビッグデータ技術、超高速コンピューターデータ処理システムを通じて、世界中で知的監視網を積極的に構築している

また、中国共産党は、以下の如く、様々な方法で在米中国人の情報・データを収集している。

(1)携帯電話にインストールされた色々なアプリ(TikTok等)を通じて情報を収集する。これらのソフトのサーバーは中国本土にある。

(2)米国でオンラインショッピングをすると、その情報が第三者によって北京に売られたり、中国のハッカーによって入手されたりする公算が大きい。

(3)在米中国人が利用する中国語のオンラインショップで買い物をすると、ユーザー情報が中国本土に不正に送信される恐れがある。

(4)中国共産党は、米国のサービス業から利用者の情報を違法に収集することもできる。例えば、中国系クリニックの医療記録、各種保険の中国系代理店などからである。

(5)米国内のカメラをハッキングすることによっても、利用者の情報を違法に収集できる。米国で購入できる監視カメラ機器の多くは中国で生産されており、そのソフトウェアも同国で設計・開発している。これらの脆弱性が高く、中国のハッカーに簡単にハッキングされてしまう。

(6)前述の通り、米国内にある中国の「海外警察署」も北京が必要とする情報を収集している。

(7)中国共産党は米国で私立探偵や弁護士を雇い、情報を収集することもある。

(8)米国の大学や大学院の学生組合を通じて情報を収集する。

(9)インターネットを通じて、先端技術を利用し公開情報を収集する。

北京が収集した膨大なデータで、監視システムはより正確になるかもしれない。そして、監視対象者が「どこへ行くのか?何をするつもりなのか?」等、ある種の予測機能ができあがるだろう。

ところで、以上のような中国共産党の監視に対し、2月25日、台湾訪問から帰国したばかりのマイク・ギャラガー米下院中国問題特別委員会委員長、及び200人以上の在米中国人デモ隊は、先にFBI捜査官が捜索したニューヨークのチャイナタウン近くの場所前でデモに臨み、抗議の声を上げている(e)。

 

〔注〕

(a)『VOA』「『マンツーマン』、ビッグデータ、中国共産党の監視の手は海外華人にまで伸びる」(2018年6月30日付)

(https://www.voachinese.com/a/china-extending-monitoring-regime-worldwide-20180629/4461215.html)

(b)『聯合新聞網』「世界日報社説/中国共産党は海外警察署を設立し、華人を監視して公民権を侵害」(2022年12月17日付)

(https://udn.com/news/story/6812/6845797)

(c)『米国の立場』「米国は中国共産党の侵入を阻止、海外華人は同党の『長腕迫害』を非難」(2023年3月3日付)

(https://news.creaders.net/us/2023/03/03/2583584.html)

(d)『中国瞭望』「中国共産党による在米中国人への監視:想像を絶する」(2023年2月26日付)

(https://news.creaders.net/china/2023/02/26/2581639.html)

(e)『万維ビデオ』「強烈! 『中国委員会主席』、チャイナタウンで中国共産党の秘密警察に抗議」(2023年2月26日付)

(https://video.creaders.net/2023/02/26/2581675.html)

トップ写真:北京 2022 年冬季オリンピックの 13 日目に、女子シングル スケート フリー スケートで演技するアメリカ代表アリサ・リュー(中国・北京 2022年2月17日)出典:Photo by Amin Mohammad Jamali/Getty Images




この記事を書いた人
澁谷司アジア太平洋交流学会会長

1953年東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。元拓殖大学海外事情研究所教授。アジア太平洋交流学会会長。

澁谷司

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