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.国際  投稿日:2023/3/22

バイデン大統領をどう評価するか その5(最終回)機密文書流出事件の行方


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・共和党、バイデン氏息子のスキャンダル追及。トランプ氏は依然強い影響力。

・機密文書流出など現政権の揺れは共和党側の変動と合わせ米政治の機能低下を思わせる。

日本側は、米外交の動きが日本の国益を害さないように、行動と言明を発し続けることが望まれる。

 

連邦議会下院で多数派となった共和党議員からはさらに鋭い詰問が出た。

「トランプ氏には家宅捜索という強制捜査が実施されたが、バイデン氏にはなぜそれがないのか」

「バイデン氏の民間事務所だった研究所の母体ベンシルべニア大学が近年、中国系組織から合計5500万ドルの寄付を受けたという記録があるが、この事務所の開設や機密文書の流出は中国と関係があるのか」

中国がらみの疑惑がこんなところにも出てくる点に、いまのワシントンでの「中国とのかかわり」の負のイメージの強さがよくわかる。

共和党といえば、下院の同党は組織としてバイデン大統領の次男ハンター氏の中国やウクライナの腐敗企業との結びつきに不正があったとして大規模な追及を始めた。ハンター氏が父親の副大統領時代にこれら外国企業から異様に巨額のコンサルタント料などを受け取っていた事件である。

一方、共和党側では依然、トランプ前大統領が大きな影響力を保っている。昨年11月の中間選挙で共和党が予想ほどは議席を増さなかった点をとらえて「トランプ氏は敗北した」とする民主党側の願望まじりの判断は日本の大手メディアでも登場しているが、どうしてどうしてトランプ氏は現時点で次回の大統領選への出馬を公式に宣言した唯一の候補者なのである。しかも下院の多数を制した共和党議員の間でもトランプ氏の影響力はなお強い。

しかし共和党側ではトランプ政権時代の国連大使だった女性政治家のニッキー・ヘイリー氏が大統領選への名乗りをあげた。フロリダ州の若手知事のロン・デサンティス氏やトランプ政権時代の副大統領のマイク・ペンス氏、同じく前国務長官のマイク・ポンぺオ氏らも出馬への関心を示している。

だがこれら共和党候補たちに共通するのは、みないずれもトランプ氏の下で保守政治を推進し、民主党リベラル派の政策を非難してきたことである。しかも現時点でもトランプ氏を正面から批判する候補は出ていない。だから共和党側でのトランプ氏の敗北を明示する動きはまだなにもないのだといえる。

今後注視されるのは、共和党側の大統領選予備選に向けての候補者選びの戦いである。前述のようにその正規の候補者はトランプ氏だけなのだ。この長く険しい予備選での争いでトランプ氏が敗れるか、倒されるかして初めて「トランプ氏の敗北」が実現するのだ。この目標の達成は今の共和党側の他の候補にとってはきわめて難しい作業だといえよう。

一方の民主党側では、バイデン大統領に対して、つい最近起きた機密文書流出の衝撃波がどのように作用していくか。どうしてもそこで浮かぶのはバイデン政権全体としての混迷とか混乱という言葉となる。こうした現政権の揺れは野党の共和党側の変動と合わせて、当面のアメリカ政治の機能低下をも思わせる。

ただしこの状態がアメリカの完全な分裂だとか、民主主義の終わりだとする日本側の一部での断定は的を外している。この種の混乱や対立はアメリカの二党政治のいわば宿命、あるいは常態なのである。保守とリベラルの対立はいつの時代でもあったのだ。そして保守とリベラルの両陣営内部での混乱も新しい現象ではない。

両陣営のせめぎあいは、いわば振り子の揺れとみる方が正確だろう。民主主義国家アメリカの超大国としての基本の枠組みは健在なのだ。ただし、その政権を握るバイデン大統領の今後2年ほどの統治の質を占うとき、その同じ振り子でも負への傾きが普段よりは激しいということだろう。その種の揺れや傾きは同盟国の日本にも必ず普段とはやや異なる波を送る危険は十分に予想される。

日本側としては当面、アメリカの国政、つまり内政と外交の実態を正確につかみ、そのアメリカの外交面での動きの状況が日本の国益を害さないように、そのための行動と言明をためらわずに発し続けることが望まれよう。

(終わり。その1その2その3その4

**この記事は月刊雑誌『正論』2023年4月号に載った古森義久氏の論文「国際情勢乱す米国政治の混迷」の転載です。

トップ写真:ナショナル・クリスマスツリー点灯式に参加するハンター・バイデン氏(左)とバイデン大統領(2022年11月30日ワシントンD.C.)出典:Photo by Kevin Dietsch/Getty Images




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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