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.国際  投稿日:2023/4/16

仏、年金改革施行へ デモ過激化


Ulala(著述家)

フランスUlalaの視点」

【まとめ】

・仏の年金受給年齢が引き上げられた。

・デモは継続的に行われると予測される。

・「絶対に諦めないでやり通す」マクロン氏のモットーが波紋広げる。

 

フランスでは15日、とうとう年金の受給開始年齢を62歳から64歳に引き上げを含む年金改革法案が公布された。

14日に行われた憲法会議では、エマニュエル・マクロン大統領が推進してきた年金改革法について合憲と判断され、その夜のうちにマクロン大統領が署名し15日付けの官報で発表された。官報に掲載されついうことは「公布」を意味し法的な効力が発生するということでもある。これにより9月はじめには新しい制度が実施される見通しだ。

年金改革にまい進したエリザベット・ボルヌ首相は14日の夜に、合憲と判断されたことを受け「この夜、勝者はいないし敗者もいない」とツイート。また、17日の20時からマクロン大統領による国民に向けての演説が放送される予定となっており、18日の火曜日には労働組合との話し合いの席がもうけられる。

◾️ 年金制度改革に対する反対デモ

この年金改革の法案が憲法会議の前日13日、および、14日に合憲とされたあとにはデモ活動が行われていた。そのデモ活動は近年過激化しており、13日には「LVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)」本社も襲撃された。LVMHの2023年度1期目の売上高は前年同期比17%増で、210億3500万ユーロ(約3兆789億円)を記録しており、株価も史上最高値になっていたところだ。デモ隊は、年金制度の財源は労働者から絞り取るのではなく、多くの収益を得ているLVMHから引き出すべきだと主張している。この襲撃にとどまらず、そのほかにもパリでは大きな衝突が複数の場所で起こっておりデモ時には毎回混乱した状態となる。

また、14日には、フランス西部レンヌで警察署が放火された。その後すぐに消防隊により火は鎮火されたが、特にレンヌでは人数自体は少ないものの、ブラックブロックと見られるグループがデモの度に破壊活動することが多くなった。住民はより高級そうな車ほど破壊される可能性が高くなるため、グループがいる場所から車を退避するなど警戒を余儀なくされている。

しかしながら、全体のデモ自体への参加者は急激に減少している。13日には、労働組合のCGTの発表によれば150万人以上、内務省によれは38万人の参加者となった。4月6日のデモ参加者は、CGTの発表では200万人、内務省の発表では57万人だったことを考えれば、いかに減少したかがよくわかる。

今後はデモ参加人数がさらに減少していくとみられるが、それでも年金改革に対するデモは継続されることとなっており、すでにSNCFなどは17日の木曜日にストをする予定だ。

◾️ マクロン氏の発言

マクロン氏は5〜7日の中国訪問時、「フランスは米中問題に巻き込まれてはいけない」とした発言をして波紋を広げたが、マクロン氏の発言は曲解できる部分があるのか、理解されないことが多い。そのため台湾の件に関しては、ブリュノ・ル・メール経済相が、アメリカのFOXニュースや、フランスメディアなどからインタヴューを受けて説明をし続けて対応していた。

ル・メール氏は、マクロン氏と多くの会合で常に意見を交換しており、マクロン氏の台湾に関する発言は、波紋を広げているような意図での発言ではないことを説明。そして、米国との関係はこれからもさらに強くなり、もちろんながら中国へのけん制は行っていくとしている。しかしながら、これ以上、紛争が増えることは望んでおらず、平和を願っていることは間違いない。

だが、台湾の発言からまだ幾日もたっていないのにもかかわらず、またもやフランス国内では、ノートルダム大聖堂の工事現場を訪れたマクロン氏の発言が問題になった。

4年前にノートルダム大聖堂が火災になり、5年で再建することを宣言したマクロン氏。4年間の工事で大きく前進したことを称えながら

「あきらめないこと、それが私のモットーです。Ne rien lâcher, c’est ma devise」

と言ったのが問題になったのだ。

というのも、この発言をした日が年金改革法案の憲法会議が行われる日であったため、「年金改革法案成立をあきらめない」という挑発と受け取られたのである。

話題がノートルダム大聖堂のことだったのに、どうして年金改革法案と紐づけるのだろう?と、多少こじつけ感がぬぐえないものの、フランスでは年金改革法案を念頭に言った言葉だというのが多くの人の解釈だ。それほどマクロン氏の発言には敏感になっている時期であったとも言える。

だが、この発言を受けて思い出されるのは、なんと言っても大統領選前にマクロン氏の妻であるブリジット夫人が発した言葉である。記者からの質問で大統領選のことを聞かれたときに、「一度、こう決めたら、最後までそれをあきらめず達成する人です」と答えていた。当時は、それを聞いたときには、そのあきらめない気持ちがあったからブリジット夫人と結婚できたのかと思いをめぐらしたものだが、実際の話、「絶対にあきらめないでやり通す」ことは、マクロン氏の性格でありモットーなのだろう。

ノートルダム大聖堂の再建の話をしながら、本当に年金改革法案について考えながら「あきらめない」と発した言葉であるかはおいといても、事実、あれだけ困難だと思われていた年金改革法案は公布された。フランスの将来を考えたその「あきらめない心」が多くの人を動かし、年金改革を達成したといえるだろう。

まだまだ反対デモは続いていくだろうが、今後、新年金制度の施行準備も着々と進められていくことも間違いない。

<参考資料>

「あきらめないでください。それが私のモットーです」とエマニュエルマクロンはノートルダムサイトへの訪問中に言いました。

@Conseil_constitは、本案と手続きの両方で、私たちの憲法に従って改革を判断しました。

テキストは、その民主的プロセスの終わりに近づいています。

今夜は勝者も敗者もありません。

https://www.huffingtonpost.fr/politique/video/reforme-des-retraites-le-siege-de-lvmh-a-paris-envahi-par-des-manifestants_216537.html

https://www.liberation.fr/economie/social/en-direct-reforme-des-retraites-suivez-en-direct-la-douzieme-journee-de-mobilisation-de-ce-jeudi-13-avril-20230413_WSI3TKVETBBMPPB4Z6CUTB3GX4/-*

Macron fails to move Xi Jinping over Russia’s war on Ukraine – POLITICO

トップ写真:フランスのリールで、年金改革に抗議してリールの通りをデモ行進するデモ隊が、エマニュエル・マクロン大統領の写真入りで「年金生活者、血を流す」と書かれたパネルを掲げている。(2023年2月7日)出典:Photo by Sylvain Lefevre / Getty Images




この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー

日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。

Ulala

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