「LGBTの治療」禁止法案、仏で可決
Ulala(著述家)
「フランスUlalaの視点」
【まとめ】
・仏国民議会、LGBTの「転向療法」を違法とする法律の改正案を全会一致で可決。
・仏では現在でも、同性愛嫌悪に基づく暴力が社会に根強く残っている。
・性自認の矯正を禁止する法律は、すでにドイツ、マルタ、スペインの各地域などで法制化。間もなくベルギー、オランダ、イギリスも。
2022年1月25日、フランスの国民議会で、LGBTの人々の性的指向や性自認を矯正しようとする、いわゆる「転向療法」を正式に違法とする法律の改正案が全会一致で可決された。この結果、性自認の矯正を目的に、身体的または精神的な影響を与えた場合は、最高で2年の懲役刑と3万ユーロ(約385万円)の罰金が科されることになった。
■ ヨーロッパにおけるLGBTの歴史
ヨーロッパにおけるLGBTは、長い間不遇の時代を送ってきた。西洋のルーツとも言われる古代ギリシャ、ローマ、ケルト社会では、同性間の関係は非常に一般的だったのにもかかわらず、キリスト教がローマ帝国の国教になり、同性愛に対して厳しい法律ができてから状況は一変した。
390年のテオドシウス1世皇帝の勅令では、同性愛者は公の場において火あぶりとされ、529年のユスティニアヌス1世のローマ法大全では、同性愛行為を行ったすべての人に去勢と処刑が規定された。その後もほとんどのヨーロッパ諸国では、長い間、同性愛者の行動が敵視され多くの人が迫害されてきたのだ。
しかし、フランスでは、一時的にその項目がなくなった時期がある。それはフランス革命後の1791年に出された全ての自由と平等を認めた新刑法だ。しかし、再び1942年8月6日、ヴィシー政権では、再び「自然に反する行為」とされ同性間の性行為を禁止して懲役6ヶ月から3年および罰金刑を課された。この法律により、社会における同性愛嫌悪に基づく迫害や暴力が再開したのだ。
1949年には、パリ警察によってバーにおける男性同士のダンスを禁止するなどの規制もできた。そのうえ、1960年、ドゴール政府は、アルコール中毒の対処とともに道徳的な見地から同性愛の制約を目的とし、刑法改正においても330条の「自然に反する」行為を公然わいせつ罪として6ヶ月から3年の懲役とした規定を残したのだ。さらに、1968年、フランスは精神疾患において、同性愛を性的異常とするOMSの分類を取り入れている。
こうした状況がようやく終わるのはミッテラン大統領の時代だ。同性愛者の権利保護を公約として掲げていたミッテラン政権がまず最初にしたことは、公然わいせつ罪及び18歳未満の性関係によって服役している同性愛者の恩赦。また同性愛を精神疾患リストから削除した。そしてついに1982年、刑法331条を改正し、同性愛を刑事法の処罰規定から削除した。これにより同性愛に関する処罰規定は消滅して、フランスでようやく同性愛の非犯罪化が実現したのである。
■ フランスが同性愛が非犯罪化してから40年
写真)マクロン仏大統領とシュルツ独首相 2022年1月25日
出典)Photo by Michele Tantussi – Pool/Getty Images
フランスでのその後の法的な権利は急激に向上した。1999年には、同性愛でもパートナーとして登録できるPACS(Pacte Civil de Solidarité,連帯民事契約)が制定され、2013年には、EU諸国の中で9番目の国として同性婚を認められるようになった。しかしながら、それでも現在でも、同性愛嫌悪に基づく暴力が社会に根強く残っていることも事実だ。
また、一部の宗教の宗派を中心に、現代になってもLGBTが認めらず、なんとか変えさせようと、「催眠」、「ホルモン」、「薬療法」、「電気ショック」、「悪魔払い」、または異性愛者との「強制結婚」によって治療しようと試みる行為が行われている。
この種の「治療」は、特にプロテスタントの福音派と、カトリック系一部の宗派において目立つというが、ユダヤ教やイスラム教系のものもある。こういった行為は、個人のアイデンティティを著しく傷つける行為である。そこで、今回の性自認を矯正することは違法であると法制化されたのだ。
この法制化を受け、同性愛者であるマクロン政権の欧州大臣兼中道政治家、クレマン・ボーヌ氏も、「フランスでは転向療法は禁止されています!権利と平等のための大きな勝利。この法案に投票してくれた国会議員に感謝します」とツイート。
https://twitter.com/CBeaune/status/1486023663937888261
マクロン大統領も、「性自認を矯正することを禁止する法律が満場一致で採択されました!誇りに思いましょう。これらの価値がない慣行は、共和国にはふさわしくありません。なぜなら、自分らしくあることは犯罪でもなく、治すものでもないのですから」とツイートし、この動きを称賛した。
https://twitter.com/EmmanuelMacron/status/1486033113499279360
性自認を矯正することを禁止する法律は、すでにドイツ、マルタ、スペインの各地域などの国々がこの問題について法制化しており、間もなくベルギー、オランダ、イギリスが加わる予定である。今回の法制定で、フランスもそのヨーロッパの流れに足並みをそろえる形にもなったのである。
写真)非公式のゲイプライドに参加する人たち。2020年6月27日 フランスのパリ
出典)Photo by Kiran Ridley/Getty Images
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この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー
日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。