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.国際  投稿日:2023/12/27

規制厳格化、新移民法で揺れるフランス


Ulala(著述家)

フランスUlalaの視点」

【まとめ】

・フランスは新たな移民規制を盛り込んだ法律を制定。

・不法移民の規制に加え、人材不足が深刻な分野で働く移民を受け入れる環境を作ることにも重点が置かれた。

・オリンピックに向け、テロの抑止や経済活動への効果が期待されている。

 

フランス国民議会は19日、不法移民に対する規制強化、およびフランスが必要としている職業に着く移民の規制緩和をもりこんだ新たな移民法案を賛成多数で可決した。これを受け、マクロン大統領が20日に公共テレビのインタビューで法案の意図を説明した。

◼︎ 議論もせずに国民議会で否決の大波乱

移民法案が出されるたびに反対派によりいろいろかけひきがあるのはいつものことだが、今回はいつも以上に大波乱の様相となった移民法案の審議。なんと、上院で移民法案が採択された喜びもつかの間、11日に国民議会で議論することなく否決されたのだ。

これは環境政党が提出した法案の否決動議に、左派および、国民連合、中道右派の共和党までもが同意したことによる。270票が否決に賛成し、反対と5票差で否決動議が採択された。今回の政権では与党連合が過半数の議席を取れていない。過半数をとれていない状態で法案を通すことのむずかしさを改めて痛感させられることとなった。

移民法案が否決されたことを受け、主導して法案をまとめたダルマナン内務大臣は辞職を願いでたが却下され法案を最後まで見届けることが求められた。国民投票を求める声も高まる。フランス人の80%がこれ以上外国人を歓迎すべきではないと考えており、国民投票すれば確実に移民法案に賛成の票が集まると予測されたからだ。しかしながら 国民投票は議論が始まる前にすでに行わないことが決定している。

こういった状況が起きた場合は、3つの選択肢が用意されている。一つ目は上院に法案をこのまま戻し議論し直す方法。二つ目は上院、国民議会の代表で作る委員会で話し合い、合意地点を引き出す方法。三つ目は議会採決なしに法案を成立させる憲法49条3項の特例を用いる方法だ。

マクロン大統領は移民法案に憲法49条3項を使うべきではないとしており、またすでに議論し終えた上院に法案を戻しても最適な結論がでることはない。そこで上院、国民議会から各7人の代表が集まる委員会にて話合いで結論を出すこととなった。

◼︎さらに移民に厳格になった移民法

フランス政府がこの法案を作成するにあたって何度も繰り返していたのは、「フランス人を守ること」である。

そのため、現在のように国外退去命令が出されてもすぐに実行されない状態、もしくは問題があるとわかっているのに国外退去命令自体を出せない状態から抜け出すことを目標にしていた。近年、不法滞在者によるテロや事件が定期的に起こっていたことも影響している。反対にフランス国内で人材不足が深刻な分野で働いてもらえる人々を迅速にフランスで働ける環境を作りだすことにも重点が置かれている。それがダルマナン内務大臣が呼びかけていた「追放すべき人を迅速に追放し、歓迎すると決めた人たちをもっとうまく統合していきましょう」というフレーズだ。

しかしながらこの二本柱の政府案は、上院で審議されることにより厳格化した。上院は共和党などで構成する右派が過半数の議席を占めるため、右派の意見が反映されやすかったのだ。

具体的には、家族呼び寄せ規則の厳格化や、不法滞在者でも医療が受けられる国家医療援助(AME)を取りやめ緊急医療援助(AMU)に切りかえること、また、親の国籍を問わず出生した場所がフランス国内であれば国籍を自動ではなく申請が必要になるように変更すること等だ。

上院で採択された法案を、左派は「歴史上、移民に一番冷たい移民法」と批判した。その批判の行きついた先が国民議会での否決だったのだ。しかしながら否決され合同委員会で話し合いが行われたことにより、最終的には上院が出した移民法案よりもさらに厳しい内容の法案が採択されることとなった。政権側が右派の支持を得るため外国人への福祉給付金支給の条件厳格化などを盛り込んだためである。

だが、採択された法案に対するフランス国民の満足度は高い。BFMTVのエラブ調査の結果では、質問を受けたフランス人の70%が移民法案に満足していると答えた。またそのうち43% は、バランスが取れていると評価している。

◼︎ より安全で魅力ある人材が集まるフランスに

フランスには、自国が全く戦争状態ではないのにもかかわらず亡命と偽って来る入国者が多くいる。マクロン大統領はテレビに出演し、不法移民に対処できない状態はまったく効率的ではないと説き、今回の移民法の必要性を説明した。しかしながら、留学生に求められた「保証金」については批判している。よりよい人材をフランスにひきつけるためにもフランスに留学するハードルをあげるべきではない。大統領がこのように採決された法案に対して批判することは異例であるが、それほど魅力ある人材、必要な人材がより多くフランスに集まることを重要視しているからだ。

いずれにせよ、基本的には政府が望んだ方向での法案が採択された。2024年はパリでオリンピックが開催される年。テロなどを起こす可能性がある人物を強制退去しやすくし、フランス社会が回っていくのに必要な人材の受け入れをより迅速に行えるようになったこの法案は、もちろんオリンピックの安全性、快適さを向上させるだろう。移民法が厳格化されることにより、2024年のフランスがどのように変わっていくのか、引き続き見届けていきたい。

<参考リンク>

Sondage : 80% des Français estiment qu’il ne faut pas accueillir plus de migrants en France(調査: フランス人の80%が、これ以上の移民をフランスに受け入れるべきではないと考えている)

Loi immigration: 70% des Français interrogés sont satisfaits du texte, selon un sondage Elabe移民法: エラブの調査によると、質問されたフランス人の 70% が条文に満足している)

Après le vote de la loi immigration, les départements dirigés par la gauche refusent d’appliquer cette mesure polémique(移民法に関する投票後、左派主導の省庁はこの物議を醸す措置の適用を拒否した)

トップ写真:会談前にエリゼ宮殿でチェコのペトル・パヴェル大統領を出迎えるマクロン大統領(2023年12月20日パリ・フランス)出典:Antoine Gyori – Corbis/Corbis via Getty Images




この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー

日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。

Ulala

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