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.国際  投稿日:2023/4/24

第1四半期の中国経済指標と「国退民進」


澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)

【まとめ】

・国家統計局今年(2023年)第1四半期を4.5%増と発表。

・1990年から近年まで中国の雇用問題で顕著な特徴は「国退民進」。

・2013年以降、およそ5分の1の外資系企業が中国から撤退したことになる。

 

周知の如く、中国の発表する数字はあまりあてにならない。

国家統計局今年(2023年)第1四半期を4.5%増だと発表(a)した。普通、GDPは投資消費・貿易黒字・政府支出」の合計である(中国の場合、投資の中に政府主導のモノが含まれる)。

まず、第1四半期の固定資産投資(農家を除く、以下、同様)は10兆7282億元で前年同期比5.1%増(b)である。次に、同期の消費財小売総額は11兆4922億元で、同5.8%増(c)である。

そして、同期の中国の輸出入総額は9兆8900元で、前年同期比4.8%増加(d)した。そのうち、輸出は5兆6500億元で同8.4%増輸入は4兆2400億元で同0.2%増だった。したがって、GDPに関係する貿易黒字は1兆4100億元である。だが、最後の政府支出に関しては謎である。

以上の数字を見る限り、疑問が残るだろう。なぜなら、一般に、投資と消費がGDPの70~80%を占める。その2つが第1四半期では5.1%増と5.8%増なのにもかかわらず、GDPの成長率が+4.5%にとどまっている。

▲表 出典:筆者作成

改めて数字を検証してみよう。

今年第1四半期の固定資産投資は10兆7282億元(前年同期比5.1%増)で、昨年同期の固定資産投資は10億4872億元(e)である。

今年と去年の数字を計算(10兆7282億元/10億4872億元)すると、+2.3%にしかならない。それを+5.1%成長とするのは、当局による“改竄”ではないか。

また、中国は(消費と違って)投資に関して、単月の数字を出していない。なぜか1-3月とか1-4月とか累計で発表する。数字をわかりづらくしようという意図が透けて見える。

実際、2023年3月単月で、固定資産投資が微増した。1-3月(10兆7282億元)から1-2月(5兆3577億元)(f)を引けば、5兆3705億元となる。5兆3705億元/5兆3577億元は、0.02%増である。

だが、今回、当局は3月の固定資産投資は前月(1-2月比)0.25%減とした。季節調整を加味したのではないか。

ただ、投資に関して、今年の第1四半期5.1%成長とは言うものの、その中身が問題だろう。

今回、民間の投資がわずか0.6%増である。一方、同期は国有持株による政府主導の投資が10.0%だった。仮に後者が無ければ、中国経済はもっと悪いはずである。

実は、2021年の第1四半期は(2020年は数字が悪いので、2019年同期比)+25.6%で、民間投資が26.0%増、政府投資が25.3%増(f)だった。また、2022年の第1四半期は、前年同期比で+9.3%、民間投資は8.4%増、政府投資は11.7%増(g)である。

一昨年と昨年には、まだ民間投資には勢いがあった。だが今年、民間企業の投資意欲が失われた観がある(「国進民退」現象か)。

ところで、1990年から近年まで中国の雇用問題で最も顕著な特徴は「国退民進」だった。国有単位(公務員・公企業・事業所の職員を含む)の就業者数は1990年の70.2%から2019年の12.6%に激減(h)している。

民間企業への就職シェアは1990年の0.4%から2019年には33.5%に激増し、自営業者への就職シェアも4.2%から26.9%に上昇した。2019年には両者を合わせて60.4%を占め、中国における就職の主流となっている。総雇用増加数に対する自営業者の新規雇用の比率は、2018年は82.1%と高く、2019年も同様に70.7%と高かった。このような数字は、雇用の7~8割を自営業者に依存していると言えよう。

他方、かつて人気のあった外資系企業への就職が、2013年に9.1%のシェアをピークに、その後、減少を続け、2019年には5.4%まで落ち込んでいる(絶対数では、2013年の2963万人から2019年には2360万人へと、603万人<20.4%>も減少)。外資系企業の雇用減少幅は大きく、2013年以降、およそ5分の1の外資系企業が中国から撤退したことになる外資の「脱出潮」)。

例えば、中国を代表する外国投資家であるオランダの投資グループ、プロサスと日本のソフトバンクグループは、最近、共に中国からの撤退を加速(i)させた。

〔注〕

(a)『国家統計局』「2023年第1四半期GDP速報値」(2023年4年19日付)

http://www.stats.gov.cn/sj/zxfb/202304/t20230419_1938791.html

(b)『国家統計局』「2023年1-3分全国固定資産投資は5.1%増」(2023年4年18日付)

http://www.stats.gov.cn/sj/zxfb/202304/t20230418_1938708.html

(c)『国家統計局』「2023年3月の消費財小売総額は10.6%増」(2023年4年18日付)

http://www.stats.gov.cn/sj/zxfb/202304/t20230418_1938710.html

(d)『中華人民共和国中央人民政府』「国務院新聞弁公室、2023年第1四半期の輸出入に関する説明会を開催」(2023年4月13日付)

http://www.gov.cn/lianbo/2023-04/13/content_5751295.htm

(e)『国家統計局』「2023年1—2月全国固定資産投資(農家を除く)5.5%増」(2023年3月15日付)

http://www.stats.gov.cn/sj/zxfb/202303/t20230315_1937194.html

(f)『中華人民共和国中央人民政府』「2021年1-3月の全国固定資産投資(農家を除く)は25.6%増 2019年1-3月より6.0%増」(2021年4月16日付)

http://www.gov.cn/xinwen/2021-04/16/content_5599966.htm

(g)『中華人民共和国中央人民政府』「2022年1-3分全国固定資産投資(農家を除く)は9.3%増」(2022年4月18日付)

http://www.gov.cn/xinwen/2022-04/18/content_5685745.htm

(h)『中国瞭望』「中国における就業の最後の柱も崩壊した」(2023年4月16日付)

https://news.creaders.net/china/2023/04/16/2598387.html

(i)『中国瞭望』「止まらない『出国潮』 誰も習近平を信じていない」(2023年4月13日付)

https://news.creaders.net/china/2023/04/13/2597290.html

トップ写真:上海モーターショー(2023年4月21日中国・上海)出典:Photo by Zhe Ji/Getty Images




この記事を書いた人
澁谷司アジア太平洋交流学会会長

1953年東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。元拓殖大学海外事情研究所教授。アジア太平洋交流学会会長。

澁谷司

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