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.国際  投稿日:2023/4/28

台湾の「統独問題」再考


澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)

【まとめ】

・3月の世論調査によると「台湾人の多くが安定と継続性を望んでいる」。

・台湾は中華人民共和国から統治されていないのに、どのように同国から「独立」するのか。

・「台湾独立」とは台湾が「台湾共和国」となり「新憲法」を制定することではないか。

 

今年(2023年) 4月22日付『RFA』「ボルトン4月末に台湾訪問:2024年米大統領選候補の筆頭格に」(a)というコラムの中に、次のような記述があった。

「3月に台湾で実施された公式世論調査では、回答者の90%近くが現状維持を支持し、独立の加速を支持する人は5.3%、統一の加速を支持する人は1.1%にとどまった。これは、台湾の人々が安定とその継続性を望んでいることを裏付けた」という(ちなみに「台湾独立」については、のちに詳述する)。

後半部の「台湾の人々が安定とその継続性を望んでいる」という部分は、記述の通りだろう。

だが、前半部では極めて大雑把な表現で「現状維持」が一括りされている。だが、それには、もう少し細かい分析が必要なのではないだろうか。

と言うのは、「現状維持」の中身が問題である。これでは、まるで大部分の台湾人が「現状維持」だけしか望んでいないかのようである。果たして、そう決め付けて良いのだろうか。それに関しては、他の見方や解釈があると思われる。

そこで、別の論考『米中ストーリー』「台湾地区の人々の『統独スタンス』と『アイデンティティ』について」(2023年4月11日付)(b)も参照してみたい。

こちらは、幾つの世論調査を基にして、様々な角度から分析しているので、前掲のコラムより優れていると言えよう。例えば、著名な台湾国立政治大学選挙研究センターの世論調査を引用している。

ここでは、2つの事柄について言及したい。

第1に、「永遠に現状維持」を望む人達である。

おそらく、彼らの頭には、“中国との統一”という選択肢はないのではないか。しかし、声を大にして「台湾独立」を叫べば、中国共産党による台湾侵攻を招きかねない。そのため、とりあえず「現状維持」と言っている公算が大きい。したがって、“本音”は「台湾独立」と考えられるだろう。彼らは本来、“消極的独立派”と呼ばれるべきかもしれない。

そこで、いわゆる“積極的独立派”(「すぐに独立」8.1%+「現状維持し、その後独立」37.7%)と“消極的独立派”(「永遠に現状維持」12.4%)を合計すると、「台湾独立派」は58.2%にものぼるのではないか。

第2に、(語弊があるかもしれないが)「現状維持し、その後、様子を見て統一か独立を決める」(29.6%)という“日和見的”な人達がいる。台湾人の中には、そう考える人が少なくない。だが、仮に、その半数(14.8%)が将来、「台湾独立」を望んでいるとすれば、「台湾独立派」は合計73.0%に上るのではないだろうか。ひょっとして、この数字こそ、多くの台湾人の“本音”なのかもしれない。

ところで、アンケートの質問者も回答者も分析者も、「台湾独立」に関して正確に理解した上で質問・回答・分析を行っているのかは大きな疑問符が付く。

我々が以前からたびたび指摘しているように、「台湾独立」の本来的意味は、蒋介石父子統治時代、一部の台湾人が「中華民国体制からの独立」を主張していた。けれども、彼らは決して「中華人民共和国からの独立」を主張していた訳ではない。

ところが、国民党と中国共産党が一つの中国という“幻想”を作り上げ、世界がそれを支持した(驚くべき事に、今でも世界中のほとんどの国々がその“幻想”を支持している)。そして、両党は、互いに統治していない領土 (国民党は中国大陸を、中国共産党は台湾) をあたかも自己の支配領土と言い張って来たのである。実態は、現在に至るまで、誰がどう見ても「二つの中国」ないしは「一つの中国、一つの台湾」である。

他方、台湾は今もなお、中華人民共和国に統治されていない。21世紀に入り、2002年、東ティモールがインドネシアから独立した。また、2011年、南スーダンがスーダンから分離・独立している(2005年以降、スーダン政府から南スーダンは自治を認められていた)。

台湾は中華人民共和国から直接統治されていないのに、どのように同国から「独立」するのか。

更に、中国共産党は「カイロ宣言」を台湾領有の根拠としている。確かに、その“草案”は存在するが、肝心の「カイロ宣言」の“正文”は世界中、どこにも存在していない。

1943年11月、エジプト・カイロで、ルーズベルト米大統領・チャーチル英首相・蒋介石中華民国総統が会談を行った。しかし、大戦中の「ビルマ戦線」や大戦後の「香港返還」問題等を巡って、チャーチルと蒋介石が衝突している。そのため、3首脳は「カイロ宣言」の署名に至らなかったという。

ちなみに、昨今の「台湾独立」とは台湾が「中華民国」という国名変更して「台湾共和国」となり、かつ、「中華民国憲法」を廃止して「新憲法」を制定するということではないか。

以上を理解した上で、台湾人に「台湾独立」を尋ねるならば構わない。けれども、その真の意味を知らずして、台湾で「統独問題」のアンケートを行ってもあまり意味を持たないのではないだろうか。

 

〔注〕

(a)博尔顿4月底将访台: 2024美总统参选人中首位

(b)台湾地区人民的“统独立场”和“身份认同” – 美中故事汇

トップ写真:レーガン図書館でケビン・マッカーシー氏と会見する蔡英文総統 出典:Photo by Mario Tama/Getty Images




この記事を書いた人
澁谷司アジア太平洋交流学会会長

1953年東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。元拓殖大学海外事情研究所教授。アジア太平洋交流学会会長。

澁谷司

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