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.国際  投稿日:2023/5/9

中東の安定度占うトルコ大統領選


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2023#19

2023年5月8-14日

【まとめ】

・5月14日に開催されるトルコ大統領選挙・総選挙。

・20年以上権力を維持してきた政治家エルドアンは生き残れるか。

・バルカン半島から中東全体の将来の安定度を占う上で極めて重要。

 

いつもの通り、まずは今週の日本と世界の動きから。ここでは毎週の動きを分析する欧米の各種ニュースレターが取り上げた外交内政行事の中から興味深いものを選んでご紹介している。日本では英国王の戴冠式や総理訪韓への関心が高かったようだが、欧米の国際問題専門家たちの関心は以下のとおりだ。

5月8日月曜日

国連事務総長がスペイン首相と会談、キルギス大統領が訪露、プーチン大統領と会談

【スペインは重要なEU、NATO加盟国だが、その首相が今訪米しているらしい。何で今なのか?と思ったら、理由は簡単だった。7月から半年間、スペインはEUの議長国になるからだ。議長となると、やはり重要なのは対米関係ということか。その点はアジアも欧州も、事情は同じということである。

キルギスもロシアにとっては重要な国だろうが、何で今なのか?と思ったら、これも理由は簡単だった。9日に「プーチン大統領が旧ソ連7カ国の首脳と共に対独戦勝記念日のパレードに出席し、その後、非公式の食事会を開く」と報じられたのだ。しかし、今のところ、キルギス以外の首脳の出席は確認されていない。最終的に誰が来るかは知らないが、今更どの面を下げてパレードに出席するというのかね?突然の発表だったらしいが、「対独戦勝」どころか「対ウクライナ戦敗」の可能性すらあるというのに・・・ねえ。】

5月9日火曜日

イランとサウジアラビアが両国首都で大使館を再開、インドネシアがASEAN首脳会議を主催(11日まで)

【外交関係再開が懸案解決を意味しないことは、これまでの中東の歴史が証明している。それにしても、中東諸国は意外と簡単に「国交断絶」しながら、人々が忘れた頃に突然「国交正常化」する傾向がある。鈍感というか、あれで違和感はないのかな?】

5月10日水曜日

NATO国防大臣会合開催、ロシア外相はトルコ、シリア、イランの外相とロシアで会談

【ロシアなりに対抗措置を考えたのだろうが、NATO国防大臣会合とトルコ、シリア、イラン、ロシアだけではやはりちょっと見劣りする。】

5月11日木曜日

米国はTitle42と呼ばれる移民政策を廃止、ブラッセルで欧州国防・安全保障閣僚会合開催、日本でG7閣僚会合(14日まで)

【「Title42」とは米国で新型コロナウイルス感染拡大防止を理由に導入されていた不法越境者を即時送還できる措置のこと。11日に廃止されるらしいのだが、これは大きな事件だ。少なくともメキシコとの国境地帯に不法移民希望者が再び大挙して押し寄せることだけは間違いなかろう。バイデン政権は軍を派遣し不法移民を厳しく取り締まるというが、敵は共和党よりも、身内の民主党リベラル派ではなかろうか?】

5月12日金曜日

米スペイン首脳会談

【なるほど、スペイン首相はワシントンで首脳会談に臨むということか。】

5月13日土曜日

モーリタニア総選挙

【モーリタニアはサブサハラ・アフリカのイスラム国だが、今回の選挙は2019年の大統領が民主的選挙によって選ばれた後、初めての議会選挙ということで欧米関係者は注目している。日本ではモーリタニアに対する「タコ漁」支援などが話題になっているが、少なくとも欧米の一部では、アフリカのイスラム国家で民主制度が定着するか否かが問われる選挙の一つという認識なのだろう。】

5月14日日曜日

【先週も書いた通り、今週筆者の最大関心事はトルコ大統領選挙の行方だ。20年以上権力を維持してきたこの剛腕政治家が生き残るか、退陣するかはトルコの民主主義だけでなく、バルカン半島から中東地域全体の将来の安定度を占う上で極めて重要となる。日本ではそれほど注目されていないのが不思議なくらいだ。タイについては下記参照。】

さて、先週筆者が注目したのはやはり岸田総理の訪韓だった。詳細は8日の産経新聞と9日のJapanTimesに書いたのでご一読願いたいが、簡単に言えばこうだ。

●日韓両国は、懸案は残っているものの、安全保障面の協力を優先した

●岸田総理は新たな謝罪をせず、従来の立場を維持した

尹錫悦政権も米国との関係を重視し日韓関係改善の必要性を認識した

●短期的かもしれないが、両国関係が正常化することを期待したい

●一方、日韓関係は90%が内政問題で、386世代は今50代、あと20年は現役だ

●日韓間で再びゴールポストが動く可能性は覚悟すべきである

●希望は韓国内の世代交代で、今日韓が若い世代のため布石を打つ意義は大きい

〇アジア 

14日のタイ総選挙では、革新系野党第2党が躍進し、独走していた最大野党が伸び悩んでいるそうだ。一方、親軍政党を中心とする与党側も苦戦しており、過半数獲得は困難らしい。民主的に選挙が行われれば良いのだが、結果次第では新政権樹立まで混乱も予想されるという。いずれにせよ、軍は黙っていないだろうが。

〇欧州・ロシア

先週、ロシア軍からの武器弾薬供給が足りないと不満を述べていたワグネル創設者が、今週は一転、「バフムト制圧に向けた前進に必要な弾薬供給を受け始めた」と明らかにしたそうだ。では一体あの騒ぎは何だったのか?ロシア軍に対する「おねだり」だったのか?でも、ロシア側の防衛にはどこかで穴ができるはずなのだが。

中東

アラブ連盟外相会合は、2011年に資格停止したシリアの連盟復帰を決議したという。アラブは相変わらずだなあ。連盟事務局長は「シリアの復帰はアラブ諸国とシリアの外交関係正常化を意味しない。正常化は各国が独自に判断すること」と述べたそうだが、当然だろう。これでイランの支援を受けるシリアが「許される」訳ではない。

〇南北アメリカ

一日1.5回のペースで増え続ける米国の銃乱射事件、今度はテキサス州のショッピングモールで少なくとも15人が死傷したが、どうやら犯人は典型的なネオナチ信奉者だったらしい。犠牲者の多くはアジア系、インド系、ヒスパニック系だったようだが、犯人の名も33歳の「モーリシオ・ガルシア」だ。必ずしも白人ではないところが恐ろしい。

〇インド亜大陸 

特記事項なし。

今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真:トルコ旗を振りながら踊るイスタンブール市民(2023年5月8日、トルコ・イスタンブール)出典:Photo by Aziz Karimov/Getty Images




この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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