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.国際  投稿日:2023/6/2

中国不動産バブル崩壊か地方政府デフォルトか


澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)

【まとめ】

・中国の去年末の不動産ローン残高は約1000兆円、そのうち個人の住宅ローン残高は約776兆円にのぼり、全体の73%。

・不動産バブルが崩壊すれば、個人住宅ローンが債務危機にさらされる。

・一方、不動産価格を統制すれば、約1300兆円の“地方債”が債務不履行になる。

 

中国の中央銀行が発表したデータによると、2022年末の不動産ローンの残高は53兆1600億元(約1063.2兆円)(a)だという。そのうち個人の住宅ローン残高は38兆8000億元(約776兆円)にのぼり、全体の73%を占めている。

もし、突然、不動産バブル崩壊という「ハードランディングが起これば、真っ先に犠牲になるのは中国人民だろう。債権者である銀行も、2008年の米国や1990年代の日本で起きたバブル崩壊のような債務危機の影響を受けるに違いない。

そこで、少なくても現時点で、中国共産党は不動産バブルの“着実な価格下落”を狙った「ソフトランディングを目指している観がある。実際、地方政府は「ハードランディング」を起こさないように、政府指導による不動産価格を設定している(中国では、日米とは違って、地方政府が不動産市場を支配)。

特に、3線・4線都市(後述)と言われる地方都市の不動産価格はゆっくり下落している、あるいは、あまり下落していないという。

実は、地方政府が「国有融資プラットフォーム」というペーパー・カンパニー(裏付けは中央政府の信用だけ)から融資を受けている。このペーパー・カンパニーこそが問題ではないか。

地方政府は、そこから借りた“地方債”で都市投資を行い、不動産価格を何とか維持している。しかし、地方政府による(実際よりも高い)“名目価格”では、現実の市場価格とかけ離れ、不動産売上を維持することができない。

結局、不動産価格の急落で「ハードランディング」すれば、既述の如く、40兆元(約800兆円)近い個人住宅ローンが債務危機にさらされる。一方、不動産価格統制下の「ソフトランディング」を目指せば、65兆元(約1300兆円)という “地方債”が債務不履行リスクとなる。

実際、各地の地方政府はこの問題で喘いでいる。

今年5月23日、昆明市の都市投資の議事録が流出(b)した。都市投資の2億元(約40億円)の債務が満期の2日後に支払われたが、同市政府は人民の社会保障資金まで流用しているという。また、所属職員たちは3~4ヶ月間、給料をもらっていないことが判明した。

また、議事録は、昆明市では今後半年で200億元(約4000億円)の債務が満期を迎え、市の財政が不足する。だが、雲南省は同市を救済しないと表明している。

そこで、何社かの都市投資会社社長は上海に行って支援を要請した。かつて、雲南省は上海市の援助対象であり、過去には上海市から雲南省に毎年数千億元の援助資金が送金されていたという。しかし、昨年の上海市の予算を見ると、今や同市は自分たちの分すら“採算が取れない”状態に陥っている。

一方、5月26日、湖北省の省都である武漢市財政局と同市の長江資産管理公司は、党メディア『長江日報』で債務回収ための共同発表(c)を行った。そして、259の企業や単位に早く借金を返済するよう前代未聞の要求をしている。企業の他にも、武漢市財政局傘下の多くの区財政局がリストに名を連ねているという。

地方政府は、3年間にわたる「ゼロコロナ政策」で財政を使い果たし、不動産販売の不振で税金収入も大幅に減少した。そればかりか、不動産会社が債務不履行や破産の危機に瀕している。そのため、現在、「借金を進んで返済しないか、返済したくてもできない」のが中国経済の“新常態”だと言われる。

さて、最近、貝殻研究院の名誉顧問、楊現領・博士の厳しい指摘が、ネット上で話題(d)となっている。

楊博士によれば、中国100都市のデータを見ると、1線都市(北京、上海、広州、深圳等)はまだ不動産需要がある。だが、3線都市(珠海、貴陽、太原、紹興等)や4線都市(延安、吉林、丹東、大理等)では、ほとんど不動産需要がなく、2線都市(無錫、厦門、瀋陽、大連等)では深刻な価格下落に見舞われているという。

他方、現在、住宅購入者たちの第1の関心事は、値上がりするかどうかではなく、将来、売れるかどうかである。また、小型マンションと学区の住宅は売れ行きが良く、単価も比較的堅調だが、郊外の大型マンションは売却が難しくなっている。実際、住宅が売り出されてから売却されるまでのサイクルは、まもなく300日を超えるという。

そして、ほとんどの都市では、85%の住宅が販売価格を下げて取引されている。ただ、中心地区の優良資産だけが、依然、値を上げている。それらの住宅は共通して、皆、高いという。

〔注〕

(a)『中国瞭望』

「住宅が失われ誰の手に渡っても大きな問題となる」

(2023年5月8日付)

(https://news.creaders.net/china/2023/05/08/2605897.html)。

(b)『万維ビデオ』

「びっくり仰天!流出した議事録が中国共産党を針のむしろに座らせた」

(2023年5月26日付)

(https://video.creaders.net/2023/05/26/2610969.html)。

(c)『万維ビデオ』

「また大きなカミナリ!意外にも、やはり武漢か…」

(2023年5月27日付)

(https://video.creaders.net/2023/05/27/2611443.html)。

(d)『中国瞭望』

「本当に変わるのか? 今日、1つのニュースがネット上で話題となっている」

(2023年5月23日付)

(https://news.creaders.net/china/2023/05/23/2610281.html)。

トップ写真:武漢の街並み。長江の近くには、近代的な高層ビルや建設中の高層ビルが建つ。前は古い住宅街。(イメージ)

出典:Photo by Yifan Zhang/Getty Images




この記事を書いた人
澁谷司アジア太平洋交流学会会長

1953年東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。元拓殖大学海外事情研究所教授。アジア太平洋交流学会会長。

澁谷司

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