未だに浮揚しない中国経済
澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)
【まとめ】
・中国経済、「ゼロコロナ政策」止めた後も景気回復が遅れている。
・不動産の衰退が国内の製造業の衰退を招いたとの指摘有り。
・地方政府の債務はすでに9兆米ドル(約1176兆円)を超え、さらに増え続けている。
周知の通り、目下、中国経済は厳しい状況に陥っている。昨年2022年12月、北京が「ゼロコロナ政策」をやめても、今年年初来、依然、景気回復が遅れている観がある。
中国チーフエコノミスト・フォーラム理事長(元交通銀行チーフエコノミスト)の連平は、3月の両会(全国人民代表大会・政治協商会議)が終わり、マクロ政策の4つの基本基調―拡大、目標、継続、協調―が比較的明確になってきたと指摘(a)した。連平は、今年も本土では需要不足が顕著な“矛盾”だとみている。
それを裏付けるように、今年3月15日、国家統計局が1月-2月期(毎年、両月をまとめて公表)主要数字を発表したが、どれもあまり芳しくない。
まず、第1に、中国のGDPで最も重要な“投資”(年間では常に投資>消費)だが、「1月-2月期、全国固定資産投資(農家を除く)は5兆3577億元(約101兆7963億円)で、前年同期比5.5%増となった。そのうち、民間固定資産投資は2兆9420億元(約55兆8980億円)で、前年同期比0.8%増である。なお、2月の固定資産投資(農家を除く)は前月比で0.72%増となった」(b)という。
この説明では大事な点が抜け落ちている。それは、“国有持株”が10.5%増という数字(表の中に記載)である。民間投資は前年同期比でたった+0.8%しか伸びていない。あとは、中央政府が投資して、全体で前年同期比+5.5%という数字に膨らましたと考えられよう。
第2に、1月-2月期の社会消費財小売総額は7兆7067億元(約146兆4273億円)で、前年同期比3.5%増(c)となった。決して悪い数字という訳ではないが、いわゆる「リベンジ消費」とは言い難いのではないだろうか。「ゼロコロナ政策」解除後、春節(旧正月)の時期で、移動が自由になったにもかかわらず、この数字では褒められない。
第3に、1月-2月期、全国不動産開発投資は1兆3669億元(約25兆9711億円)、前年同期比5.7%減、そのうち住宅投資は1兆0273億元(約19兆5187円)、同4.6%減(d)となった。
不動産開発投資は、中国経済の要である。在米中国研究家、何清漣によれば、2021年末現在、中国の不動産投資はGDP比13%(OECD諸国は5%)、サプライチェーン投入品を考慮すれば、中国の不動産業はGDP比約30%を占める(e)という。
また、過去20年間、中国における不動産関連産業の発展は、政府、銀行、不動産所有者を“利益共同体”として結び付けている。不動産関連融資は銀行信用の40%近くを占め、不動産関連産業収入は総合的地方財源の約50%を占め、不動産が都市住民資産の60%から70%を占めるという。
他方、何清漣は、不動産の衰退が国内の製造業の衰退を招いたと指摘する。不動産は過去約20年、少なくとも50社以上の川上・川下企業を抱えるリーディング産業であった。これら産業は不動産業の衰退とともに衰え、国内の多くの人々の失業につながったと何は主張する。
さて、将来の中国経済に対し、未だ楽観的な見方がない訳ではない。だが、次の数字を見れば、楽観論に大きな疑問符が付くのではないだろうか。
今年1月-2月期、一般公共予算収入は前年同期比1.2%減の4兆5600億元(約86兆6400億円)、中央政府の収入は同4.5%減の2兆1800億元(約41兆4200億円)、地方政府の収入は同2%増の2兆3900億元(約45兆4100億円)を計上(f)したという。
この間、全国税収入は同3.4%減の3兆9400億元(約74兆8600億円)、税外収入(租税及び公債発行収入金以外の収入)は15.6%増の6230億元(約11兆8370億円)となった。主要税収のうち、消費税は同18.4%減、輸入品に対する付加価値税と消費税は21.6%減と急減した。法人所得税は11.4%増加し、個人所得税は4%減少している。
以上で、評価できるのは、地方政府収入・税外収入・法人所得税ぐらいだろう。ただ、地方政府の債務はすでに9兆米ドル(約1176兆円)を超え、さらに増え続けている(g)。また、多くの地方政府はデフォルトを遅らせるため、銀行に債務のロールオーバー(乗り換え)を依頼したり、貸付金利の引き下げを希望したりしているという。
〔注〕
(a)『中国瞭望』「学者が需要不足こそ今年の中国経済の顕著な矛盾だと指摘」(2023年3月17日付)
(https://news.creaders.net/china/2023/03/17/2588255.html)
(b)『国家統計局』「2023年1〜2月の全国固定資産投資(農家を除く)は5.5%増」(2023年3月15日付)
(http://www.stats.gov.cn/sj/zxfb/202303/t20230315_1937194.html)
(c)『国家統計局』「2023年1-2月期の社会消費財小売総額は3.5%増加」(2023年3月15日付)
(http://www.stats.gov.cn/sj/zxfb/202303/t20230315_1937198.html)
(d)『国家統計局』「2023年1-2月期の全国不動産開発投資額は5.7%減少」(2023年3月15日付)
(http://www.stats.gov.cn/sj/zxfb/202303/t20230315_1937196.html)
(e)『FRA』「評論 何清漣:中国2023年経済に力を入れる:不動産よ『開けゴマ』」(2023年2月27日付)
(https://www.rfa.org/mandarin/pinglun/heqinglian/hql-02272023094854.html)
(f)『RFA』「中国経済の崖から滑り落ちる ネットユーザーが失業生活を乗り切るためのノウハウを共有」(2023年3月21日付)
(https://www.rfa.org/mandarin/yataibaodao/jingmao/gt1-03212023035226.html)
(g)『中国瞭望』「この時限爆弾のせいだ!中国共産党は権力集中の加速化を避けられない」(2023年3月17日付)
(https://news.creaders.net/china/2023/03/17/2588067.html)
トップ写真:高層ビル建設に使用されているクレーン(中国・福建省)出典:イメージ
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この記事を書いた人
澁谷司アジア太平洋交流学会会長
1953年東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。元拓殖大学海外事情研究所教授。アジア太平洋交流学会会長。