中国、トリレンマをどう乗り切る?
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2023#8」
2023年2月20-26日
【まとめ】
・王毅・中国共産党中央外事工作委員会弁公室主任が訪欧。
・中国のトリレンマ。①対米関係改善②対ロシア支援継続、③欧米NATO分断。
・それぞれ目的達成は難しいようで、この難局を中国はどう乗り切るのか。
よせば良いのに、先週末も海外出張を入れてしまった。帰国前にバイデン大統領がポーランドで重要演説を行うと報じられていた。これはウクライナ「電撃」訪問があるだろう、と誰もが思っただろう。帰国後、案の定、大統領はウクライナを訪問したため、早速ある人からこう聞かれた。「岸田総理はウクライナに行かないのか」と・・・。
筆者は、「総理の日々の日程を承知する立場にはないが、そんな日程、知っていれば絶対に言わないし、知らなければ対外的に言いようがない。いずれにせよ、日本のメディアが日程の秘密を守ればウクライナには行けるし、守れないなら行けないだろう」「そもそも日本の総理がどうしても行く必要があるとは思えない」と答えた。
先週は「オフレコ破り」の話をしたが、これも基本的には同じ話である。日本の政治家には秘密を守る権利がないと言ったのはキッシンジャーだが、あれから半世紀経っても、日本の為政者には秘密を守る権利がないようだ。ホワイトハウス界隈には、その種のオフレコ情報を「内容が重大」だといって報じるジャーナリストなどいない。
▲写真 ウクライナを電撃訪問しゼレンスキー大統領夫妻に出迎えられるバイデン米大統領(2023年2月20日、ウクライナ・キーウ)出典:Photo by Ukrainian Presidential Press Office via Getty Images
この関連でもう一つ気になったのが王毅・中国共産党中央外事工作委員会弁公室主任(長い肩書なので、どのマスコミも「政治局員」としている)の訪欧である。この点は今週の産経新聞のコラムで取り上げたので、そちらをご一読願いたいが、簡単に言えば今の中国はトリレンマ(三つの矛盾)に直面している、ということだ。
三つのジレンマというか、三つの目的は①対米関係の改善、②対ロシア支援の継続、③欧米NATOの分断であるが、①はスパイ気球撃墜事件で、②は米国からの「対露殺傷兵器供与」に関する圧力で、③はNATOの結束が予想以上に強固で、それぞれ目的達成は難しいようだ。この難局を中国はどう乗り切るのだろうか。
〇アジア
北朝鮮の金与正党副部長が「太平洋を射撃場として活用する頻度は米軍の行動にかかっている」と表明したそうだが、メディアはこの種の発言を大きく取り上げ過ぎではないか。日本列島上空を越える形の弾道ミサイル発射を警告したというが、本当にそうか。深読みし過ぎではないか?
〇欧州・ロシア
ウクライナ問題とスパイ気球などをめぐり米中の外交当局の鍔迫り合いがヒートアップしている。ブリンケンが「(スパイ気球の飛来は)二度と起きてはならない無責任な行為だ」と言えば、王毅は「(米国が)武力の乱用で中米関係を損なったことを直視し解決するべきだ」と反論。これでは米中関係改善の兆しは見えてこないだろう。
〇中東
国連安保理がヨルダン川西岸でのユダヤ人入植地の拡大に「深い懸念と失望」を表明する議長声明を全会一致で採択したそうだ。民主党といえば一昔前はイスラエル一辺倒だった記憶があるが、時代は変わるものだ。尤もネタニヤフは昔極右だと思ったが、今や中道に近付いている。イスラエルはちょっとやり過ぎではないか。
〇南北アメリカ
カーター元大統領(98)が自宅でホスピスケア(終末治療)に移行することになったという。カーター大統領といえば、筆者が留学時代に米大統領選挙を勉強した際の大統領候補だったので、特別の思い入れがある。当然ながら大統領は一期で終わったが、米大統領としては最も正直で善人だったと思う。いつまでもお元気で!!
〇インド亜大陸
特記事項なし。今年はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
トップ写真:ミュンヘン安全保障会議に登壇した中国の王毅共産党政治局員(2023年2月18日、ドイツ・ミュンヘン)出典:Photo by Johannes Simon/Getty Images
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この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表
1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。
2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。
2006年立命館大学客員教授。
2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。
2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)
言語:英語、中国語、アラビア語。
特技:サックス、ベースギター。
趣味:バンド活動。
各種メディアで評論活動。