テレビ記者「原稿棒読み」について
安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)
【まとめ】
・JID寄稿者古森義久氏から、テレビ記者の原稿棒読み中継に対する批判あり。
・スマホ片手に画面を読み上げる記者に違和感。
・日本と海外の違いはあれど、日本のTV局も記者の中継のあり方を考えるべき。
国際ジャーナリストの古森義久氏の指摘(「テレビ記者のスマホ現場報道 」)があったので元テレビ記者の経験から書こうと思う。
■ 古森氏の指摘
古森氏の指摘は、以下のようなものと理解する。
①記者は自分の言葉で話すべき。
②スマホだけを見ての報道は視聴者の愚弄につながらないか。
どちらももっともだと思う。
そこでまず説明すると、テレビ記者のリポートには、事前に収録した映像を編集して放送する、いわゆる「記者リポート」と、現場から生報道でリポートする「中継」がある。古森氏が見たというNHKのニュースは現場からの中継(LIVE)だったと思う。
21年間、テレビ局の報道局で記者として勤め、ニューヨーク特派員の経験もある筆者は、日本と海外の記者のリポートスタイルの違いがよく分かっているので紹介する。
まず、海外のリポーターは総じて原稿無しでしゃべるのがうまい。原稿を手に持っていなくても、よどみなく延々としゃべり続けることが出来る。これは何も記者だけではなく、ビジネスパーソンだろうが、政治家だろうが、官僚だろうが同様だ。
一方、日本の記者にそういうタイプは非常に少ない。その理由はいくつかある。
第1に、日本の記者は中継の機会が少ない。慣れてないのだ。NHKはともかく、民放はニュースの時間がそもそも短い。ニュース専門の米CNNやFOXや、カタールのアルジャジーラなどとは違う。これらの局のニュースを日本にいる人間は滅多に見ることはないが、ニュースの時間がそもそも長いので、記者に与えられる時間も数分はある。
それはとりもなおさず、その間記者はしゃべり続けなくてはいけない、ということだ。もちろんスタジオとのやりとりもある。スタジオのアンカー(司会者)からの質問に、当意即妙に答えねばならない。そういうスタイルが定着しているのだ。しかし日本のテレビでそんな機会などほとんど無い。中継で長々と話すこと自体、圧倒的に少ないのだ。
だからといって、原稿棒読みが是というわけではない。が、習うより慣れろというように、場数を踏んだ人間はそれなりにしゃべりがうまくなるとは思うが、そういう環境が日本では少ないのだ。
第2に、日本のニュースでの中継は尺が短いので話す内容を絞らなくてはいけない。大体1分ぐらいしか話す時間がないとなると、いきおい、内容を絞らなくてはいけない。データや固有名詞などは間違えるわけに行かないので、中継の場合、記者はメモを手に持つ。それを読むことはミスを無くすために必要な事で当たり前のことだ。
筆者の時代は中継の際に手に持つのは記者手帳という縦15センチ、横5センチくらいの小さなメモ帳(新聞記者もテレビ記者もほぼ同じサイズの手帳を持っていた。会社支給)だったのが、時代と共にノートパソコンになり、スマホになった。ただノートパソコンやスマホは画面がスリープ(電力消費を抑えるために何秒かたつと真っ暗になる状態)になって文字が読めなくなり焦るので、個人的には「紙に書けば良いのに」と当時から思っていた。1分くらいの中継なら小さい文字で書けば1ページに十分収まるので便利だったのだ。
■ テレビがやるべきこと
古森氏の指摘通り、記者が原稿棒読みではまずもって説得力がなくなる。氏の指摘の後、改めてNHKニュースのスタジオにおける、アナウンサーと記者のやりとり(解説)を視聴したが、その記者も、手元の原稿を棒読みだった。棒読みの欠点は、自分の言葉に聞こえないことだ。誰かに用意されたものをただ読み上げているように聞こえてしまうのだ。
それはその記者自身にとっても良いことではないし、その局のニュースにとっても決して良いことではないだろう。
棒読みだと、取材した記者の熱量は全く伝わってこない。それだったら、アナウンサーがただ原稿を読めば良いだけのことだ。記者がわざわざスタジオに座る必然性がない。
民放に話を戻すと、記者リポートより、映像にナレーションを入れて、完全なパッケージ(完パケという)にして放送するのがここ15年くらい主流になっている。その方が視聴率が取れると判断しているのかもしれないが、記者にしてみれば中継でしゃべる経験がなくなり、何のためにテレビ記者になったのかわからない、と言う話になってしまう。
生中継は中継車を出したり、回線費用がかかったり、なにかとお金がかかるので民放は避けたいだろうが、テレビ記者が原稿棒読みでないとリポート出来ない、という状態を放置していて良いはずがない。
まず、NHKは中継の機会が多いのだから、カンペを読ませたり、スマホの原稿を読むような中継は即刻辞めさせ、自分の言葉で話すように訓練すべきだ。人が民放よりたくさんいるのだからそのぐらい出来ないはずはない。
民放は、少しでも中継の頻度を増やす。それがムリなら事前収録の記者リポートを少しずつ復活してもらいたい。記者に話す経験を積ませなくては、良いテレビ記者は育たない。良い記者とは、自分の言葉で、その人でないと語ることの出来ないリポートが出来る記者だ。豊富な知識と経験が求められるのは言うまでもない。そういった名物リポーターが育てば、視聴率は上がるかもしれない。
テレビ記者はしゃべってなんぼ。新聞記者とは違うという矜恃を各テレビ局は若手記者に持たせてもらいたい。なぜなら、それが唯一無二のテレビ記者の存在意義だからだ。その原点に立ち返る必要があろう。
(了)
トップ写真・出典:simonkr/GettyImages
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この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員
1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。
1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。
1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。
2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。