「正義連」尹美香議員の正体―4級元補佐官にスパイ容疑
朴斗鎮(コリア国際研究所所長)
【まとめ】
・北朝鮮の文化交流局の指令によって韓国で暗躍していたスパイ組織が、韓国スパイ防止当局の捜査によって明らかにされつつある。
・尹美香議員の補佐官だったチョ・ジョンフンがスパイ事件の主要容疑者として捜査を受けている。
・尹美香議員一派は「慰安婦問題」を解決することよりも日韓関係を分断する目的か。
北朝鮮の文化交流局(旧225局)の指令で韓国・済州道に地下組織を構築し暗躍していたスパイ組織が、韓国スパイ防止当局の捜査によって明らかにされつつある。
北朝鮮のスパイ組織摘発は2021年8月の「自主統一忠北同志会」(清州空軍基地へのF35配置反対闘争などを主導)事件以来となる。
■ 摘発された北朝鮮スパイ組織
摘発されたスパイ組織名は「ヒウク・キヨック・ヒウク(ㅎㄱㅎ)」だ。この「ヒウク・キヨック・ヒウク」は、2017年に済州道地域の左派政党関係者が、カンボジア・アンコールワットで北朝鮮の工作員による指令を受け、地下組織を結成して反政府闘争を始めたという。
「ヒウク・キヨック・ヒウク」はカンボジアだけでなくベトナムでも北朝鮮工作員に会い、「工作資金」も受け取っていた。
この組織の中央拠点は、軍需産業が集中する慶尚南道昌原(チャンウオン)市に置かれている「自主統一民衆前衛」(2016年ごろに結成)だという。
「自主統一民衆前衛」の指令の下で済州道、全羅北道・全州(チョンジュ)、全羅南道・タムヤンなどのスパイ組織が暗躍していたようだ。
韓国政府筋は「現在容疑者として特定されているのは8人ほどだが、地下組織が全国に広がっており、(容疑者は)さらに増える可能性もある」とした。
スパイ防止当局は約5年間の捜査を通じ、北朝鮮の指令文と「ヒウッ・キヨック・ヒウッ」から送られた報告文、北朝鮮の工作員と接触した証拠などを確保したとのことだ。
しかし、容疑者らは容疑を否認し、「政権のスパイでっち上げ事件」だと反発している。
文在寅(ムン・ジェイン)政権時代(2017年-2022年)にはスパイ捜査はほとんど行われなかった。2011年から2017年までの朴槿恵(パク・クネ)政権時代のスパイ摘発件数は26件で年間4件以上だったが、2017年から2020年までの摘発は全体で3人だった。その3人も、朴槿恵政権時代に容疑が明らかになり、捜査中だったスパイ事件だという。
そればかりか文在寅政権は「国家情報院改革を行う」として国家情報院の対共産主義捜査権(主に北朝鮮のスパイ捜査)をなくす法案を2020年12月に国会で通過させた。このままだと間もなく国家情報院の対北朝鮮スパイ捜査が行えなくなる。
■ 尹美香議員室補佐官出身チョ氏に北朝鮮スパイ容疑
韓国検察は1月6日、正義記憶連帯(正義連=「挺対協」)後援金を私的に流用した容疑などで起訴された尹美香(ユン・ミヒャン)議員に懲役5年の求刑を行ったが、この尹議員の補佐官だったチョ・ジョンフンが今回スパイ事件の主要容疑者として捜査を受けている(韓国youtubeチャンネル「カロセロ研究所」)。
チョ・ジョンフン氏は2020年5月、ユン・ミヒャン議員とともに国会に入り、4級補佐官として働いた。チョ氏は以後、昨年初めまで議員室で勤務していたのだが、一身上の理由で退職した。しかし、非営利民間団体を通じてユン議員とはずっと共に活動している。
2016年ごろベトナムで北朝鮮の工作員と接触したチョ氏は、「コロナ19事態」で外国に出て接触することが困難になるや、以後ソウル市内でインターネットを使って北朝鮮に乱数票(パスワード)報告をした。チョ氏が対北朝鮮報告を送った時点は、尹議員の補佐官として勤務した時期と重なる。
伊議員とチョ氏は国会に入る前から同じ非営利民間団体で共に働いた仲間だった。 ユン議員が代表であった「キム・ボクドン(金福童)の希望」でチョ氏は運営委員として活動した。
こうした中でチョ氏の過去経歴も注目されている。 チョ氏はいわゆる「韓国唯一のインターネット従北朝鮮専門政論紙」である「統一ニュース」で、2010年から2020年まで記者として活動し、外交・北朝鮮・政治関連記事を数千件書いた。
また2011年に国家保安法違反で捜査され現在休刊となっている「民族21」(2001年創刊=実質的な北朝鮮の機関雑誌)の主要執筆者としても活躍した。
この雑誌には、日本の朝鮮学校支援に特化して活動した「モンダンヨンピル」の権海孝(クオン・へヒョ、俳優)がたびたび登場し、「キム・ボクドン(金福童)の希望」とともに一貫して朝鮮学校支援を行ってきたことが紹介されている。
権海孝氏は韓国ドラマや映画に脇役として登場する俳優だが、朝鮮総連(在日本朝鮮人総聯合会=韓国の利敵団体)との関係で当局の調査を受けている。
尹議員は、今回のスパイ事件のほか夫の金サムソク氏とその妹が関与した「兄妹スパイ事件」でも関係者として有名だ。金サムソク氏はこのスパイ事件で2014年に再審を申請した。
2016年3月、ソウル高等裁判所は再審を受け入れ一部無罪一部有罪とし、懲役2年執行猶予3年が宣告した。有罪とされたのは、金氏が日本に存在する韓統連(在日韓国民主統一連合=韓国の利敵団体)議長などに会ってこの団体から金品を受けたという部分だが、2017年最高裁判所は有罪を確定させた。
■ 一貫して日韓分断のために活動した尹美香
尹議員の活動の原点は「挺対協(韓国挺身隊問題対策協議会)」だ。この「挺対協」結成には日本の左派が大きな役割を果たした。
その原流は、韓国での民主化宣言が出された直後の1987年8月に開かれた広島・長崎における「原水爆禁止世界大会」にある。
そこで初めて韓国代表として参加した「韓国教会女性連合会(「挺対協」の前身)」会長の故李愚貞(イ・ウジョン)氏と当時の日本社会党・清水澄子氏とが、北朝鮮統一戦線部傘下の「祖国統一民主主義戦線」を含めた韓・日・朝三者連帯による「慰安婦問題の政治化」に合意したのだ。
それまで韓国では「慰安婦問題」はほとんど取り上げらることはなかった。
その後、日本で海部内閣発足後の1990年9月26日に朝鮮労働党と日本の自民党、社会党との「日朝3党共同宣言」が発表され、日朝国交回復と賠償問題が取り上げられる中で、1990年11月に韓国で「挺対協」が結成された。
尹議員はこの挺対協(現正義記憶連帯)を足場に、慰安婦のおばあさんたちへの寄付金横領と韓日分断に専念し、北朝鮮の対韓国戦略を支えた。彼女は、はなから「慰安婦問題」の解決を望んでいなかったのだ。
左派運動家出身のチュ・ドンシク氏(地域平等市民連帯代表)は「彼らに必要なのは、問題の解決ではなく、問題の深刻化であり、悪化であり、慢性化であり、その問題がそのまま維持されて大きくなることだ」と指摘し「それは運動ではなく、陰謀のための企画であるだけだ」と痛烈に批判した。
そしてその根本的狙いは、日韓•韓米関係を破綻させ、大韓民国を「金氏朝鮮」(北朝鮮)と中国の手に委ねること」と語った(ペンアンドマイク2020.05.15 )。
尹錫悦政権の登場によって「慰安婦問題」を利用した尹美香議員一派の陰謀は、一つずつ解明されつつある。彼らの日韓分断作戦は、日韓の民族感情を利用してこれまで「見事な成功」を収めてきたかに見えたが、はからずもいまその正体が「スパイ組織」との関連の中で暴かれつつある。
トップ写真:国立博物館での国家晩餐会の前にスピーチを行う尹錫悦大統領(2022年5月21日 韓国 ソウル)
出典:Photo by Lee Jin-Man – Pool/Getty Images
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この記事を書いた人
朴斗鎮コリア国際研究所 所長
1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)、「金正恩ー恐怖と不条理の統