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.国際  投稿日:2023/10/18

「目をみはる」インドの変化


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2023#42

2023年10月16-22日

【まとめ】

・インドはこの数年で大きく変化国家としての意図や野心を曖昧にしなくなったのも理由か。

・インド外交は、従来の「非同盟」の枠内で最大限米国寄りに舵を切りつつある。

・インド進出日系1400社の7割超が黒字で事業拡大へ。

 

この原稿はニューデリー発帰国便の機上で書いている。ニューデリー出張はかなり久しぶりだったが、今回来てみて、「インドはこの数年で大きく変わり始めたのかなぁ」と感じた。なぜそう思うのか、種々理由を考えてみたが、個人的には、インドが国家としての意図や野心を曖昧にしなくなったのも理由の一つだと思っている。

振り返ってみれば、インドは過去数十年間、筆者にとって「良く分からない国」だった。1990年代にはWTOでインド側と貿易交渉はしたが、ニューデリーの在勤経験はない。外交の基本は「非同盟」というが、多くの立場は「両論併記」の「玉虫色」で捉え処がない。そもそも、インド関連の基本情報すら決定的に不足していたと思う。

それだけに、今回は実に「eye-opening」な出張となった。第一の目的は現地シンクタンクORF(Observer Research Foundation)が主催し日本政府も支援する「各国若手外交官研修セミナー」での講演だったが、これ以外にも色々欲張って、齢70にして、好奇心丸出しの日程を組んでみた。体力的にも、精神的にも、ほぼ限界に近い。

それはさておき、実は目的がもう一つあった。在京インド大使が強い関心を有している日本企業の対インド投資状況の実態をこの目で確かめたかったのだ。詳細は今週の産経新聞WorldWatchに書いたので、ここでは繰り返さない。要するに、インドでのインフラ不足だけでなく、日本企業の消極性も無視できない理由のようである。

今回は幸い現地日本大使館から支援を得られ、主要大学での講演、主要紙のインタビュー、有力識者との懇談、現地の日本商工会幹部との意見交換などを行う機会も得た。駆け足の5日間だったが、これほど「ディープ」なインドを経験できたことを有難く思う。ちなみに、11月には南部バンガロールへの出張を予定している。

さて、インド外交の変化を要約すれば、「中国を最も懸念し、米・イスラエルと関係を強化するも、ロシアとの関係は捨てきれない。東方ではクアッド(日米豪印)に、西方ではI2U2(印イスラエルUAE米)に関与し、従来の「非同盟」の枠内で最大限「米国寄りに舵を切りつつある」といったところだろう。

それにしても、インド知識人のレベルは高い。人口は14億もあり、官僚、政治家、知識人の世界での競争は日本や中国の比ではないようだ。経済が急成長する中でかくも熾烈な出世競争を勝ち抜いてきた人々だけが権力と尊敬を勝ち取る社会という点では、日本の1950-60年代、中国の1980-90年代に似ているのかなと思う。

勿論、「変わらない」インドも健在だ。インド官憲の上から目線や無秩序な交通混雑は相変わらずで、あの喧騒と混沌の集合体は一朝一夕では変わりようがない。他方、モディ政権が進めたインド製造」政策や各種税制改革の成果も着実に出始めている。数年前に比べても、道路や電気インフラの整備は進んでいるようだ。

インド進出日系企業数は1400社ほどだが、その7割以上が「黒字」で「事業を拡大」するという。日本企業の海外中期有望国調査でも、昨年インドが中国を抜き一位になった。更にインドの中産階級の割合は2022年に30%だったが、2030年に46%、2046年には63%になるという。これが本当なら、もの凄いことだ。

こう書き連ねてきたら、「一体インドとは何か」という根本問題に再び突き当たった。今筆者に答えはない。もしかしたら、「インド」というのは、英国が植民地にした巨大で多様な社会の集合体をイギリス人が勝手に「インド」と呼んだだけなのかもしれない。そうだとすれば、「インドはインド人にも分からない」のも当然だろうと思う。

さて、続いては、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。

10月17日 火曜日 ヨルダン国王、ドイツ訪問、独首相と会談

仏大統領、アルバニア首相と会談

トルコ外相、レバノン訪問

中国、「一帯一路」首脳会議を主催(18日まで)

10月18日 水曜日 中露首脳会談

米大統領、イスラエル訪問

米上院外交委員会、新在イスラエル米国大使の指名を検討

ロシア外相、北朝鮮訪問(19日まで)

10月19日 木曜日 インドネシアと韓国の中銀が政策金利を決定

アイスランドでThe Arctic Circle Assembly 会合(22日まで)

10月20日 金曜日 米大統領、欧州委員会委員長ら欧州首脳と会談

10月22日 日曜日 スイス、連邦総選挙

ベネズエラ野党の予備選挙

アルゼンチン、総選挙

今週も時間の関係でこのくらいにさせて頂こう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真:ニューデリーの町の様子。(2023年9月23日 インド・ニューデリー)出典:Photo by Dan Kitwood/Getty Images




この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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