「高岡発ニッポン再興」その107 年収250万円市長の本気度
出町譲(高岡市議会議員・作家)
【まとめ】
・人口減少時代、トップは厳しい判断を下さなければいけない。
・鈴木直道北海道知事、夕張市長時代年収250万円にカットした。
・私はそこに鈴木流のリーダーシップの本質を見た。
高岡で政治家になって2年です。私の思いの底流にあるのは、人口減少時代にあるという認識です。人口が増加しているときは、さまざまな要望に応える「あれも、これも」という行政が通用していましたが、今は「あれか、これか」と判断しなければなりません。つまり、住民からの要望が出ても、何ができて、何ができないのか。トップは厳しい判断を下さなければいけません。自治体によって、濃淡はありますが、人口減少という大きな流れは変わらないのです。
私がジャーナリスト時代に出会った人々をご紹介します。彼らと議論し、この国はどうあるべきか。そして、地方は今後どうなるのか。それが自分の考え方の原点となっています。そして高岡に戻って、再興しようと思ったのです。まずは、北海道知事の鈴木直道さんです。私が出会ったとき、37歳の若き夕張市長でしたが、強烈な印象を残してくれました。そして政治の原点を教えられました。トップの姿勢の重要性です。
私が鈴木さんと会ったのは2018年の8月末です。空港でレンタカーを借りておよそ1時間、夕張市の駅前につきました。夕張市の中心部の通りには、ほとんど歩く人を見かけません。シャッターを下ろした店ばかり目立ちました。
雑草が伸び放題となっている広大な駐車場で車を降りました。そこは、巨大テーマパーク「石炭の歴史村」の跡地でした。かつて大観覧車やジェットコースターなどの遊園地もあったそうです。そこにもの悲しくそびえたつ鉄塔がありました。白地で「夕張希望の丘」と書かれています。その言葉「夕張希望の丘」は、皮肉な現実ですね。
夕張市は2007年に破たんして以降、極限までの行政サービスの削減に追い込まれていました。面積は、高岡市の4倍近くあるのに小学校と中学校はそれぞれ1校しかないのです。子どもたちは凍てつく寒さの中、長時間バスに揺られていました。
そんな状況なのに、鈴木さんは「希望」を語りました。「日本は人口減少、高齢化など課題先進国。世界が今後、抱える課題を日本がいち早く向き合っています。そんな課題先進国、日本の中でも、夕張市は課題先進地です。つまり、夕張市は世界最先端の課題に取り組もうとしています。課題を“希望”に変えていきたい」。
「課題を希望に」。その大きな挑戦をしている真っ最中だというのです。そして、市長としての年収は250万円あまりです。どうしてこんなに報酬が低いのか。
しかも、出張費も自腹だといいます。本当にそんな年収でやっていけるのか。私は不思議でしたが、鈴木さんは深刻さを見せることなく答えました。「妻と共稼ぎです。すべては夕張再生のため」。
鈴木さんによれば、市長の報酬をカットしたことで、2期8年で1億円の削減になります。このお金でほかの事業ができるのです。
そして、私は鈴木さんの次の言葉を聞いて、本気度を痛感しました。
「財政再生計画では、行政サービスは、命にかかわること以外はすべて削らなければなりません。夕張市民が負担に耐えられるかどうかという視点は全くないのです。その結果、若い人は夕張を離れました」。
そうなんです。鈴木さんは、夕張市民のことを思って、自らを律しているのです。私はそこに鈴木流のリーダーシップの本質を見ました。
トップ写真:テーマパーク「石炭の歴史村」の跡地にある鉄塔)執筆者提供
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この記事を書いた人
出町譲高岡市議会議員・作家
1964年富山県高岡市生まれ。
富山県立高岡高校、早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。
90年時事通信社入社。ニューヨーク特派員などを経て、2001年テレビ朝日入社。経済部で、内閣府や財界などを担当した。その後は、「報道ステーション」や「グッド!モーニング」など報道番組のデスクを務めた。
テレビ朝日に勤務しながら、11年の東日本大震災をきっかけに執筆活動を開始。『清貧と復興 土光敏夫100の言葉』(2011年、文藝春秋)はベストセラーに。
その後も、『母の力 土光敏夫をつくった100の言葉』(2013年、文藝春秋)、『九転十起 事業の鬼・浅野総一郎』(2013年、幻冬舎)、『景気を仕掛けた男 「丸井」創業者・青井忠治』(2015年、幻冬舎)、『日本への遺言 地域再生の神様《豊重哲郎》が起した奇跡』(2017年、幻冬舎)『現場発! ニッポン再興』(2019年、晶文社)などを出版した。
21年1月 故郷高岡の再興を目指して帰郷。
同年7月 高岡市長選に出馬。19,445票の信任を得るも志叶わず。
同年10月 高岡市議会議員選挙に立候補し、候補者29人中2位で当選。8,656票の得票数は、トップ当選の嶋川武秀氏(11,604票)と共に高岡市議会議員選挙の最高得票数を上回った。