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.国際  投稿日:2023/11/15

このままではハマスの勝利に終わる


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2023#46

2023年11月13-19日

【まとめ】

・ガザ問題への世間の関心は、イスラエルの軍事行動への批判に移りつつある。

・人質を取るハマスは有利。イスラエルは徹底した「掃討作戦」が難しくなるかも。

・このままでは「国際法を無視する勢力が勝利する」いつものパターンに終わるようだ。

 

今週のハイライトはやはりサンフランシスコで開かれる米中首脳会談日中首脳会談だろう。ところが、この原稿を仕上げるのはこれら会談の数日前であり、結果についてはコメントできない。何とも「もどかしい」タイミングではあるが、こればかりは仕方がない。現時点で書けることを今週の産経新聞コラムに書いたのでご一読願いたい。

「さわり」だけ書けば、何のことはない。米中首脳会談で「起きること」を予測するのは難しいが、「起きないこと」を論ずるのは比較的易しいということ。今回のコラムでは「習近平の外遊の成否」「空港に米側の誰が出迎えるか」「米中首脳会談にサプライズはあるか」「国防当局対話は再開されるか」「ガザ問題の行方は」等について書く。

日中首脳会談も久し振りだと思うが、状況は米中と変わらない。中国は、首脳会談を前に新たな外交的問題を作り出し、一方的に首脳会談の値段を吊り上げ、相手側の譲歩を得た上で、元の状態に戻すという、お決まりの外交をやっている。国防当局対話の中断や福島「処理水」の批判が好例だ。その通り、中国は変わらないのだ。

最後に日本について一言。いつも述べていることだが、残念ながら、中国にとっては対米関係が最大関心事で、日中関係は「独立戦略変数」ではない。日本は譲歩しないので、今回中国が福島「処理水」批判を止めるとは思わないが、当面はこの問題の行方が日中関係の方向性を示す「リトマス試験紙」になるだろうと思う。

続いては、いつものパレスチナ情勢だ。筆者の見る現時点での状況は次の通り。

 

●ガザ問題への世間の関心は、紛争勃発当初の「ハマスによる幼児や女性への凄惨な殺戮を含むテロ行為」非難から、イスラエルの「国際法に反した非人道的民間人殺害」を伴う軍事行動への批判に移りつつある。

●外務省現役時代、筆者はガザに何度も足を運んだので、パレスチナ人の子女がハマスの「人間の盾」とされ、結果的にイスラエルのハマス「殲滅作戦」の犠牲となっていることに対しては個人的にもとても強く同情している。

●こうした状況があると民主主義国家では民意が大きく揺れる。欧米諸国には言論の自由があるので、反イスラエル抗議活動が拡大するのは当然。イスラエルの自衛権を強く支持するバイデン政権ですら、現状には政治的に耐えられないだろう。

●では他のアラブ、イスラム諸国はどうかというと、言論の自由が保障されない諸国でも反イスラエルデモは拡大している。それが「反政府運動」に転化しない限り当局は黙認するからだ。パレスチナ問題は相変わらずこれら政権の内政上の手段でもある。

●ガザでの事態は恐らく徐々に膠着状態となるだろう。人質を取るハマスは有利であり、イスラエルは今後徹底した「掃討作戦」が難しくなるかもしれない。そうなればすべてはハマスの「思う壺」なのだが、これも戦闘が始まる前から分かっていたことだ。

●となれば、この戦闘も、結果的にはハマスが勝利することになる。それで良いとは誰も思わないが、同時に、これ以外に戦闘は終わりようがない。残念ながら、このままでは「国際法を無視する勢力が勝利する」いつものパターンに終わるようだ。

さて、続いては、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。

 

11月14日 火曜日 独首相、ギリシャ首相と会談

ブラッセルでEU国防大臣会合

リベリアで大統領選決選投票実施

11月15日 水曜日 米中首脳会談

仏大統領、スイス訪問(16日まで)

11月16日 木曜日 日中首脳会談?

南アフリカ議会、対イスラエル外交関係について議論

マダガスカルで大統領選挙実施

ロシア外相、ベネズエラ外相と会談

11月17日 金曜日 国際司法裁判所、アルメニア提訴のアゼルバイジャン問題について判断

独首相、トルコ大統領と会談

11月19日 日曜日 アルゼンチン、大統領選決選投票

11月20日 月曜日 マーシャル諸島、議会選挙

 

今週も時間の関係でコメントはこのくらいにさせて頂こう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真:イスラエルの空襲で負傷し、病院に運ばれるパレスチナ人(2023年11月14日 パレスチナ自治区ガザ)

出典:Ahmad Hasaballah /GettyImages




この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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