イスラエルの攻撃対象は北部から南部へ
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2023#49
2023年12月4-10日
【まとめ】
・イスラエルの攻撃対象は、制圧が進む北部から南部に移りつつある。
・イスラエルの「国際法に反した非人道的民間人殺害」は続く。
・これから数週間は徹底的なハマス掃討作戦が続くだろう。
今週はまずUAEで開かれている国連気候変動会議COP28を取り上げる。2日には首脳級会合が終わり、「2030年までに世界全体の再生可能エネルギーの発電容量を3倍に引き上げること」を110か国以上が「誓約する」ことになったそうだ。ふーーん、でも再生可能エネルギーだって化石燃料を利用せざるを得ないのでは・・・?
それにしても、気候変動の問題を話す国際会議を、二酸化炭素を大量に出す化石燃料を多く産出するUAEで開くこと自体、実に皮肉な話である。利益相反ではないのかね。「温暖化」対策で会議を開催するのは良いが、UAEは「国際政治の中で生き残る」ため必死に頑張っているという印象を持った。ちょっと意地悪すぎるだろうか。
それはともかく、環境問題というと外務省入省直後を思い出す。当時、OECDを担当する課に配属され、OECD環境委員会の担当官になったからだ。以前から環境委員会は野心的な政策提言を盛り込んだペーパーを大量に作成していた。担当官は当時の通産省と環境庁とともに日本政府の対処方針をまとめる必要があったのだ。
入省一年生の研修生には結構酷な仕事だったが、今でも思い出すのは当時の通産省と環境庁の「鍔迫り合い」というか「喧嘩」だった。通産省は環境よりも経済成長を重視し、環境庁の意見なんて歯牙にも掛けなかった。今から思えば、信じられないような「縄張り争い」が毎日繰り広げられていたのである。
それが今はどうだ。経産省産業技術環境局の資料によれば、当時の西村環境大臣が「COP27」の閣僚級セッションで、今後10年間で150兆円超のGX投資の実現、脱炭素につながる新しい国民運動の開始、「アジア・ゼロエミッション共同体」構想の実現という「3つの取り組みを発信しました」とある。時代は変わったものだ。
時代といえば、最近面白い記事を読んだ。11月末、インドと中国が両国の「国境問題協議調整ワーキングメカニズム(WMCC)」の第28回会合を開いたそうだ。印中間ではラダックなどをめぐり近年国境紛争が起きており、今回は印中間の一種の「信頼醸成措置」の一環として会合が開かれたようである。
インド側もこれから冬を迎え、印中国境にどの程度の部隊を配置するかを考えなければならないらしい。しかし、そうなると、インド側の財政的負担もかなり大きいということか?中国は境界の中国側で基礎インフラを急速に整備しているので、インド側も同様の公共投資が必要になるそうだ。今後も印中関係もしっかり見ていかないと・・・。
最後は、いつものパレスチナ情勢だ。筆者の見る現時点での状況は次の通り。
●7日間の「戦闘停止」が終わりイスラエルは予定通り戦闘を再開したが、今後の攻撃対象は、制圧が進む北部から南部に移りつつある。
●イスラエルがどんなに注意深く攻撃したとしても、ハマスの戦闘方法は非戦闘員を巻き込む戦法だから、イスラエルの「国際法に反した非人道的民間人殺害」は続く。
●それでも、イスラエルは戦闘を止めないだろう。最悪の場合、これから数週間は徹底的なハマス掃討作戦が続き、パレスチナ非戦闘員の大量犠牲も続くだろう。
●昔、PLOがレバノンに逃げ込んだ後、イスラエルの掃討作戦でアラファトはPLO戦闘員とともにチュニジアに逃れたが、今ハマスを受け入れるアラブ国家はないのでは・・・?
今週も時間の関係でコメントはこのくらいにさせて頂こう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
トップ写真:イスラエルの空爆で死亡したパレスチナ人の遺体を前に嘆き悲しむ人々。 2023年12月6日 ガザ・ハーンユニス
出典:Ahmad Hasaballah/Getty Images
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この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表
1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。
2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。
2006年立命館大学客員教授。
2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。
2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)
言語:英語、中国語、アラビア語。
特技:サックス、ベースギター。
趣味:バンド活動。
各種メディアで評論活動。