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.社会  投稿日:2024/3/29

宝塚 劇団員急死問題で一転いじめ認める


安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト

【まとめ】

宝塚劇団員急死問題で、阪急阪神ホールディングスと阪急電鉄株式会社、宝塚歌劇団はいじめをみとめ、遺族側と合意した。

・去年の会見ではいじめはなかったとしていた。

・伝統を守ろうとして伝統を毀損した例。人の命や尊厳を守れない組織は、社会から退場を迫られるだろう。

 

開いた口が塞がらないとはこのことだ。

去年9月30日に宝塚劇団員が急死した問題をめぐって、3月28日、阪急阪神ホールディングスと阪急電鉄株式会社、宝塚歌劇団は3社連名で、「宝塚歌劇団宙組劇団員の逝去に関するご遺族との合意書締結のご報告 並びに再発防止に向けた取組について」とするリリースを発表した。

阪急・劇団側は去年発表した調査報告書で、「パワハラはなかった」との見解を示していたが、それが一転、本合意書においてパワハラはあったと認めたのだから仰天だ。これほど180度言うことが変わる例は異例としかいいようがない。

何でも横文字にする風潮があるが、パワハラ=いじめである。いじめはなかったとした、去年の宝塚側の会見について、筆者は今年元旦に、「稚拙な不祥事会見は今年も増える【2024年を占う!】危機管理」と題した記事にこう書いた。

『宝塚歌劇団のいじめ自殺疑惑の会見でも、出席した木場健之理事長らはいじめ・パワハラ疑惑を全否定した。一方で、遺族側が主張している「ヘアアイロンいじめ」について、井塲睦之理事・制作部長は報告書を読み上げるなか、「ヘアアイロンを故意に額に押し付けるなどのいじめがあったのか」の項目で、「ヘアアイロンで火傷をすることは劇団内では日常的にあること」とした。これは筆者も会見を見ていて違和感があった。

そもそもヘアアイロンは高温になるもので自分が髪を巻くためのもの。普通、怖くて他人に自分の髪をヘアアイロンで巻いてもらおうとは思わないだろう。もし他人の髪にヘアアイロンをあてるなら相手の皮膚にアイロンが触れないよう細心の注意を払うはずで、日常的に火傷が発生する、などとする報告書で世間が納得すると思った時点でアウトだ。

この質問が出ることは当然事前にわかっており、この報告書をOKした幹部らの感覚はずれているといわざるを得ない。もし、危機管理コンサルタントが入っていたなら、他の回答を用意していたはずだ。明らかに準備不足だ』。

合意書では14項目のパワハラを認め、ヘアアイロンの件については、

「2021年8月14日、宙組上級生が、被災者が自分でやることを望んでいたにもかかわらずヘアアイロンで被災者の髪を巻こうとして、 被災者の額に1か月を超えて痕が残るほどの火傷を負わせたこと、及び、 それにもかかわらず、当該宙組上級生は、真に被災者の気持ちを汲んだ 気遣い・謝罪を行わなかったこと」、とした。

なぜこの上級生が被災者の意思に反して、「被災者の髪を巻こうと」したのか書いてないが、パワハラ行為のトップに持ってきていることから、この行為はパワハラと認定されているということだ。

いずれにしても、組織防衛をしたつもりが、猛烈な社会からの批判を招き、これではまずい、と方針を一変させ、いじめを認めて合意に持っていったと受け取られても仕方がない。最初からそうしていれば、宝塚に対する世間の印象は違っていただろうが、すべては手遅れだ。

奇しくも、旧ジャニーズ事務所の問題と同じ教訓を提示している。伝統を守ろうとして伝統を大きく毀損した例として、語り継がれることになろう。

芸能・スポーツの世界で不祥事が相次いでいる。大相撲も、元幕内・北青鵬による暴行問題に端を発し、宮城野部屋の当面の閉鎖が決まるなど、揺れに揺れている。パワハラ・いじめ・セクハラなど、一般社会ではすでに厳しく取り締まられているものが野放しになっている印象だ。

過去、幾度となく指摘されてきたこれらの悪しき因習を一掃する覚悟がない組織、人の命や尊厳を守れない組織は、社会から退場を迫られるだろう。

宝塚が、新たなスタートを切るためには、相当の覚悟が必要だ。今回発表された「再発防止に向けた取組(劇団の改革)について」では、「興行計画の見直し(興行数・公演回数の削減)」を筆頭にさまざまな対策が列挙されているが、パワハラ・いじめは人の心の問題に起因する。いくら仕組みを作っても人は容易には変わらない。

もし宝塚が本当に変わったと社会に認知されるためには、それ相応の覚悟がないと、同じような問題がまた起きるだろう。それができるかどうか、今後厳しく問われ続けることになる。

トップ写真:宝塚大劇場 出典:bee32/GettyImages




この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

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