メディアが報じない政策を語る!Part2「ライドシェア」Japan In-depth創刊10周年記念対談 元環境大臣小泉進次郎衆議院議員
安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)
【まとめ】
・コロナ禍によるタクシードライバー不足を解消するために、二種免許資格のハードルを下げる必要がある。
・業務委託であっても、教育やテクノロジーによって安全性は担保される。
・2024年にはますます、雇用のあり方や法律が整備される予定だ。
■ライドシェア急浮上の背景とは
安倍: Japan-In Depth創刊10周年記念動画ということで、小泉進次郎さんの回、第1回目の続きの第2回目です。小泉さんよろしくお願いいたします。
小泉: 改めて(10周年)おめでとうございます。
安倍: ありがとうございます。小泉さんも第2子ご誕生おめでとうございます。
小泉: ありがとうございます。オープニングの型みたいになっちゃいましたね(笑)
安倍: はい(笑)
1回目の動画では、子ども子育て政策のことを、意外にも熱っぽく語られていて、私にとっても非常に印象深かったんです。
今回はやはり今一番話題になっていて連日新聞にも出ています、ライドシェアの問題について。これまではあまり話題になっていませんでしたね。Uberは日本に来てから久しいですが、日本でいうところの、少し響きが悪いですが「白タク」、英語でいうところの「ライドシェア」というものが急に浮上してきたように思います。その背景は何ですか?
小泉: やはりコロナ禍を経験をした後に思ったほどタクシーのドライバーさんの数が増えない。すごく減ってしまって戻ってこない。地域の足を支えているバスもなかなか運転手さんが戻ってこない。また雇えない、また集まらない。それが原因で、減便やダイヤ改正などがなされ、移動に困難を抱えているという悲鳴が各地域から高まってきたということが背景にはあるのではないかな、と。間違いなくそう思いますね。
■なぜタクシードライバーが不足しているのか
安倍: タクシーがおそらく日本で一番多いと思われる東京ですら、タクシーの運転手さんに聞くと、誰も運転手のなり手がいないので、車が沢山余ってる、と言っていました。
小泉: それはうちの地元も全く同じ状況です。とても問題意識が強くなったきっかけは、地元の三浦市は夜の7時以降タクシーがないことです。
例えば飲みに行くのは7時までに行けばいいかもしれないけれど、帰りはどうしているのかと地元の人に聞いたところ、なんと「飲み屋に送ってもらうんだよ」と言うのです。「どうやってですか?そんなことできるんですか?」と聞いたら、「ボトルキープとか、もう1本入れるとか、そういったこともある」と言うのです。つまり、実態として形を変えた白タクみたいなケースがあるのです。
しかしそれも、三浦市のように地域のつながりが非常に強い地域だから、「悪いけど、今日うちまで送っていってくれよ、場所分かっているだろう?」というようなやり取りがありえるのです。東京でそんなことはできっこないじゃないですか。19時以降タクシーがない、という話をきっかけにいろんな方の話を聞くうちに、ライドシェアも必要だけれども、そもそもタクシーがどうしてこんなに足りないのかということになりました。
タクシー会社の人の話を聞いたら、実は「タクシー運転手になるには二種免許だけじゃダメなんだ」そうです。「地理に詳しくないと。地理試験で80点取って受からないとハンドルを握れないんだよ。しかもそれは全国あまねくやっている試験でなくて、大都市だけのテスト、ごく一部なんだよ」と。
ごく一部というのは、東京と大阪と、神奈川県の中だと川崎、横浜、横須賀、三浦。そして、三浦市のタクシードライバーさんも横須賀、横浜、川崎の地理に詳しくないと地理試験に合格できないのです。それっておかしくないですか。実際採用で来てくれた人が、地理試験に合格せずにいて、二種免許は持っているのにハンドル握れずじまいでいるのです。こんなにタクシーがないのに、夜の7時以降ないと言っているのに。おかしいでしょう。
今はもうスマホで、「運転手さん、すみませんけど、こちらに行ってくれませんか?」という風に、僕らお客さんが運転手さんに、行ってほしい所をナビすることがありますよね。それで良くないですか?カーナビもあるでしょう。それでも紙の地理試験をやっていたんですよ。なので、「まずはそこを変えませんか?」と。
そこで、「地理試験を廃止してくれ」と国交省に言いに行こう、ということになりまして、私と神奈川県のタクシー協会の会長さんと、日本のタクシーハイヤー連合会会長である日本交通社長の川鍋さんと一緒に国交大臣のところに行き、地理試験の廃止要望をして、ついに今月の(注:収録は2023年12月)政府の発表予定では、地理試験の廃止という方向になる予定です。これもタクシー業界が長年望んできたけれど、実は政治や行政に気を使って口に出してこなかったのです。
安倍: 私も仕事上急いでいる時にタクシーに乗ることがあります。ただ、ドライバーが全然道を知らないので、思わず言っちゃうんですよね、「地理試験に受かったんですよね?」と。
小泉: いや、まず、安倍さんが「地理試験受かったのでしょ?」っていうこと自体が普通の人じゃないと思いますよ(笑)。僕も地理試験のことを運転手さんに聞くようになってから、「すみませんがお客さん、なんで地理試験知ってるんですか?」と言われるようになったくらいですから。でも、本当に新しく採用された方などは(地理が)わからないですよね。
安倍: まあ確かに。私、家は世田谷なんですが、細い道があるわけです。一方通行とかたくさんあって、道が分からない運転手さんには自分で指示した方が早いですから。
小泉: でも、それはそれでいいじゃないですか。
安倍: そう思いますよ。
小泉: もしタクシーがもうジャブジャブに余っている時代だったら、まず振り落とすために人があまり受からない地理試験を設定することはあると思います。だけど、今の時代はとにかく運転手さんが必要なんですから。
そこで、時代遅れの規制はタクシー業界を苦しませるだけだから、徹底的に規制改革をしよう、というのが最初なのです。ただ、タクシーだけでこれからのニーズを満たせますかと言ったら、それは満たせない。それなら新しい選択肢を、ということで出てきたのがライドシェアです。
■ライドシェアの必要性
安倍: でも、タクシー業界は反対してますよね?
小泉: タクシー業界の皆さんやタクシー議連の皆さんはライドシェア断固反対、というより、「安易なライドシェア」に反対なのですよ。
安易というのは、ルールもなく、安全対策なども講じられることなく、誰でもできてしまう、ということです。そういったライドシェアはダメだと言っているので、しっかり安全性が担保されれば、選択肢としてはもう端から規制するものではないのです。
ただライドシェアの必要性を訴える中で、そもそも今の日本にないサービスなので、ライドシェアが今世界でどのような形で展開されてるのか、という認識を共有することにすごく苦労しました。
安倍: 国によってそんなに違うのですか?
小泉: バラバラで。例えばアメリカなどで運用されているライドシェアの形と、イギリスなどでも全然違うのです。
イギリスでは、マイカーで走っているライドシェアをハイヤーという位置づけで運用しています。そのハイヤーを仮に日本にそのまま当てはめると、二種免許なんですが、イギリスで同等の免許を取るのは日本より簡単なのです。
日本の場合は二種免許を取るためにも数十万円、さらに最低でも8日間の教習所での講習が必要です。これも中身を見ると時代遅れの講習の中身になっています。例えば、8日間のうち実車の訓練は3時間が上限という規制がかかっているのです。仮に、1日で4時間まで実車ができるように変えれば、少なくとも8日間が6日間に2日間短縮できて負担が下がります。なぜそれをやらないのかというと、警察庁の判断はドライバーさんの疲労度を勘案すると3時間までだというのです。
疲労度っていうのは疲れるってことですよ。よく考えてください。タクシードライバーさんになって「3時間以上やると疲れてしまいます」ということがあったら、「そもそもタクシードライバーさんとしては適性がないのでは?」と思うでしょう。
では、「この規制は誰を守ってるんですか?」という話になる。これが規制改革の、ある意味真髄の一つなんです。何のためにやっているのか?ということが時代と合わせて変わってくる。誰も幸せになっていないルールの一つがこういうものなんです。
これを変えていくことによって、ハードルも下げて二種免許を取りやすくすることができればタクシーだって増えますよね。だけど、仮にイギリスのライドシェアのように二種免許的な位置づけを与えてマイカーが走るようなライドシェアをやろうとしたら、二種免許の改革もやらなきゃいけないのです。
安倍: 同時に、ですね。
小泉: はい、同時に二種免許の改革もやります。そこで今後ポイントとなってくるのはやはり、まず世界ではどういったライドシェアをやってるのか、という認識を国内で共有してもらうことと、安全対策を置き去りにしたままライドシェアが行われることは絶対にありません、ということをちゃんと伝えることだと思ってます。
■安全性において雇用は絶対条件か?
安倍: 安全対策はもちろんですね。しかし、それがタクシー会社による雇用って話になるんですか?
小泉: この「雇用をしないとダメだ」というところは、かなり誤解されているか、もしくは意図的な誤解で言われていると思います。
安倍: もう既に私も言ってしまいましたよね。
小泉: そうなのです。今この番組を見ている人は「なぜ雇用の問題の話になるの?」と思っているかもしれませんが、ライドシェアをやる場合、そのライドシェアの運転手さんはプラットフォーマーやタクシー会社から雇用されている形でないといけない、と言っている業界や国交省も含めた声と、業務委託という形も必要だと思っている私や、ライドシェアもタクシーも両方必要なのだと言ってる立場の声があります。この違いは、安全性を担保するためには何が必要なのかという議論から来ているのです。
『雇用をしっかりしなくては安全性は保てない』という立場の人と、『安全性は雇用か業務委託かどうかで決まるものではない』という立場の人と、認識をどうやって合わせられるかどうかです。
私は雇用だけでなくて業務委託も選択肢として認めないと、ライドシェアに供給力は出ないと思っています。業務委託を認めたからと言って安全性が担保できない、ということには繋がらない。例えば命を預かる大切なお仕事の中で、すでに業務委託でやられてることってあるんですよ。それは、訪問介護や訪問保育、いわゆるベビーシッターです。こういったものはすでに業務委託でやられています。高齢者の命と子供の命を預かる大切なお仕事を、業務委託で既にやっているということが安全性を担保していない、と言えますか?違いますよね。
安倍: どうしてタクシーだけそういう話になるのかってことですよね。しかし、タクシーの運転手さんのインタビューなどをテレビで聞くと、タクシー業界では会社が教育してくれるみたいですから、それに比べると白タクなんかでは危なっかしいと言われて、それがまことしやかにみんなの耳に入るから不安になるんでしょうね。
小泉: そうだと思いますね。しかし、このように「訪問保育・訪問介護はすでに業務委託でやられています」と言った瞬間に受け止めが変わるんです。このことが言われないまま、「雇用か?業務委託か?」というところの論争をやっているのは不毛です。
政府は近々ライドシェアの方向性を出します。今年・今月(2023年12月)出される方向性に基づいた具体的な議論を来年(2024年)やる予定です。
まずは先行的に来年(2024年)の春ぐらいから、例えば私の地元の三浦や、他の自治体の中でも北海道の函館、大阪、九州の別府など、「もうライドシェアを認めてください」と言っている自治体の皆さんでできるような形を、現行法の枠内で柔軟に規制を改革をしてやってもらう。ただ、ライドシェアを安全性を持って、義務・規制をかけてやっていくためには法律が必要なので、来年は、法律にするとしたらどういったことにしっかりと規制の網をかけていくのかを話し合っていきます。こういったことの議論が進む中で、今言った雇用の話も決まってくると思います。
安倍: では、タクシー会社による雇用がマストというわけではないのですね?
小泉: それをマストにしてしまうと、結局ドライバーさんが、なり手が出てこないと思います。
元々タクシードライバーさんというのは専業が基本なのに対して、ライドシェアというのは副業が基本なんです。そもそもが違うので、これからタクシー会社の中でライドシェアをやりたいというところが絶対出てきます。その場合も、ライドシェアに業務委託という選択肢がないと、結局ドライバーさんの空き時間や都合で、例えば「今日は2時間だけだったらできるよ」というケースが出てこなくなります。
安倍: そうですね、従来のタクシーと同じになってしまいます。
小泉: ですので、今後のことを考えても、雇用と業務委託の両方の選択肢を持つことで柔軟な運用が可能になります。
■テクノロジーによって守られる安全
安倍: なるほど。先ほど訪問介護などの例もありましたが、業務委託の場合、おそらく何らかの免許か、何らかの指導や教育を受けなくてはいけないと思うのですけれども。
小泉: 間違いないです。
安倍: それはライドシェアが業務委託になった場合も変わらない。何らかは教育されなくてはならない、という事ですね。
小泉: そうです。世界のライドシェアもそういったことなく走っている所ってないのです。よくある誤解で、ライドシェアは保険にも入ってない、そして車検もやってない、それとまさに講習もしない、というものがありますが全部嘘です。やっています。
さらに、「副業で稼げるからといって、24時間ずっと走っている運転手がいたら危ないじゃないか?」という声もあります。私が今年(2023年)8月にオーストラリアに行ってライドシェアを利用して、聞いて、ルールもどうなっているのかを改めて調べてみたところ、12時間以上ライドシェアのドライバーとして働いていたら、それ以降はアプリが利用できなくなることが分かりました。そうすることで、運転手さんの健康管理をし、ユーザーのリスクが高まることを排除している。こういう運用のあり方を各国が今決めているのです。
安倍: テクノロジーでいくらでもできるわけですね。
小泉: おっしゃる通りなんです。今まではテクノロジーが追いつかなかった所は行政が規制をかけてきましたが、行政が規制をかけるのは、手続きのコストも時間もかかるし、柔軟性もないのです。それが、テクノロジーが出てきたことによって、例えばアルコールのチェックだって営業所でリアルでやらなくてもできるのです。
さらにですね、最近Uberでは女性が一人だと危ない、という声が出ているのですが、そんな中、今サービスとして使われて比較的好評なのは、一人で乗ったお客さんが、提携している警備会社と、乗っている間ずっと電話で話せる、というものです。アプリの中での通報ボタンはもう当たり前、そこから先に行っているのです。
安倍: 常時監視ですね。
小泉: 常時監視。こういったこともやってるんです。ライドシェアの反対をしている議員の先輩たちと話をしていると、そもそもそういったことが情報として入ってない中で、漠然と、ライドシェアは訳がわからない、というところで反対されている方が結構多いように思います。
安倍: それは困っちゃいますね。
小泉: 一番最初に、あるベテランの方から、「誰が運転しているかわからないからダメだよ」と言われたんです。これもライドシェアを利用したことある方からすれば完全なる事実誤認じゃないですか。タクシーのドライバーさん以上にドライバーさんの情報がわかるのがライドシェアです。名前、顔、レーティング、評価。さらにその運転手さんは今まで何回運行したことがあるか?トリップ数、どれくらいの期間やってるか?
そしてさらに、なかなか言われてなくて、もっとタクシー業界側が言ったらいいのにと思うのは、ドライバーさんのことを守ることも大事だということです。ライドシェアは嫌なお客さんを乗せなくていいのですから。お客さんのことも評価できます。暴言を吐く、酔っ払い、荒っぽい、過去にとても嫌なことされた…そういったお客さんのことをドライバーさんが評価して、呼んでいてもないっていう選択肢があるのですからね。
安倍: そうですね。評価を落とせばいい。
小泉: そういったことを一個一個示していく。
■発揮される改革実現力
小泉: その中で来年(2024年)、論点である雇用の在り方や、法律にする場合はどうしていくのか、といったところを決めていくのが大事なことです。
とりあえず今年の年内の政策の進捗としてはもう異例の速度で方向性が出てきて、来年4月からはまず先行的に動くっていう手はずが整ったので、今世の中で様々な場所で、日常であっても観光であっても移動に不便を感じている方にとって解決策の一つを提示することができたと思います。
安倍: この半年ぐらいで大きく動きましたよね。
小泉: そうですね。菅さんが講演で「ライドシェア」と言ったのが8月ですから、それからすると今4ヶ月。それでここまでの方向性を今出そうとしているというのは、やはり改革実現力というか。いろんな動きが一つになったっていうことですね。
安倍: やろうと思えばできるわけですよね。国会議員というのは英語でローメーカー、と言うわけですけれども、『法律』、つまり世の中の規則をきちんと作っていくということで、やはり政治家のそういう活動ってとても重要だと思います。
現在政局真っ盛りですが、我々も視聴者の皆さんも政策を見ていかなくてはいけないなと思います。
小泉: ぜひ見ていただければ、と思います。
安倍: 今日はお忙しい中、本当にありがとうございました。
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この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員
1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。
1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。
1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。
2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。