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.経済  投稿日:2024/1/2

個人消費は伸びず【2024年を占う!】国内景気


安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

【まとめ】

・2024年景気回復の兆しは見えない。

・食品値上げ、エネルギー費高止まりに加え、税と社会保障費の負担がのしかかっている。

・個人消費は伸びず景気腰折れの懸念も。景気対策が政府の至上命題。

 

明けましておめでとうございます。

いつもJapan In-depthを愛読下さりありがとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

さて、今年の景気を見てみたい。

2024年は辰年だ。2024年の干支は、正確には「甲辰(きのえ・たつ)」というらしい。十二支にまつわる兜町の相場格言では、「辰巳(たつみ)天井」といい、株価が高値で推移することが市場では期待されている。

日米株高や円安で個人資産が増え、金融資産は2121兆円(2023年9月末時点)と過去最高を更新した。新NISA(少額投資非課税制度)に期待する声も聞こえる。

しかし、庶民にはそんな実感はないのではないか。エコノミストの2024年景気予測は概ね楽観的だが、彼らも大企業の社員であり、給料が保証されている身。個人事業主やフリーランス、低所得者層の生活実感とはかけ離れている。

食料品価格の高騰、エネルギー費の高止まり、税と社会保障費、教育費の負担などで低所得〜中所得者層は生活にゆとりなどない。

テレビは、年末年始、海外で休みを過ごす人々でごった返す空港の映像を流すが、それはごく一部の富裕層の話だ。

岸田首相は、所得税「4万円減税」にこだわり一時給付金は低所得者層に限定した。野党が要求した消費減税も無視した。システムが複雑になり、国民が恩恵を実感しにくいことが問題だ。そもそも減税は今年6月を予定しており、まだ半年も先の話だ。

エコノミストの予測では、コストプッシュ型の物価上昇圧力は緩和しつつあり、個人消費は堅調に推移する、との見方もあるが筆者は懐疑的だ。

新型コロナウイルス感染症の分類が5類に引き下げられてから7カ月経つが、コロナ禍で変わった個人消費パターンは元には戻っていない。詳しく見ていこう。

 激変する飲食、食品業界

外食は、低価格の店とインバウンド需要に支えられている超高級店はそれなりに客は入っているが、客単価1万円〜1万5千円程度の店は客足が戻らない。2次会、3次会の需要も激減している。タクシー運転手に聞くと、「夜9時以降は都内の繁華街から客が消える」、と嘆いている。また、「タクシーチケットの客もほとんどいない」という。電車が動いている内に家に帰る、というパターンはすっかり定着したようだ。

かつ、外食そのものが減った。リモートワークが当たり前になり、オフィスに行かない人も増えている中、仕事帰りに一杯、という慣習は過去のものとなった。そもそも社会の空気が変わり、部下や同僚に「飲みに行かない?」と誘いづらくなったことも相まって、こちらももう元には戻らないだろう。外資系金融の社員も、「交際費を使うような飲食は以前と比べて大幅に減った」という。

外食が減った代わりに、中食、内食の需要が高まった。中食では、UberEatsなどのフードディリバリーが急速に広まり、内食では生協の牙城にオイシックスなどがミールキットをひっさげ参入、こちらも新たな需要を切り開いた。毎食メニューを考えるのは面倒くさいものだが、その手間を省き、事前に選んだメニューを毎週配達してくれるサービスが受けた。

同時にコロナ禍3年間で、タイパ、節約志向が一層強まる中、コンビニの健闘が顕著だ。特に冷凍食品などいわゆる「冷食」の伸びがすごい。

セブンイレブンの冷凍食品は、販売金額ベースで、2023年度上期は2019年上期比で約1.5倍となった。コンビニの冷凍食品の開発力はすさまじく、新製品が次から次と投入される。最初はチャーハンやパスタがメインだったが、最近は、カレーに始まりお好み焼きやラーメンまである。単価が若干高くても、冷凍庫に入れておけば時間の無いときすぐに電子レンジで温めて食べる事ができるのは、究極の時短になる。売れている理由には商品のクオリティ向上もあるだろう。冷凍食品の味は大きく進化している。大げさではなく、言わなければ冷凍食品とは分からないレベルだ。

ファミレス業界も冷凍食品に力を入れている。ロイヤルはフローズンミール「ロイヤルデリ」が好調だ。2020年から3年間で売り上げは3倍になった。最近ではコインパーキングに自販機を置くなど、マーケティングにも力をいれている。これら冷凍食品は、ミールキットよりさらに時短になることに加え、ちょっと贅沢気分も味わえるとあって消費者のニーズにマッチしたものと思われる。

 自動車業界 トヨタは好調だが・・・

自動車産業では、トヨタが一人勝ちの様相を呈している。2023年4〜9月のグループ決算は過去最高益となり、2023年度の業績見通しは、営業収益が38兆円を43兆円に、営業利益をこれまでの3兆円を4兆5000億円にそれぞれ上方修正するなど絶好調だ。

EVの量販車を持っていなくても、プリウスなどHV・PHVが売れているから問題ないということが明らかになった。ここ数年、あれほどEV投入が遅れている、と市場から叩かれまくったが、結果はこの通り。EVを急いで市場に投入しなくて良かった、と経営陣はほくそ笑んでいるに違いない。

で、そのEVなのだが、日本ではトヨタがEVに本腰をいれてないこともあり、全販売台数の中のEVのシェアは微々たるもの。そうしたなか、日産自動車の軽EV「サクラ」が売れている。1年間で約5万台も売れたという。

軽自動車は日本独自の規格なのだが、「サクラ」が売れているのはやはり景気の問題が大きいと思う。まずガソリン価格が高止まっているし、ガソリンスタンドの数も減少している。都内でも減っているが、地方に行ってレンタカーを借りると、ガソリンスタンドが減ったことを実感する。毎日遠出しないのなら、自宅で充電すれば良い軽のEVは理にかなっている。ホンダも今年軽のEV商用車を販売する予定だという。実用的な消費傾向が強まっているのだ。

また、家電量販店で売れているのは、着る電気毛布やベスト、足元を暖めるパネルヒーターなど、小物暖房家電だという。ここにも節約志向が見て取れる。

■ 厳しさ増す中間層

ここまで見てきた最近の個人消費動向から見えてくるキーワードは、「生活防衛」だ。しかし、そんな消費者の涙ぐましい努力を吹き飛ばすような環境変化が起きている。

それが、税や社会保障費の負担増だ。

インボイス制度は中小企業や個人事業主の負担となる。取引相手がインボイス事業者でない場合、発注元が消費税を負担しなければならないというとんでもない制度でもある。又、パート・アルバイトの社会保険の加入条件が、2024年10月から従業員数51人以上(従来は101人以上)に引き下げられる。これも中小企業にとっては重荷だ。

大企業の賃金は上昇傾向にあるが、その分、従業員が払う税・社会保険料は上がる。「ブラケット・クリーピング」という現象だ。インフレが続くことで名目所得が増大し、所得階層区分(ブラケット)が上がり税負担の増えることをいう。少しばかりベアが上がっても帳消し、ということが起こりうる。ほかにも、40歳以上に加入が義務づけられている介護保険の保険料が、2024年度から年間合計所得が420万円以上の層で引き上げられる。

また、2024年は日銀がマイナス金利の解除に踏み込むと予測されているが、そうなると住宅ローンの変動金利が上昇し、多額のローンを組んでいる中間所得層を直撃する。

ここまでみてきて、個人消費が上向くとはとても思えない。消費者はむしろ財布のひもを締めるだろう。

2024年は景気が腰折れするリスクと隣り合わせだ。岸田政権は自民党の裏金疑惑で大揺れに揺れているが、真っ先にやることは景気対策だ。

Japan In-depthは、今年も新聞テレビが報じないニュースの深層を読者に提供していく。

トップ写真:銀座4丁目交差点(2023年12月1日東京・中央区)ⒸJapan In-depth編集部




この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

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