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.国際  投稿日:2024/3/24

トランプ氏訴追の検事「不倫と人種カード」


古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・トランプ氏がジョージア州の地方検事に起訴された件で、その検事の愛人関係や人種差別の主張が地元裁判所から不適切と判断された。

・ウェード特別検察官は辞め、ウィルス検事は、捜査や公判準備を継続する意向。

・トランプ陣営は、ウィルス検事の捜査継続を認める部分に不服だとして上訴

 

アメリカ大統領選挙にからんで共和党候補のドナルド・トランプ前大統領がジョージア州の地方検事に起訴された案件で、その検事の愛人関係や人種差別の主張が地元裁判所から不適切だと判断された。

同検事の訴追作業の継続だけは認められたが、同検事が法外の高額で採用した愛人の特別検察官は辞任に追い込まれた。この2人とも年来の民主党支持者である。司法システムをも舞台とするこの大統領選での民主、共和両党の戦いはますます激しく、醜くなる様相をみせてきた。

ジョージア州フルトン郡のファニ―・ウィルス地方検事がトランプ前大統領ら19人を2020年の大統領選挙の結果を不当に覆そうとしたとして起訴した訴訟の捜査で特別検察官となっていたネイセン・ウェード氏が3月15日、この検察官ポストから辞任すると言明した。この起訴の捜査に対して同フルトン郡上級裁判所のスコット・マクフィー判事が「不適切にみえる部分がある」という裁決を下した結果の辞任だった。

この事件では黒人女性のウィルス検事がトランプ氏らへの捜査推進のために親しい関係にあった黒人男性のウェード弁護士を特別検察官に雇い、60万ドルという法外な額の報酬を払ったことから、トランプ氏側がこの起訴処分自体の正当性を問う訴えを起こしていた。

その訴えの動議ではウィルス検事がウェード弁護士を特別検察官に任命する以前から愛人関係にあったことが複数の証人により指摘された。ウェード弁護士は既婚者だが、ウィルス検事と頻繁に観光旅行をして、その費用も資金源や2人の間での分担などが曖昧なことが判明した。

ウィルス検事はこの恋愛関係はウェード氏を特別検察官に任命した後に始まったと主張したが、親近者らの証言でその主張が事実ではないと判定された。マクフィー判事はウィルス検事が責任を持つ捜査に愛人を特別検察官として雇うことは不適切だったと裁定し、ウェード氏が辞任するか、ウィルス検事自身が辞任するか、いずれかの道を選ぶように勧告した。その結果、ウェード特別検察官が辞め、ウィルス検事はそのままの立場でトランプ氏らの起訴にともなう捜査や公判準備を継続する意向を表明した。

しかし今回のこの混乱の結果、ウィルス検事が着手した起訴事件の追及自体が遅れる可能性も生まれてきた。

なおウィルス、ウェード両氏とも年来の民主党活動家で司法の世界にあっても、かねてからトランプ氏や保守派への強い政治的反対は堂々と表明してきた。だからこの起訴自体にもどうしても、民主党陣営が共和党側を司法という手段を使って政治的に攻撃するという印象が生まれるわけだ。

しかしマクフィー判事の裁定で注目されたのは、ウィルス検事がこの案件の進行中の今年1月に地元で行った講演について「この主張は一部の関係者に人種上の中傷を与えた」と批判した点だった。ウィルス検事はこの講演で自分とウェード氏への非難に対して「彼らは捜査陣のなかの黒人を攻撃しているのだ」と述べた。「彼ら」について実名はあげなかったが、自分やウェード氏を非難するトランプ陣営側の白人関係者を指していることは明白だった。

この点、マクフィー判事は裁定のなかで「この発言はウィルス検事やウェード氏を批判する側が人種差別を動機としているという『人種カード』の利用とも思われる」と、批判をこめて言明していた。人種の問題が大統領選の争いにもからんでくるというアメリカの現実ともいえそうだ。

なおトランプ陣営はこのマクフィー判事の裁定に対して、ウィルス検事の捜査の継続を認める部分などに不服だとして、上訴した。

*この記事は日本戦略研究センターのサイトへの古森義久氏の寄稿論文の転載です。

トップ写真:フルトン郡庁舎で記者会見を行った、ファニ―・ウィルス地方検事(中央)と、ネイセン・ウェード特別検察官(右)2023年8月14日ジョージア州アトランタ 出典:Joe Raedle/Getty Images




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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