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.政治  投稿日:2024/5/21

国会延長論浮上 解散のチャンス伺う岸田首相


安積明子(政治ジャーナリスト)

「安積明子の永田町通信」

【まとめ】

・自民党派閥のパーティー券問題で、各政党が政治資金規正法改正に取り組んでいる。

・与党も野党も「やった感」を示しているに過ぎない。

・国会延長論も囁かれ始めている。岸田首相が衆議院を解散するチャンスを増大するためだ。

 

表向きの理由は「重要法案を処理するため」になるだろうが、実際には岸田首相が衆議院を解散するチャンスを増大するため

 

 

自民党派閥のパーティー券問題をめぐり、各政党が政治資金規正法改正に取り組んでいるが、あくまで国民に対するアピールで終わりそうだ。まずは5月17日に独自の法案を衆議院に提出した自民党だが、連立を組む公明党とは「パーティー券の購入公開基準」で合意できず、共同提出を諦めた。

 

両党が合意できなかったのは、資金の透明度や責任の所在についての見解に埋めがたい差があったためだ。

 

たとえば現行では企業や個人が購入するパーティー券の金額が「20万円以内」なら公開されないが、より透明性を求めるためにはその限度額を引き下げる必要がある。しかし「5万円」を主張する公明党に対して自民党は「10万円」を断固として譲らず、物別れに終わったために自民党が単独提出。だが衆議院では過半数を制している自民党だが、参議院で単独過半数を維持していないため、そのままでは法案の成立は事実上不可能になる。

 

ゆえに岸田文雄首相は同日、「公明党とも力を合わせ、野党の意見も伺いながら今国会での成立に向けて努力していきたい」と公明党を含む他党に呼びかけた。もっとも「自民党案を衆議院で通過させ、参議院で与党間で再協議するのではないか」との噂もある。公明党をなんとか妥協させ、自民党案に引っ張った内容の法案成立を果たしたい。自民党内には政治資金パーティーに頼る議員は少なくない。9月の総裁選を前にして、そうした議員たちの意見を無視するわけにはいかないからだ。

 

一方で公明党も、安易に自民党に妥協できない事情がある。支持母体である創価学会の高齢化などで、党勢の衰えが見え始めている。同党が2022年の参議院選で獲得した比例票は618万1431票で、目標とした「800万票」より120万票以上も少ない上、前年の衆議院選より約93万票も減らしている。

 

しかも党の創始者である池田大作氏が昨年11月15日に死去した。絶大なカリスマ性を持っていた同氏がいなくなった今、組織の求心力低下は否めない。

 

何より「政治とカネ」問題に巻き込まれたくないという思いが公明党側に存在する。野党は政治資金パーティーの禁止や公開基準のさらなる引き下げを主張している中で、自民党の「10万円」は突出している。それが国民の目にどのように映るのか。衆院解散が囁かれている現在、安易に自民党案に乗ることはできない。

 

一方で、野党もさほど勢い付いてはいない。立憲民主党と国民民主党、さらには有志の会が5月20日、政治資金規正法案を衆議院に提出した。

 

しかしこの3党では法案の衆議院通過すら難しく、「やった感」を示すにすぎない。それでも法案提出の価値があるのなら、それは次期衆院選に向けた国民へのアピールだろう。

 

そのためには各党が独自に動くのでは、大きな効果が生まれない。立憲民主党と国民民主党が共同提出してこそ、国民への効果的なアピールになるのだ。

 

有志の会を加えたのは、元の仲間(旧民主党)であったという理由だけではない。ある関係者は次のように語っている。

 

「実は国民民主党の一部が、立憲民主党と共同提案することに難色を示していた。有志の会を加えたのは、そうした“アレルギー”を緩和するためだ」

 

実際のところ、政治資金パーティーの規制については「パーティー自体を禁止すべき」とする立憲民主党と、「派閥のパーティーを禁止し、公開基準金額を引き下げ、外国人等からの対価の受領を禁止する」とする国民民主党は意見が分かれ、共同提出した法案には盛り込まれていない。政治資金パーティーの禁止ついては立憲民主党は同日、衆議院に独自に提出している。

 

こうした状態で果たして政治資金規正法は改正されるのか。事実上の会期末は6月21日だが、そろそろ国会延長論も囁かれ始めている。

 

表向きの理由は「重要法案を処理するため」になるだろうが、実際には岸田首相が衆議院を解散するチャンスを増大するためだ。2009年に政権交代が実現したのは、麻生太郎首相(当時)が解散時期を誤ったためだった。果たして岸田首相は“その時”を決断できるのか。

 

 

トップ写真)政府与党連絡会議に出席する岸田首相 2024年5月13日 首相官邸

出典)首相官邸




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