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.国際  投稿日:2024/8/9

日中関係の再考 その4 両国の相違


 

【まとめ】

・日本と中国は、理想とする国家の在り方が大きく異なる。

・日中関係は、中国が日本の現状を変えようとし日本がそれを防ぐ「攻守」の関係だと言える。

・ゆえに、現在の日本の対中姿勢は「木をみて、森をみず」である、と言う。

 

 それでは日本と中国との相違とはなにか。対立点はどんな点か。国家としての違い、国民としての異なり、をみよう。その相違点や対立点を追っていくと、「似て非なる隣人」という形容も浮かんでくるのだ。

 まず第1は、日本と中国との衝突、戦争の歴史である。

 周知のように日本と中国は明治時代に戦争をした。日清戦争である。日本が勝利して、台湾を得た。当時の国際的な規範に沿った展開だった。

 そして昭和に入って、日中戦争が始まる。当初は日本が全面支援する満州国の建国だった。やがて1937年(昭和12年)7月7日に起きた盧溝橋での日中両軍の小規模衝突から、一気に全面戦争に近い状態へとエスカレートした。以降、1945年8月の日本の敗北まで、中国全土で戦闘が続く。中国側からすれば、不当な軍事侵略だった。この戦争の歴史は日中両国の間の根深い競合関係、ライバル意識の表象だともいえよう。

 第2は、日中両国が目指す国際秩序の違いである。

 日本は明らかに現存のアメリカ主導の国際秩序の維持を目指す。国際連合、世界銀行、法の統治、自由貿易などを基盤とする世界秩序である。ところが中国は習近平国家主席の言葉を借りれば「中国式の社会主義に立つ新たなグローバル統治」を目標とする。

 だから日中両国がいまの国際秩序の前に立つ場合、日本は現状維持、中国は現状打破という姿勢になる。要するに、目指す世界のあり方がまるで異なるのだ。中国はアメリカ主導の国際秩序に明確な反対の立場をとる。その反対の度合いは近年、日増しに高くなっている。日本の世界観とは正反対ともいえるだろう。

 第3は、基本的な政治の価値観の違いである。

 中国は共産党による一党独裁の統治である。個人の自由による政権や政府の選択という仕組みはない。言論の自由、結社の自由、信仰の自由なども共産党の一枚岩の統治の優先の前では抑えられている。共産党と競う多数政党制も認められない。

 他方、日本では主権在民の自由民主主義が国の最大の基幹である。個人の自由が至上の前提となる。個人が国政の選挙で自由に投票し、支持の政党や政治家を選ぶ。政権は国民の自由な選挙で選ぶ政党によって保持される。要するに日本と中国との間には、水と油ほどの違いが国家や社会のあり方に関して存在するのである。

 第4は、安全保障政策の違いである。

 日本は自国の安全保障をアメリカとの同盟関係にゆだねる。中国はその日米同盟には反対である。日ごろその反対を喧伝こそしないが、日本がアメリカとの同盟を強化する措置には激しく反対する。たとえば日米共同のミサイル防衛網とか、一連の日米合同の軍事演習などに対してである。しかも中国の基本安保政策では、米軍の東アジアからの撤退要求が明白な柱となっている。

 他方、日本は中国の安保政策には懸念を表明しても、具体的に反対を述べることはない。そもそも日本には憲法9条に由来する戦力保持の禁止があって、中国を攻撃できる兵器をみずからに禁じてきた。中国側は対照的に日本全土を射程に納めるミサイル類を数百の単位で保持している。

 第5は、領土をめぐる争いである。

 すでに述べたように中国は日本固有の領土の尖閣諸島を中国領土だと主張して、軍事力を使ってでも占拠しようとする構えをとっている。現実にその前段のように武装艦艇による日本側の海域への侵入をほぼ恒常的に続けている。まさに国際秩序を軍事力で変えようとする動きである。

 他方、日本政府は尖閣諸島が日本固有の領土であることはあまりに明白だとして、中国側の主張を排し、「尖閣諸島に関する領土紛争は存在しない」という姿勢をとっている。だが、中国側が実力行使の形でこの日本側の主張にチャレンジするという現状は、いつ軍事衝突が起きても不思議はない、という危険な状況を生み出している。

 以上、日中両国の相違点、対立点をさらりと俯瞰しただけでも、両国間には国家のあり方の基幹に関する巨大な断層が存在するのだ。それらの相違点の特徴はほぼすべて中国側が日本側の現状に反対し、その変革を求めているという構図である。

 つまり、中国は日本のいまある姿が気に入らないのだ。その日本の現状を中国側の求める形へと変えようとしているのである。だから日中関係の基本は「攻守」だともいえる。中国が日本の現状を変えようとして攻める。日本は現状を保とうとして、守る。こんな全体の構図なのである。

 その基本構図は日本と中国との関係では予見しうる将来、対立が絶えないという厳しい展望を示すといえる。日本側がいくら「日中友好」とか「戦略的互恵関係」という標語の下に中国との目前の対立点で譲歩や妥協に努めても、それは大きな森のなかの個別の木、というよりも、枝葉の調整にすぎないのだ。この全体図を認識しない場合、日本側の中国への姿勢はまさに「木をみて、森をみず」ということになる。狭窄の認識というわけである。

(その5につづく。その1その2その3

トップ写真:二国間首脳会議で習近平国家主席とプーチン大統領が挨拶する様子(2024年7月3日、カザフスタン・アスタナ)

出典:Photo by Contributor/Getty Images




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