無料会員募集中
.政治  投稿日:2021/11/13

総選挙番付 損した人得した人


樫山幸夫(ジャーナリスト、元産経新聞論説委員長)

【まとめ】

・「得」東正横綱は岸田文雄内閣総理大臣、西は「日本維新の会」代表松井一郎大阪市長。

・「損」の横綱は、立憲民主党枝野幸男代表と自民党の甘利明前幹事長。

・朝日新聞、各紙予想外す中「自民が単独過半数確保の勢い、立憲はほぼ横ばい 朝日情勢調査」とほぼ的中させ、底力示した。 

  

 「得意淡然 失意悠然」ー。

勝海舟の言葉というが、うれしい時は淡々と、つらいときも悠々としていろという意味だろう。

今回の総選挙で当選を果たした人、苦杯をなめた人、この言葉をかみしめ、永田町で活躍、または地元で捲土重来を期してほしい。

■ 「得るは失うのもと」岸田、怨念晴らし喧嘩も強くなった?

「得」東の正横綱格は、もちろん内閣総理大臣、岸田文雄。

理由をあげるまでもないだろう。

総裁選の勝利も危ぶまれ、総選挙も大幅議席減確実といわれながらふたを開けてみれば、総裁選は圧勝、総選挙では自民党だけで絶対安定多数を維持した。

国民に人気の高い河野太郎を蹴散らし、地元広島での参院選公認などにからむ二階前幹事長、菅前首相への深い怨念を晴らした。

幹事長交代に伴う外相人事でも安倍、麻生の両元首相の意向を慮ることなく自らの方針を貫き、「喧嘩に弱い」という悪評も返上した。

好事魔多し。今回はツキに恵まれていただけかもしれない。来年の参院選挙に勝利して初めて安定政権が見えてくるだろう。

■ 維新・松井は大阪都構想にこだわれぬ

もうひとりの横綱は文句なしに「日本維新の会」代表、松井一郎大阪市長だろう。

▲写真 日本維新の会松井一郎代表(2021年10月19日) 出典:Photo by Buddhika Weerasinghe/Getty Images

みたところも語り口も、いかにも大阪のおっさんだが、議席何と4倍増、全国政党に伸長させたのだから、なみの手腕ではない。

「大阪都」構想もいいが、全国政党になったからには、外交、安全保障問題なども今以上に発信が求められよう。中小政党が一時的に議席を伸ばして次の選挙では再び衰退というケースは過去少なくなかったから、心したい。

■ 林、野望むきだせば足下すくわれるか

大関ではまず、幹事長、甘利明辞任の〝玉突き〟で外相に就任した岸田派ナンバー2の林芳正をあげたい。

▲写真 林芳正防衛大臣(当時)2008年08月01日 出典:Photo by Koichi Kamoshida/Getty Images

参院議員を5期、防衛相などを歴任した政策通。今回の総選挙で山口3区に鞍替え、ベテランの河村建夫を引退に追い込んで初当選を奪い取った。2012年の総裁選にも出馬、「総理を狙うには衆院でなければ」と野心を隠さない。

しかし、父親の代からの安倍前首相との対立もあり、ギラギラしたところを向きだしにすると足元をすくわれるだろう。玉木雄一郎率いる国民民主党は、野党共闘への参加を見送り、今回3議席増やした。立憲民主党と共産党の選挙協力が不発に終わったのとは明暗を分けた。

選挙後、立民、共産、社民各党との「野党国会対策委員長会談」への参加を今後は見送ることを表明した。それが来年の参院選に向けての独自路線なら、維新の会との連携目的は何か。 

■ 相変わらず国民人気高い河野

いつの世論調査でも国民の人気が圧倒的な河野太郎。

▲写真 米国防長官のマークエスパーと河野太郎防衛大臣(当時)バージニア州アーリントンにて(2020年1月14日) 出典:Photo by Mark Wilson/Getty Images

総選挙に先立つ総裁選挙でも一番人気とみられながら、永田町での人望のなさからあえなく失速したものの、今回、神奈川15区では21万票を獲得し、応援演説も10日間で26選挙区にのぼるという人気ぶり。総裁選で完敗した直後は、はたで見るのも気の毒なほどだったが、選挙直後にはさっそく政治資金パーティーを開いて「再チャレンジ」を宣言。傲慢さが再び頭をもたげてこなけれいいがという危惧も少なくない。

れいわ新選組も3議席を獲得した。一昨年の参院選での2議席に続く善戦。代表の山本太郎は比例東京ブロックから国政に復帰する。 

立民と共産による選挙協力によって、自民党の石原伸晃氏を破った東京8区から公示直前に出馬の意向を示して反発を買い、すぐに撤回するなど軽率さは相変わらずだが、今回比例で220万票を獲得、侮れない存在に躍り出た。

■ 茂木、頭脳明晰もパワハラで悪評

茂木は甘利の辞任表明という予想外の事態によって念願のポストを射止めた。

▲写真 茂木敏充外務大臣(当時:右)2021年10月4日 出典:Photo by Yoshikazu Tsuno – Pool/Getty Images

政策通で知られ安倍内閣後期に外相就任、菅、岸田現内閣で留任した。昨年春、コロナ感染が中国で広がり始めた際、外相としていち早く、チャーター機派遣について中国側の了解、協力を取り付ける手腕を見せた。 

頭脳明晰、理解力の早さには定評があるが、役人いじめが目に余るという悪評もあり、これを克服するのも、総理・総裁を目指すうえでの課題だろう。

■ 取材の底力示した朝日新聞社

公明の斉藤鉄夫は、買収事件を引き起こした元法相、河井克行の選挙区、広島3区から初当選した。

当初は自民党の反発もあったが、岸田内閣で国土交通相に就任、地元で現職閣僚を落選させるわけにはいかないと意気込む岸田首相の応援遊説もあって、議席を確保した。

前頭筆頭は元知事、前長岡市長との〝首長みつどもえ〟の戦いを制した前知事の米山隆一をあげたい。女性不祥事で知事を辞職した後遺症など感じさせぬ完勝だった。

朝日新聞は、各紙の予想が外れた中で、「自民が単独過半数確保の勢い、立憲はほぼ横ばい 朝日情勢調査」(10月25日)とほぼ的中させた。他社は「自民単独過半数は微妙」(読売、29日)、「自民単独過半数の攻防」(日経、同)、「自民単独過半数へ攻防、立民140台」(産経、10月26日)など押しなべて正確さを欠く予測を打ち出していた。

時に物議をかもすことをしでかすが、今回はさすが底力を示したというべきか。

■ 「失うは得るのもと」枝野、悔しくも他日を期すべし

さて、「損」の横綱にはやはり、立憲民主党代表の枝野幸男と自民党の前幹事長、甘利明に登場願おう。

▲写真 枝野幸男立憲民主党代表(当時)2021年10月28日 出典:Photo by Carl Court/Getty Images

立民は公示前から大幅に議席を伸ばして140台に届くという予測もあったが、ふたを開けてみると10議席以上減の96。枝野は敗戦の弁で「自民党の強い選挙区でも接戦に持ち込むことができた」(投開票日の31日夜)と負け惜しみのように悔しさを隠せなかった。

小沢一郎、中村喜四郎ら重鎮の選挙区落選が相次ぎ、自らも辛勝だったとあっては辞任はやむをえまい。

前回、2017(平成29)年の総選挙で、小池百合子東京都知事に近い議員が結成した「希望の党」から排除された議員をまとめて結党、予想外の支持を受け野党第一党に躍り出る手腕を生かせなかった。

口八丁手八丁、鋭い才覚の持ち主だけに、他日を期すことは十分可能だろう。

 甘利辞任、比例復活は悪いのか

甘利明は終盤、情勢不利とみて他候補の応援をすべて中止、選挙区に張り付いたが、時すでに遅く苦杯をなめた。

▲写真 甘利明自民党幹事長(当時)2021年10月31日 出典:Photo by Behrouz Mehri – Pool/Getty Images

道路工事をめぐって秘書の現金授受疑惑に絡む批判がなおくすぶっていたようだ。2016年に経済再生担当相を辞任。本人は「東京地検の捜査で訴追されず、記者会見でも質問が途切れるまでじっくり説明したのに」と心外の様子だったが有権者の目はきびしかった。

比例復活で議席を維持したのだからやめる必要はなさそうなものだが、「小選挙区で敗れるようなら、幹事長としての求心力は保てない」と判断したという。比例復活が悪いというなら、重複立候補という制度こそ早く廃止したほうがいい。

■ 二階、〝わが世の春〟から一転・・・

大関は、やはり幹事長経験者で落選、比例復活もならなかった東京8区の石原伸晃だろう。

開票開始後、早々と野党統一の立民女性候補に敗れた。当初から危機感を募らせて自転車でどぶ板選挙を繰り広げたが、直前に、れいわ新選組の山本太郎が一時同じ選挙区から出馬を宣言、野党共闘に関心が集まってしまったことも災いした。

「大将として申しわけない」と深々と頭を下げたが、知名度に甘んじて地元活動がおろそかになっていなかったか。育ちの良さに似合わずしたたかさをもちあわせているから、再起は十分可能だろう。

5年以上幹事長をつとめ、権勢を誇った二階は自らは10万票を超える得票で大勝したが、率いる派閥は47人から10人も同志を失った。

▲写真 二階俊博自民党幹事長(当時)中国習近平国家主席と。2019年4月24日、中国北京人民大会堂にて 出典:Photo by Fred Dufour – Pool/Getty Images

最高顧問の元議長の伊吹文明、官房長官をつとめた河村建夫らが引退、落選者も相次いだためだ。

二階へのあてつけのように党役員の任期を1年原則3年までとすることを打ち出した岸田が総理・総裁のポストを手中にしたことによって、昨年、「菅総裁」の流れを作ったように主導権を握る目論見は潰えた。

それでも、党役員こそ出せなかったものの、閣僚に2人を送り込んだのは上出来だった。

民主党を離党、無所属のまま二階派の客分になっていた細野豪志の入党が認められ、巻き返しのチャンスも出始めている。

 小沢、その権勢はもはや過去のものか

中選挙区制時代も含め、昭和44年以来連続当選の小沢一郎が比例復活したとはいえ小選挙区で敗北したのは驚きだった。

自民党時代は、田中角栄、竹下登元首相らに目をかけられ、いずれ総理とみられていたが、政治改革推進のために自民党を離党。

非自民の細川連立政権を樹立、陰の実力者として支えた。民主党代表時代には、2009年の総選挙後、首相に指名されるはずだったが、直前に政治資金規正法で強制起訴され(無罪判決)、チャンスを失った。その後は神通力が弱まる一方だった。

かつての若手ホープもいまは79歳。一花咲かせるには遅いか。

共産党は今回も、小選挙区の候補を過去最小に抑えて立憲民主党に協力したが、立憲は惨敗、共産党自身も公示前から2議席減らした。普通なら委員長としての志位の責任論が浮上するところだが、そうならないところが、この党の不可解なところだ。

 仰天、高市が天皇陛下を選挙利用

総裁選で実力以上の存在感をしめした高市は選挙期間中、あろうことか、天皇陛下を〝選挙利用〟した。某省副大臣の応援にかけつけた際、「この候補が落選するとお忙しい天皇陛下に別の人を認証してもらわなければならない」といって投票を呼び掛けた。

陛下に対しても失礼極まりない話で、本来なら問答無用でクビが飛ぶケースだろう。

中村喜四郎は自民党時代を含む過去14回すべてトップ当選、地元茨城では圧倒的な強さを誇ってきた。

今回は立民からの出馬だったが、自民前議員に3500票差で敗れた。比例復活のしぶとさをみせたのはさすがだ。

■ 辻元、対立候補見下した報いか

知名度抜群の立民副代表、辻元清美が維新の新人にあえなく敗れ、比例でも復活できなかった。当初は対立候補について「気にしない。ローカル政党だ」と見下すような態度をとって油断した報いか。

コロナ感染による緊急事態宣言のなか銀座の高級クラブに後輩議員を引き連れて出入りし、しかも「一人で行った」とウソの弁明をしていた元国家公安委員長、松本純(神奈川1区)もあえなく議席を失った。

同様な行動で非難された公明党議員が職を辞したのに対し、離党だけで逃れようとした認識の甘さは度し難い。有権者の厳しい審判は当然というべきだろう。

(文中敬称略)

トップ写真:総選挙投開票日の岸田首相(2021年10月31日、自民党党本部) 出典:Photo by Behrouz Mehri – Pool/Getty Images

 

【訂正】2021年11月13日

本記事(初掲載日2021年11月13日)の本文中表、茂木敏充氏のご氏名表記に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。(本文では既に訂正済)

誤:茂木敏光

正:茂木敏充




この記事を書いた人
樫山幸夫ジャーナリスト/元産経新聞論説委員長

昭和49年、産経新聞社入社。社会部、政治部などを経てワシントン特派員、同支局長。東京本社、大阪本社編集長、監査役などを歴任。

樫山幸夫

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."