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.国際  投稿日:2024/8/30

マレーシア、「新ブミプトラ政策(プトラ35)」発表


中村悦二(フリージャーナリスト)

【まとめ】

・マレーシアで「ブミプトラ経済転換政策(プトラ35)」が発表された。

・マハティール元首相は『マレー・ジレンマ』でマレー人を厳しく批判する。

・本発表は、ブミプトラ政策が進展しない状況を象徴している。

マレーシアのアンワル・イブラヒム首相は2024年8月中旬、マレー系や先住民族を指すブミプトラと華人系など他民族との経済格差是正を目指す「ブミプトラ経済転換政策(プトラ35)」を発表した。ブミプトラは「土地の子」を意味するサンスクリット語。マレーシアで庶民出身として初めて首相になったマハティール・ビン・モハメッド第4代首相の「ブミプトラが漫然と過ごしていると経済的な格差は縮まらない」との警告は今なお耳に痛いに違いない。

 

 経済参画や所有権や管理権の拡大、社会正義と地域開発推進

プトラ35は、①経済参画の拡大、②所有権と管理権の拡大、③社会正義と地域開発の推進を掲げている。

経済参画の拡大では、高技能職でのブミプトラ比率を61%(2022年)から70%に拡大を目指す。

所有権と管理権の拡大では、ブミプトラ個人・団体による企業株式所有率を18.4%(2020年)から30%へ、ブミプトラ企業のGDP寄与度を8.1%(2020年)から30%へ拡大する。

社会正義と地域開発の推進では、ブミプトラ社会の貧困を解消し、他民族との所得格差をなくすことに向け、ボルネオ島の東マレーシアなど発展途上地域の開発を促進する。

 

 転機は1969年の人種暴動

マレーシアの転機は、1969年5月13日に起きた人種暴動であったとされる。

同国では1969年5月10日に総選挙が行われた。その結果、華人系野党の議席が大幅に増え、マレー人の間で華人による政治支配に対する危機感が高まった。同年5月13日夜に行われた華人系野党の祝賀行事行進を契機に、クアラルンプールでマレー人と華人間の間で衝突が起きた。マレーシア政府は「非常事態宣言」を発令して議会を停止し、ラザク副首相を議長とする「国家運営評議会」が発足し、行政の全権を掌握した。

この暴動が起きた翌年の1970年に、後に首相となったマハティール氏は、『マレー・ジレンマ』を出版したが、しばらく発禁処分を食らった。同書の日本語訳は高田理吉訳で、1983年11月に勁草書房から出版されている。

この書の中で、マハティール氏は、マレー人種の遺伝的要素にも言及しながら「マレー人はいつでも新しい製品や他人の新しい技術を使おうとするが、新しい技術を習得することを学ばない」と手厳しい批判を行っている。

「新ブミプトラ政策(プトラ35)」が発表されたのを見ると、ブミプトラ政策が思うように進展しない現状を象徴しているとしか思えない。

 

 マレーシアの歴代首相

初代首相のトゥンク・アブドゥル・ラーマンから現職のアンワル・イブラヒム首相に至るマレーシアの歴代首相は、表1の通りだ。

ブミプトラ政策を始めたのは第2代首相のアブドゥル・ラザク氏だった。

マハティール氏は1981年7月~2009年4月、2013年5月~2018年5月と2度にわたり長期に首相職を務めている。首相当時、マハティール氏は日本と韓国を範とする「ルックイース(東方)政策」を積極的に推進した。

マハティール氏は、この7月10日、99歳の誕生日を迎えた。同月6日にはロンドンでイスラム指導者などとの会合に出席し健在ぶりを示した、とマレーシアの英字紙は報じている。蛇足ながら、現首相のアンワル・イブラヒム首相は、「ホモ疑惑」で何度か訴追を受けている。

トップ写真:メディア対応した後のドイツのオラフ・ショルツ首相(右)とマレーシアのアンワル・イブラヒム首相(左)(2024年3月11日 ドイツ、ベルリン)

出典:Photo by Sean Gallup/Getty Images




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