マレーシアへの外資の投資が好調-半導体製造でのハブ目指す

中村悦二(フリージャーナリスト)
【まとめ】
・マレーシアは2025年半導体製造のハブ化を目指し、後工程だけでなく前工程のIC設計や先進パッケージ分野の振興に注力している。
・欧米企業や中国企業などの投資を誘致し、産業基盤の強化を図る一方で、台湾リスクを考慮した分散化も進めている。
・アンワル首相と石破首相は、安全保障やサプライチェーン強靭化、レアアース開発での協力強化を合意した。
マレーシアは2025年、半導体製造でのアジアのハブ化を目指している。従来からの半導体製造での後工程より付加価値の高い前工程の設計業務への移行を本格化させる時期が到来との声も上がっていた。こうした声を受け、半導体製造でのハブ化への動きを本格化する。
後工程部門の振興にも意欲
米Electronic Engineering Timesの日本語版であるEE Times Japanによると、マレーシアは 1960年代後半、台湾と並び、インテルなどの米国企業が半導体のアセンブリ/テスト工程をアジアにアウトソーシングし始めたころの拠点の一部で、マレーシアはアセンブリやパッケージング、テストといった後工程中心だった。マレーシアは現在、世界の半導体パッケージング/アセンブリ/テスト市場の13%を占めるまでになっている。
マレーシアは後工程だけでなく、半導体製造の前工程部門の振興にも意欲を示し、1,000億ドルを超える投資規模を想定し、IC設計や先進パッケージの製造設備部門の振興を図ろうとしている。
誘致対象は米国企業や台湾企業だけでなく中国企業も
マレーシアに進出するのはまず欧米企業。その動きを見ると、インテルが70億ドルを投資して先進パッケージング工場を建設し、インフィニオン・テクノロジーズは54億ドルを投資してパワー半導体工場を建設している。
米国から制裁を受けた中国の半導体製造企業もハイエンドICの組み立て拠点設立でマレーシア企業と組むケースも出ているようだ。例えば、米国商務省産業安全保障局(BIS)が発行している貿易上の取引制限リスト(エンティティリスト)に載っているファウェイ傘下だったxフユージョン・デジタル・テクノロジーズ(xFusion Digital Technologies)はネーション・ゲイト(Nation Gate)と提携してマレーシアでGPUサーバの組み立てを行い、同制限リストへの対象入りの影響を回避している。また、チップの組み立てとテストを手掛けるトンフーマイクロエレクトロニクスは米アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)と合弁でマレーシアに新工場を建設している。オープンソースのアーキテクチャーのリスクファイブ(RISK-V)企業のスターファイブ・テクノロジー(StarFive Technology)もペナンにデザインセンターを有している。
中国企業や台湾企業誘致では「台湾リスク」も念頭に
台湾では現在、台湾積体電路製造(TSMC)に代表される世界的な半導体メーカーが育っている。そうしたメーカーが台湾で集中生産したICを主に中国などに輸出し、後工程の生産プロセスやエレクトロニクス製品などの川下工程に組み込むサプライチェーンを形成してきた。
しかし、2020年以降、主要メーカー間で、台湾に集中する先端半導体の生産の一部を他に分散する動きがみられるようになった。
その背景には、台湾メーカーにIC生産を委託する顧客企業のリスク意識が高まったことや主要国・地域の立地補助金などに絡む誘致競争の激化、それに台湾での人材などリソースの限界などがある。
アンワル首相、IC製造のハブ化に意欲
マレーシアのアンワル・イブラヒム首相は2025年1月9日、同国がIC製造のハブ化を本格化したい旨の発言をしている。アンワル首相はまた、石油・ガス開発、イスラム金融の国際センターとしての高度化にも意欲を示している。
ラフィジ・ラムリ経済相は、IC製造では単なる場所貸しではなく「向こう5-10年間でマレーシアでの開発品の製造に乗り出したい」と力がこもっている。ロイター電によると、米ハイテク企業のグーグルの持株会社であるアルファベットはマレーシアでの投資拡大に動いている。
アンワル首相、石破茂首相と会談-安全保障分野や半導体・航空機部品などのサプライチェーン強靭化、レアアース開発での協力も
東南アジアを歴訪した石破茂首相は2025年1月10日、マレーシアのクアラルンプールでアンワル首相と会談し、安全保障分野などで連携を強化することで合意した。 石破首相は、‶日本外交にとってASEAN(東南アジア諸国連合)など東南アジア地域との連携を強化することは最優先の課題の一つ〟とし、アンワル首相との会談で、安全保障分野での協力を促進することで意見一致を見たという。 また、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化や、中国が進出を強めている東シナ海・南シナ海情勢をめぐり、緊密に意思疎通することも確認したようだ。
経済分野では、アンワル首相が進める持続可能性やイノベーションなどを重視する「MADANI(マダニ)」政策も踏まえた半導体、航空機部品などのサプライチェーンの強靭化やレアアース開発といった分野での協力でも意見一致した。さらに、防災・減災での協力、両国の大学間での交流・協力の継続でも合意した。
トップ写真:日・マレーシア首脳会談 アンワル・イブラヒム首相と。 2024年1月10日。マレーシア・クアラルンプール。
出典:首相官邸
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この記事を書いた人
中村悦二フリージャーナリスト
1971年3月東京外国語大学ヒンディー語科卒。同年4月日刊工業新聞社入社。編集局国際部、政経部などを経て、ロサンゼルス支局長、シンガポール支局長。経済企画庁(現内閣府)、外務省を担当。国連・世界食糧計画(WFP)日本事務所広報アドバイザー、月刊誌「原子力eye」編集長、同「工業材料」編集長などを歴任。共著に『マイクロソフトの真実』、『マルチメディアが教育を変える-米国情報産業の狙うもの』(いずれも日刊工業新聞社刊)

