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.政治  投稿日:2024/9/23

【自民党総裁選挙】4 高市早苗氏「政策分析」と「人事評価」


西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)

【まとめ】

・高市候補、「大胆な「危機管理投資」と「成長投資」で「安全・安心」の確保と「強い経済」を実現」していく、とする。

・政策の特徴は、国家主義の保守派、専門性の高さ、アベノミクス継続。

・課題はその実現性と、日本の深刻な問題解決案のレベルが浅いこと。

 

「日本列島を、強く豊かに」

「日本を世界のてっぺんに」

「日本を守り抜く」

「国家の主権と名誉を守り抜く」

「サナエあれば憂いなし」

保守層の中で唯一中国に厳しいことを言える人ということで評価が高まっているわけではないと思う。深い見識から政策を語り、言葉としては「守る」というキラーワードを繰り返し、笑顔を強調し、関西弁をたまに入れ、柔軟な口調なのに「勇ましく言い切る」コミュニケーションスタイル。多くの人は内容よりも、そのやり方に魅了されてしまっているのだろう。

前回の代表選でも声診断や人間力分析で記事を書いたので、興味がある方はそちらの記事も見て欲しい。

◆ 高市早苗氏とは

▲写真【出典】高市さんHP

1961年(昭和36年)3月7日生まれ、血液型A型。父親は自動車会社勤務、母親は奈良県警勤務の共働き。弟がいる。奈良市立あやめ池小学校に入学、橿原市畝傍南小学校、 橿原市立畝傍中学校を卒業。地元の名門である奈良県立畝傍高校卒業、神戸大学経営学部経営学科卒業(経営数学専攻)。大学時代には軽音楽部などで活動したり、バイクを乗り回したりしたそう。卒業後、防衛ホーム新聞社で活動したり、(財)松下政経塾に入塾。卒塾して、渡米。フェミニストとして有名なパトリシア・シュローダー(アメリカ民主党連邦下院議員)のもとで活動した。米国連邦議会Congressional Fellow(金融・ビジネス)。その後、テレビキャスターとして活躍。1992年参議院議員選挙に無所属で出馬し落選。1993年、衆議院議員総選挙に奈良県全県区から出馬し、得票数トップで初当選。自由党、新進党などを経て自民党入り。通商産業政務次官。経済産業副大臣、内閣府特命担当大臣、総務大臣、内閣府特命担当大臣(知的財産戦略・科学技術政策・宇宙政策・経済安全保障)、経済安全保障担当大臣というキャリアである。座右の銘は「高い志 広い眼 深い心」、目標とする政治家はマーガレット・サッチャー元英国首相だそうだ。

◆ 高市早苗氏の政策の特徴

「大胆な「危機管理投資」と「成長投資」で、「安全・安心」の確保と「強い経済」を実現」していくそう。海外依存度が高い農作物、食料、肥料、種苗などに対して問題意識を持ち、食料自給も経済安全保障政策として打ち出す。モジュール型の完全閉鎖型植物工場の支援、農林水産物・食品の世界の富裕層向け高級食材等の積極的な輸出なども強調している。サイバーセキュリティ対策の司令塔となる「内閣情報局」(中央情報機関) 、「内閣情報会議」設置、省庁再編なども提案する。

特徴は第一に、まさに国家主義の保守派であること。国の究極の使命は「国民の皆様の生命と財産」「領土・領海・領空・資源」「国家の主権と名誉」を守り抜くということだそう。様々な政策が提案されているが、国家主義・安全保障という土台となり、「強く豊かに」という価値観を軸に論理的につながっている。経済政策についてさえ安全保障との繋がりが強調されている。

・天皇陛下の「権威と正統性」の源であり、国家の安定感と国民の誇りを支え続ける「皇統」をお守り申し上げるため、『皇室典範』の早期改正を目指します。

・ウイグル・チベット・モンゴル民族・香港など中国の人権を巡る諸問題、経済的・軍事的威圧について、主張すべきは主張し、責任ある行動を強く求めます。

・台湾のTPP加盟申請を歓迎し、WHO総会へのオブザーバー参加を応援します。

・昨今の情報戦では、偽情報やサイバープロパガンダによる認知領域への攻撃が重大な脅威となっています。私達を守るための法制度整備とともに、偽情報を検知・分析・評価する技術の開発を促進します。

・技術革新、安全保障環境や社会生活の変化など、時代の要請に応えられる「日本人の手による新しい日本国憲法」を制定するために、力を尽くします。

【出典】高市さん政策

第二に、専門性の高さ。科学技術について相当詳しい、官僚顔負けの勉強の努力の結果が見える。科学者出身ですか?と思うくらい、科学技術の知見が深い。核融合炉をいち早く主張し核融合エネルギー開発推進を進めてきた実績があるように、「技術が大事だ」という信念が色濃く反映されている。技術に詳しいからか、未来への投資についても詳しく提示している。プログラミングについても大学で学んだこともあるそうで、DX、AIなどへの言及が多い。

・次世代太陽電池の筆頭として研究されている「ペロブスカイト太陽電池」の新素材としては、シリコン太陽電池の100分の1の厚さの新素材が発見されました。建物壁面や窓への適用の事業化を応援します。

・全固体蓄電池、産業用機械・ロボット、積層造形技術、マテリアル、電磁波、電子顕微鏡、核磁気共鳴装置、超電導、宇宙(スペースデブリ除去・軌道上サービス・測位衛星・SAR衛星・ロケット等)、コンテンツ関連を含むクリエイティブ産業などの分野につき、更なる国際競争力強化と人材育成に資する戦略的支援を行います。

・メモリセントリックや蓄電池リサイクル等の技術開発も、促進します。

・「量子技術イノベーション」を進め、量子計測・センシング、量子マテリアル、量子シミュレーショなどの技術領域を支援します。量子技術は、食品・薬品の微量異物検知、認知症やうつ病の解明、創薬などに役立つ、私達の生活に身近なものです。

・新たな技術領域(6G=Beyond 5G、生成AI、データプライバシー、自動運転、フォーメーションフライト衛星通信など)において、安心・安全・信頼性を確立しながら活用を進めるために、必要な法制度と環境の整備を急ぎます。

【出典】高市さん政策

第三に、完全にアベノミクス継続の姿勢を示していることだ。利上げについて時期尚早との見方を示し金融緩和の継続も主張した。アベノミクス継承の経済政策である。

課題は、第一に、実現性である。OECDでも劣る我が国がどうやって「世界1」を目指すのか。技術レベルは世界でも有数だが、IT、DX、人材育成、イノベーションにも完全に出遅れ、権威主義的な村・社会的組織風土がまだ企業競争力やイノベーションを阻止している。また、食料自給率100%ってどうやってやるの?どこにそれだけの土地があるのだろうか?などを思ってしまう。

第二に、日本の深刻な問題解決案のレベルが浅いこと。空き家問題を見てみよう。「全国の空き家は900万戸以上で、防災・防犯上の課題にもなっています。UR(都市再生機構)を中心に、街づくりとあわせて「買取り」「改築」「管理・売却の代行」を一体的に行える制度を整えます。」と主張する。

防災・防犯上の課題ってどのくらいなのか?もう深刻度をどう考えているのか?なぜURが絡む必要があるのか?と疑問がわいてくる。全国のうち所有者不明土地が占める割合は九州本島の大きさに匹敵する所有者不明土地問題の本格対処、相続土地国庫帰属制度の運用改善、取り壊すと6倍になってしまう固定資産税の減税などができるはず。何十年政治家として活動してきて、この程度しか考えていないのか、という内容だ。 

◆ 人事評価

筆者は人事評価の専門家として「政治家の人事評価」などを提起してきた。ここで、「首相の人事評価」を考えたい。総理大臣の「能力」「成果が出せる行動特性(コンピテンシー)」は以下になる。

◆1.未来の方向性を示せる、共有できる

◆2.組織マネジメントができる

◆3.決断・意思決定ができる

これをしっかりできれば十分なのだが、高市さんをこの視点を細かく見ると以下のようになる。

▲表 筆者作成

非常に弁舌鋭く、政策に詳しく、仲間と群れないで勉強、さすがの問題意識を披露するなど、素晴らしいところも多く、女性初の総理に向けて条件はそろっているといっていいだろう。しかし、「自身を応援しなかった人たちへ挨拶しない」と関係者から聞くことも多く、メディアでも「高市氏は思い込みが強く、自分で『こうだ!』ということは引かない」「包容力、調整力に磨きをかけることが不可欠」との指摘もある。

OECD国最低の「ガラスの天井」を壊すか。高市さんに期待したい。

トップ写真:高市早苗氏(2024年9月14日東京都千代田区)出典:Takashi Aoyama/Getty Images




この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者

経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家


NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。


慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。


専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。

西村健

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