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.政治  投稿日:2024/9/28

石破新総裁誕生の背景 本当に「政治の季節」なのか その3


林信吾(作家・ジャーナリスト

林信吾の「西方見聞録

【まとめ】

・自民党は、選挙の顔として高市候補はふさわしくない、という判断を下した。

・派閥の領袖が「キングメーカー」として振る舞う自民党の体質は改まる気配がない。

・現在の与野党の力関係から言って「政変」に至るほどのことは考えにくい。

 

前回、2021年の自民党総裁選に際して、私はこんなことを考えていた。

(分裂含みの大政局になれば面白いが)

と。当時、安倍晋三元首相は未だ存命で(22年7月8日没)、その正当な後継者を自認する高市早苗候補を全面的にバックアップしていた。他には今回も立候補した河野太郎候補、今回は立候補を見送った(シリーズ第1回を参照)野田聖子候補もいたが、ご案内の通り、岸田文雄候補が総裁に選出されている。

この結果、安倍一強とまで言われていた党内勢力図にも変化が生じ、その後、旧統一教会との関係性や世に言う裏金問題などが噴出し、安倍派は解消の沙汰となった。

いずれにせよ、自民党総裁選を制した者は、ほぼ自動的に首相の座に就く、という構造が変わらない限り、政治の季節などと言っても所詮は「コップの中の嵐」ではないか。

この年はまた、新型コロナ禍がようやく収束に向かいはじめ、1年遅れで東京五輪が開催されたこともあって、総裁選に対する世間の関心は相対的に低くならざるを得なかった。

そのような中、私がなぜ前述のようなことを考えたかと言うと、河野候補は石破茂氏と小泉進次郎氏の応援を得ており、メディアから「小石河連合」と呼ばれていたことがある。川の字が違うのは、東京都文京区の地名を強引にもじったためだろう。

しかもこの3名には共通点があって、それは安倍元首相の覚えがめでたくなかったことと、そのせいもあってか、国会議員(=自民党代議士)の間でもいまひとつ人気がなかったことである。

今次の総裁選でも、投票日直前の26日になって、唯一派閥として存続している麻生派において、領袖たる麻生氏が「高市支持」を自派の議員に指示したと報じられた。

自分が首相であった時に、内閣の一員(農水相)でありながら、退陣を求めてきた石破候補は許すことができず、小泉候補について言えば、このところ関係が冷え切っている菅義偉・元首相が推しているから、という理由であるらしい。

国益よりなにより、自身のキングメーカーとしての立場が大事だということなのか。

話を戻して、2021年の総裁選に際しても、安倍・麻生といった首相経験者からの支持を得られずに、好むと好まざるとに関わらず反主流の立場に置かれた「小石河連合」が、もしも党を割るようなことがあれば、このままでは自民党は駄目になる、と考える若手議員も賛同し、野党も政権奪取に向けて再編が加速するのでは、という思いが私にはあった。

そう。日本新党を軸に「非自民・非共産」の野党連合が自民党を下野に追いやった、1993年の政界再編の再現である。くどいようだが、実現の可能性はほぼないだろうと思いつつも、政治を刷新するにはそのくらいのことが起きなければ、と考えていたのである。

したがって今次の総裁選に際しても、私は「隠れ高市推し」であった笑。

彼女の政治姿勢にはまったく賛同できないのだが、逆にそうであるからこそ、あのように保守と言うより右翼のイメージすらある政治家が、総裁選を制して首相の座に就いたなら、政局は早々に大きく動くのでは、との期待があったのである。

たとえば、彼女の公約として最もよく知られているのが、靖国神社公式参拝だが、来年夏にでも強行されたなら、どうなったか。

現在の自民党は、公明党との連立なくして政権を維持できないのが本当のところだが、その公明党の支持母体である創価学会が、黙っているだろうか。

強行という表現を用いたのは、中国との関係がこじれている今、火に油を注ぐような行為であるとして、公明党だけではなく外務省筋などが「松の廊下」のように、羽交い締めにしてでも止めにかかるだろう、と考えられるからだが、それでも公約にこだわるか、あるいは翻意するか、いずれにせよ、ろくな結果にはならないだろう。

とは言え、結果はご案内の通りで、第一回の投票では高市候補が首位となったものの、過半数には及ばず、二位の石破候補との決選投票にもつれ込んだ。

そして石破候補の逆転勝利となったのである。

一部保守系メディアは、前述の靖国問題など、高市候補のイメージを悪化させるような「ワイドショー政治」のせいであるなどと、悔しさをにじませるような報じ方をしていたが、それが政治の本来の姿なのではないだろうか。

真面目な話、高市候補は敗れるべくして敗れたのであると私は思う。

この間の「ワイドショー政治」をできるだけ見たが、靖国問題で袋叩きに遭っていたことも事実だが、それが全てではない。

たとえば、米軍基地周辺の飛行規制の問題で、外国に航空管制権を握られている独立国など他にあるのか、という主旨で、横田基地の返還を求める考えはあるか、との質問を受けた際には、

「個別具体的な案件に今はお答えできません」

などと逃げてしまった。どの面下げて「英霊」に手を合わせに行くのだろうか。

とどのつまり自民党は、選挙の顔として高市候補はふさわしくない、という判断を下したのだろう。

しかし、別の要素も見落としてはいけない、と私は思う。

これまたご案内の通り、今次の総裁戦意は史上最多となる9人が名乗りを上げており、当然ながら票は割れていた。とりわけ国会議員票について言えば、ギリギリまで「勝ち馬を見極める」うごきがあったと報じられている。

特に決定的だったのは、前述の麻生派とは対照的に、自民党内でもリベラル派と位置づけられる議員が多い、岸田首相を中心とするグループの票が決選投票で雪崩を打って石破候補に流れたことだ。

ここまで読まれた方には、自民党総裁選を私が「コップの中の嵐」と読んではばからない道理が、お分かりいただけたのではないだろうか。

要は、派閥の領袖とされる政治家たちが「キングメーカー」として振る舞う自民党の体質だけは、21世紀になっても未だ改まる気配が見えてこない。

その問題をさらに掘り下げてゆくと、現在の与野党の力関係から言って「政変」に至るほどのことは考えにくい、ということがある。

言い換えれば、野党がだらしないから「派閥」や「裏金」がいつまで経っても清算されないのだ。

次回、この問題をもう少し掘り下げて見る。

トップ写真:自民党総裁席に座る石破茂新総裁(2024年9月27日東京都千代田区自民党本部)出典:Kim Kyung-Hoon – Pool/Getty Images




この記事を書いた人
林信吾作家・ジャーナリスト

1958年東京生まれ。神奈川大学中退。1983年より10年間、英国ロンドン在住。現地発行週刊日本語新聞の編集・発行に携わる。また『地球の歩き方・ロンドン編』の企画・執筆の中心となる。帰国後はフリーで活躍を続け、著書50冊以上。ヨーロッパ事情から政治・軍事・歴史・サッカーまで、引き出しの多さで知られる。少林寺拳法5段。

林信吾

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