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.国際  投稿日:2023/3/13

新たな関係構築へ 英仏サミット


Ulala(著述家)

フランスUlalaの視点」

【まとめ】

・今回の英仏サミット開催は2018年1月以来の5年ぶり

「優先事項」はフランスと英国の「新たな関係を築き上げる」こと。

・両国は、不法移民を終わらせるための新しい体制に合意した

 

フランス、パリで10日に英仏サミットが開かれた。サミットでは、フランスのエマニュエル・マクロン大統領と英国のリシ・スナク首相が会談し、ドーバー海峡を渡る不法移民対策やウクライナ支援や防衛協力など、2国間の連帯を深め協力していく方針を確認した。

■ 英仏の新たな関係を確立

英国は2020年1月31日に欧州連合(EU)を離脱し、このブレグジット後にはフランスと漁業権問題で対立が深まった上、アジア太平洋地域での同盟関係をめぐる急激な分裂など複数の不和が続いてきた。またコロナ感染拡大も重なったこともあり、その間、定期的に行われてきた英とフランス間のサミットが見送られ続け、今回のサミット開催は2018年1月以来の5年ぶりとなったのだ。

特にボリス・ジョンソン氏が首相時代には、マクロン大統領との関係があまり良好ではなかったが、その後継者となったりズ・トラス元首相は、フランス大統領が英国の「味方か敵か」について発言を拒否したことでさらにフランスとの関係を悪化させた。ちなみに、トラス氏の首相在任期間は49日でイギリス史上最短となっている。

しかしながら、相対的な若さや、社会的背景、そして中道右派など類似点が多くある現首相のスナク氏は、マクロン大統領と良好な関係を築き上げている。サミットの初めには、ヨーロッパのラグビー大会であるシックスネーションズトーナメント2023で11日にフランスと英国が対戦することを受けて、それぞれの国のラグビーチームのシャツを交換したり、サッカーの話で盛り上がり、また、スナク首相がマクロン大統領をファーストネームで呼ぶなど、「友人」として今後一緒に活動していくの十分な態度を示しており、マクロン大統領もそのことを大いに歓迎したのだ。

また、チャールズ国王とカミラ王妃が、初めての外国への公式訪問として3月26〜29日の日程でフランスを訪れる。マクロン大統領夫妻がパリ近郊のベルサイユ宮殿での晩さん会に招き、国王は議会で演説も行う予定となっているが、英国国王がEU主要国であるフランスとドイツを初の公式訪問先に選んだことは、「欧州の隣人との関係強化を優先する」ことが目的だからだ。

国王訪問の15日前に行われた今回のサミットも、「優先事項」はフランスと英国の「新たな関係を築き上げる」ことであり、今後は協力して問題に取り組んでいく体制を整えることでもある。

■ 不法移民について

今回のサミットで一番注目されたのは、ドーバー海峡を渡って英国に行く違法難民についてだ。以前から、フランス北部のカレー市から設備の整っていないゴムボートなどでドーバー海峡を渡って英国に入国しようとする人が後を絶たず、ジョンソン元首相時代には両国の間に大きな溝を作った。しかし、決して両国が対策していないわけではない。

2022年に「1300以上のボートの横断を防止」し、「55の組織犯罪ネットワークが解体」したのにもかかわらず、それでも約4万6000人がこの海峡を渡ったのだ。そして、海をわたる違法移民は年々増え続け、英国の予算は逼迫している。今年もすでに4000人以上が英国にたどり着いた。

英国としては、援助が必要な難民に対しては必要な保護などして行く予定だが、犯罪ネットワークを介してやってくる不法移民に対しては、厳しく対応するとしている。英国政府は、ドーバー海峡をボートで渡ってきた場合は原則として難民申請を認めず送り返すなどとする法案を、すでに7日に法案を議会に提出したところで、スナク首相はこの件に関して、

この新しい法律は、この国に不法に入国した場合、速やかに追放されるという明確なシグナルを送るでしょう。」

と英国のメディアに述べている。

そこで、今回のサミットでも、スナク首相はフランスに、「前例のないレベルの協力」を呼びかけ、両国は、不法移民を終わらせるための新しい体制に合意した。マクロン大統領は、両国が「人権の問題」があることを認識しながらも、不法移民との戦いにおいて「一緒に前進」したいと考えていることを強調した。

対策としては、フランス北部に新しい拘留センターを設立し、フランス側の監視人員の500人増加、および、海岸のパトロールとしてドローン(無人機)やそのほかの監視技術を取り入れるなど監視体制を強化することとした。こういたフランスの取り組みを支援するために英国側からの資金提供が大幅に増加させるとしており、2023~24年に1億4100万ユーロ、2024~25年に1億9100万ユーロ、2025~2026年に2億900万ユーロ拠出される予定だ。

マクロン大統領は、不法移民との戦いは英国とフランスだけに関係するものではなくより広範な課題であり、欧州連合諸国の関与なしには成し得ないことも強調した

■ ウクライナを通して、再構築されるEUとの関係

英国はウクライナへの支援を通して、EUとも新しい関係を築こうとしている。ここ数週間、スナク首相とマクロン大統領は、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領を歓迎することで、団結する姿を見せてきた。今回のサミットでは、ロシアの侵攻を受けるウクライナへの追加支援として、同国の海軍への訓練などを連携して提供することも決めた。

英国の高官によれば、英国のウクライナへの援助は、NATOの指揮統制構造においてより大きな役割を果たす機会だという。しかし、これらは決してブレグジットの失敗を認めたものではなく、変化の過程であり、今後数年間の経済的課題に冷静に対処するためにむしろ友好的で安定した関係に移行することを考えての行動と述べている。

マクロン大統領は、「ウクライナが抵抗し、実行したい反撃を実行するのを助けることが私たちの望みだ」と延べ、スナク首相も、「私たちはウクライナがこの戦争に勝つことを望んでおり、私たちは完全に団結している」と同意を示した。

■ 英仏のパートナーシップは堅実

今回のサミットでは、フランスと英国間の「パートナーシップが堅実である」ことが宣言され、複数のポイントでフランスと英国が協力して問題解決していくことで合意に至った。フランスのマクロン大統領と、英国のスナク首相との関係もよく、「私が首相になって以来、エマニュエル(フランスのマクロン大統領)と知り合えたことは大きな喜びでした」と語り、このサミットが冷え切っていたフランスと英国の新たな関係の第一歩を飾ったことは間違いないだろう。

<参考資料>

Macron-Sunak, un sommet franco-britannique sous le signe du “renouveau” 

マクロンスナク、「刷新」を掲げ仏英首脳会談

Sommet franco-britannique : Macron et Sunak scellent un « nouveau départ » entre les deux pays

英仏首脳会談:マクロンとスナク、両国の「新たな始まり」を封じる

Sommet franco-britannique : “Nous avons construit un partenariat, c’est du solide”, déclare Rishi Sunak sur France 2

英仏首脳会談:「我々はパートナーシップを築き、それは強固なものだ」とリシ・スナク氏が語る。

Suella Braverman: small boats plan will push boundaries of international law | Immigration and asylum | The Guardian

スエラ・ブラヴァーマン:小型ボート計画は国際法の限界を超える|移民・亡命|The Guardian

Sommet franco-britannique : ce qu’il faut retenir de la rencontre entre Emmanuel Macron et le Premier ministre britannique Rishi Sunak

「英仏首脳会談:エマニュエル・マクロンと英国首相の会談で覚えておくべきこと リシ・スナク」

ÉDITO – Macron reçoit Sunak à Paris : “Il important de se réconcilier avec les Britanniques”, dit Lenglet

「EDITORIAL – パリでスナックを迎えたマクロン、「イギリスと和解することが重要」とレングレ氏」

トップ写真:英仏サミットに出席する英スナク首相と仏マクロン大統領(2023年3月10日、フランス・パリ)出典:Photo by Kin Cheung – Pool/Getty Images




この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー

日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。

Ulala

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