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.社会  投稿日:2025/1/1

オールドメディアの存在意義は消滅する【2025年を占う!】メディア


安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

【まとめ】

・2024年、SNSを通じた情報拡散が選挙結果に大きな影響を与え、オールドメディアへの信任が大きく毀損。

・東京都知事選、衆議院議員選挙、兵庫県知事選でSNS戦略が奏功し、事前の選挙結果を覆す事例が発生。

・オールドメディアは放送法を過度に意識し、真実を伝えられず、存在意義を失った。

 

絶望のテレビ報道」という本を書いたのがフジテレビを辞めた翌年の2014年。いまから10年も前だ。

オールドメディアがインターネットメディアに負けた理由について書いたのだが、状況はこの10年全く変わらなかった。いや、むしろ悪く、絶望的になった。

潮目が変わったのは「SNSによる収益化=インプ稼ぎ」が一般ユーザーにまで広がったことだ。

10年前はSNSが今ほど普及していなかった。通信速度も遅く(5Gの商用化は2020年3月)、動画のクオリティも低かった。一般ユーザーのSNSによる収益化もほとんど行なわれていなかった。最近になりそれが一般化し、SNSが政治に大きな影響を与える出来事が2024年、立て続けに起きた。

顕著だったのは記憶に新しい去年7月の東京都知事選だ。それまで東京都では一部の人にしか知られていなかった前広島県安芸高田市長の石丸伸二氏が蓮舫候補を引き離し、約165万票を獲得して2位に躍り出たのだ。続く10月の衆議院議員選挙では、わずか7議席だった国民民主党が4倍の28議席に躍進したことも、多くの人を驚かせた。自公は過半数を取れず、少数与党となった。「103万円の壁」協議で国民民主党がキャスティングボートを握ったことで、これまでの政策決定プロセスが様変わりしたのはみなさんご承知の通りだ。玉木雄一郎代表(現役職停止中)は、石丸氏のネット戦略を研究してきたことを明かし、自ら「ネットどぶ板」と呼ぶ動画配信や、その「切り抜き動画」が党の政策を有権者に浸透させることに貢献したと分析した。

そしてなんといっても、多くの人がSNSの威力を目の当たりにしたのは、11月の兵庫県知事選だろう。県議会の不信任決議を受けて失職した斎藤元彦氏が下馬評をくつがえし、再選されたのだから。

さらに衝撃的だったのは、オールドメディアへの不信が決定的になったいことだ。そのわけは、オールドメディアがこぞって報じてきた斉藤県知事の「パワハラ、おねだり疑惑」は真実ではなく、実は反斉藤勢力が斉藤氏を貶めるためのものだった、との言説が選挙期間中に一気に広まったからだ。その動きを強力に後押ししたのが、同知事選に立候補したNHKから国民を守る党」の立花孝志党首だった。

立花氏は、斎藤氏に対する告発文書を作成した元県民局長の公用パソコンにプライベートな情報が多数残されていた、と指摘。元県民局長が自死したのは、プライベート情報が公になることを恐れたためだとし、SNSで積極的に発信した。立花氏のYoutubeの投稿は100本以上に及び、その再生回数は斉藤氏の10倍以上に及んだという。

選挙の争点はたしかに最初からわかりにくかった。ことの経緯は、元県民局長の告発文書が発端だった。その文書による内部告発に対する知事の初動が、公益通報者保護法に違反しているのではないか、との指摘から、百条委員会が立ち上がり、9月に議会が全会一致で知事に対し不信任決議案を可決したことから、知事が失職、出直し選挙になったものだ。

ところが、いつの間にか争点は、既得権益を守ろうとしている県の守旧派とオールドメディアにはめられた真の改革者である斉藤氏を再び知事にすることにすり替わってしまった。オールドメディアは真実を隠しており、守旧派と一体だ、との認識が有権者の間に急速に広まった。極めつきは、立花氏がYoutubeで、「元県民局長は10年で10人と不同意性行等罪を犯した可能性が高い」と話

その間、オールドメディアはこうした状況にほとんど手を打てず、沈黙を貫いた。それがオールドメディアに対する不信を増幅させた。

斎藤氏の再選後、テレビのワイドショーなどは、なぜ斉藤氏が再選されたか、その理由をいろいろ分析してはいたが、立花氏の主張についてのファクトチェックは不十分なままだ。

一部の民放では、放送法によるしばりを挙げ、テレビの選挙報道の限界について言及しているMCやコメンテーターがいたが、それはお門違いだ。

たしかに、放送法は第4条で、「国内放送の放送番組の編集等については、政治的に公平であることなどを規定している。NHKや民放が、選挙公示/告示後、候補者の顔や名前の入っているたすきを映さなくなったり、候補者の発言を同じ秒数だけ流すのはその規定に沿ったものだと理解されている。

一方、BPO(放送倫理・番組向上機構)は2017年に、「2016年の選挙をめぐるテレビ放送についての意見」と題する委員会決定にて、「テレビ放送の選挙に関する報道と評論に求められているのは『量的公平』ではなく、政策の内容や問題点など有権者の選択に必要な情報を伝えるために、取材で知り得た事実を偏りなく報道し、明確な論拠に基づく評論をするという『質的公平』だ」と指摘している。

オールドメディアは放送法を意識するあまり、自縄自縛に陥り、真実を知りたい有権者のニーズに応えられなかった。オールドメディアから知りたい情報が得られない有権者がいきおいSNSに頼ることになったのはしごく当然の流れだ。オールドメディアは自ら信頼性を高める努力を放棄し、結果としてSNS上の情報の拡散を加速させたといえる。

こうしたオールドメディアに対する不信は、2025年になっても大きく払拭されることはないだろう。新聞やテレビにその危機感があるとは思えないからだ。SNSから情報を得ている人々は、いまや若年層ばかりではなく、中高年層にも及んでいる。かれらは、自ら必要な情報を能動的に、かつ日常的にネットで探し求めている人々だ。そうした人々が急速に増えている状況は、今年の東京都議会選挙や参院選にも大きな影響を及ぼすことは間違いない。SNSをうまく活用した政党が議席を伸ばす傾向はますます顕著になるだろう。

このようにSNSの影響力を見てくると、2025年はオールドメディアの存在意義が消滅した年として人々に記憶される年になるだろう。もしこの流れにあらがうオールドメディアがいるとしたら、それはどこになるだろうか?期待はしないが、注目点ではある。

トップ写真:イメージ 出典:B4LLS/GettyImages




この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

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