ミャンマー人女性、シンガポールで「動物・鳥類保護法」違反で訴追される
中村悦二(フリージャーナリスト)
【まとめ】
・ミャンマー人女性はシンガポール人の飼い犬3匹をムチ打ち、うち一匹を死なせる
・シンガポールでは隣国のインドネシアやマレーシアの影響で「煙害(ヘイズ)」が深刻化
・今回の事件を厳しく見た背景に、シンガポール国内での環境保護の姿勢が窺える。
シンガポールで2024年11月末、26歳のミャンマー人女性が犬を殴ったとして、シンガポールの「動物・鳥類保護法」違反で訴追され、9か月の拘禁措置を命じられた。
ミャンマー人はシンガポール人に雇われた人物。犬はその後死亡したとされる。シンガポール人は3匹のプードル犬を飼っており、死亡した犬はそのうちの一匹。
ストレーツ・タイムズ紙が報道
この話はシンガポールの英字紙ストレーツ・タイムズが報じたもの。同紙によると、同法の管轄先であるナショナル・パークス・ボード(国立公園局)は、ミャンマー人のジュニー・ラル・アウム・プイは、ボイボイと名付けられた15歳のプードル犬をバルコニーに閉じ込め、他の二匹の犬とともにムチで打つなどしたという。死亡した犬は脳震盪を起こしていたとされる。
ジュニー・ラル・アウム・プイは、裁判の席で、うなだれてすすり泣きながらボイボイに謝っていたという。
深刻化する東南アジアの煙害
1990年代の中頃、シンガポールに駐在していた。4月に入ると暑気が増し、本格的な乾季の到来となった。高層ビルの27階の事務所から外を見ると下の方は「煙害(ヘイズ)」で、もやっていることがしばしばあった。現地紙には「ヘイズで気が滅入る」といった声が載った。車を運転していても視界が低下し、気をつける必要があった。
ヘイズを巡っては、インドネシアが「マレーシアが(ボルネオ島の)サバ・サラワク両州のパーム油農園で違法の野焼きをするから」といえば、マレーシアは「インドネシアが(ボルネオ島の)カリマンタン州でのパーム油生産に向けたアブラヤシの大規模農園(プランテーション)開発のため、熱帯林を伐採し、その下にある泥炭湿地溝から水を抜き、森林火災と二酸化炭素(CO2) 排出を引き起こしている」などと反論、いがみ合っていた。
シンガポール、人工都市内での憩いの場づくりに腐心
シンガポールは、東京23区内ほどの狭い国土ながら、都市国家の相貌を備えると同時に、自然保護にも気配りを見せている。国内には様々な公園、野生の動植物の生息場所などが配され、人工都市の中での憩いの場を提供する工夫がなされている。
2023年には、閉園されたジュロン・バードパークにかわり、バードパラダイスが開園。そこにはシンガポール動物園、ナイトサファリ、リバーワンダーなど野生動物を観察できる総合公園ができている。
ハイライトは、アフリカの密集した熱帯雨林、南アフリカの湿地帯、東南アジアの水田、豪州の乾燥したユーカリ林など世界中の生息地を模した鳥舎の中を歩いて見学できることだという。そうしたことから、シンガポールはミャンマー人女性の行為を厳しく見据えたのだろう。
写真)シンガポール動物園にて、草を食べるシマウマ達 2013 年 6 月 27 日 シンガポール
出典)Suhaimi Abdullah/Getty Images
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この記事を書いた人
中村悦二フリージャーナリスト
1971年3月東京外国語大学ヒンディー語科卒。同年4月日刊工業新聞社入社。編集局国際部、政経部などを経て、ロサンゼルス支局長、シンガポール支局長。経済企画庁(現内閣府)、外務省を担当。国連・世界食糧計画(WFP)日本事務所広報アドバイザー、月刊誌「原子力eye」編集長、同「工業材料」編集長などを歴任。共著に『マイクロソフトの真実』、『マルチメディアが教育を変える-米国情報産業の狙うもの』(いずれも日刊工業新聞社刊)