103万円の壁:与党提示の減収根拠「国民をバカにしている」国民民主党榛葉賀津也幹事長会見
安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)
Japan In-depth編集部(成沢緑恋、浜島和希)
【まとめ】
・国民民主榛葉幹事長、与党提示の「103万円を178万円に引き上げる際の国税・地方税の減収見込み額」の根拠は「納税者を馬鹿にしている」と批判。
・適切な根拠が提示されない場合は、補正予算案への反対を検討する可能性も。
・緊急事態条項について「国民を守るために必要な制度」であり、行政や権力者の暴走を防ぐために憲法改正で整備すべきだと強調。
■ 103万円の壁
12月6日、自民党・公明党・国民民主党の3党協議で、与党側から基礎控除を103万円から178万円に引き上げた場合の国税と地方税の減収見込み額の根拠が提示された。(以下の図)
▲図 3党協議で与党側から配布された「基礎控除に係る減収見込み額」出典:国民民主党幹事長会見で記者に配布
榛葉幹事長は6日の定例会見で、与党から配られた資料を片手に、「数字が粗くて曖昧だと認めた算出根拠で、これを基準にして財源が8兆円足りなくなる、地方が4兆円足りなくなるというのは話にならない」と一蹴。
続けて、「あまりにもいい加減で、あまりにも国民を馬鹿にしている。こんなことじゃ補正予算もどうなるか全くわからない」と述べ、103万円の壁を巡る議論に進展が見られなかったら、補正予算案に反対する可能性も示唆した。
▲写真 榛葉賀津也国民民主党幹事長ⒸJapan In-depth編集部
この発言を受け、「補正予算に反対する可能性もあるのか」と記者から聞かれると榛葉幹事長は、「こういういい加減なデータでいい加減な交渉をするんだったら賛否を考え直さなければならないかもしれない」という意味だと述べたうえで、「きちっとしたデータときちっとした根拠を持って前向きな議論が来週以降できることを信じたい」と述べ、税収減の算出根拠が与党側からより精緻に出されることに対し期待感を示した。
(以下、記者との一問一答)
記者: 税制調査会長間の自民党・公明党・国民民主党の会談が本日ありまして、103万円の壁の引上げ時期をめぐり、与党側は来年1月からの引上げが事務的に難しいと回答しました。このことへの受け止めと、また103万円の引上げについて参考にした際の文書には、補正予算案について年内の早期成立を期するともありますが、現時点で補正予算案の賛否についてどのようなスタンスかお聞かせください。
榛葉: この資料の冒頭に赤い字でご丁寧に「下記の試算は10月31日時点での粗い試算であり相当の幅を持って見る必要がある」と書いてある。そもそも、この数字が粗くて曖昧だと認めた算出根拠で、これを基準にして財源が8兆円足りなくなる、地方が4兆円足りなくなるって言うのは話にならない。加えて、今我々がなぜやるかというと、この国の税収を減らすためではなくて、取りすぎた税金を国民に戻してデフレから脱却して手取りを増やす。そして、可処分所得を上げて消費を増やしてこの国の経済を回していく好循環させていくためにやってるんですよね。だから早くやらなきゃいけないんですよ。それを、今おっしゃったように実施時期が2026年は話にならないね。納税者・有権者は待ってるんですよ。早く地方経済を回したい、元気にしたいと働きたいけど、働けない。人手が足りない、働いてほしいけど、人手がないと。これもすぐやるのは当然ですね。
加えて、ガソリン減税の議論もやってますけども、来年以降に先送りするっていう発言もありましたね。こんなやる気がないんだったら、補正予算も賛成できるかどうかわからないね。我々の交渉人を馬鹿にしてるんじゃなくて有権者を馬鹿にしてますよ。選挙結果は1日も早く103万の壁を突破して手取りを増やしてほしい、減税してほしいと。それが先の衆議院選挙の結果でしょ、もう忘れたんですかね。話にならない。あまりにもいい加減で、あまりにも国民を馬鹿にしてます。こんなことじゃ補正予算もどうなるか全くわからないね。
記者: 補正予算に反対する可能性を示唆されましたけれども、どのタイミングで判断されるのかというのと、与党側から今の案ではなくて、どういうものが提示されたら賛成する可能性もあるのか、その辺りをお伺いできませんか。
榛葉: 簡単に示唆したんじゃなくて、こういういい加減なデータでいい加減な交渉をするんだったら賛否を考え直さなければならないかもしれないねと。今交渉をやっている最中なのでやはり、きちっとしたデータときちっとした根拠を持って前向きな議論が来週以降できることを信じたいと思います。自民党さんの交渉人の方も税のプロだから、いろんな駆け引きをやっているのかもしれないけども、あんまり国民の気持ちを、国民の生活を弄ばない方がいいと思いますよ。
▲写真 榛葉賀津也国民民主党幹事長ⒸJapan In-depth編集部
■ 緊急事態条項
12月4日韓国では、ユン・ソンニョル(尹錫悦)大統領によって「非常戒厳」布告され、混乱に陥った。これを受け日本では、憲法改正で緊急事態条項を整備すべきとの意見に反対する声も上がっている。緊急事態条項についての国民民主党の考え方を聞いた。
榛葉幹事長は、「緊急事態条項がナチスとなぞらえて危険な政権になるというようなプロパガティブな発言もありますが、全く逆です。緊急事態条項がないことが行政の暴走や権力者の暴走を招きかねない」と述べ、緊急事態条項は危険だ、とする言説は誤りだとの考えを示した。
また、「どのような状況であっても国民を守るために、司法行政立法の三権の対応を緊急事態のために規定しておく必要がある」と述べ、具体例として、コロナ禍における国民生活の規制に対する補償の問題や、緊急事態に国民を守る憲法法制はどうあるべきなのか、議論すべきだと述べた。
そのうえで、「緊急事態条項が国民を守ることになるから、絶対にやらなくてはいけない」と述べ、憲法改正で緊急事態条項を整備する必要性を強調した。
(以下、記者との一問一答)
安倍: ユン大統領の非常戒厳ということで激震が走ったわけですけどもこれを機に、憲法に非常事態条項を整備するのは危険だという言説が流布されています。改めて幹事長に考え方を聞きます。
榛葉: 緊急事態条項がナチスとなぞらえて危険な政権になる、というようなプロパガティブな発言もありますが、全く逆ですね。緊急事態条項がないことが行政の暴走や権力者の暴走を招きかねない。どのような状況であっても、主権者、国民をどう守るのだとだから、緊急事態の際にはどういう状況で司法、行政、立法府、この3権がどう対応するんだということを決めておかないことが、まさに恣意的な国家運営になりかねない。
かつてこの中で一方的に行政の判断で学校に行くなと言ったり、営業をやめると言ったり、様々な規制がありましたね。そういう時の保障はどうするのか。ウクライナやコロナウイルスといった非常に現実的な危機を経験しているわけですから、緊急事態に国民を守るための憲法法制はどうあるべきか。そのためにもしっかりと議論をして緊急事態条項を定めることが国民を守ることになると思いますから、これは絶対にやらなければならないと思います。
(了)
トップ写真:榛葉賀津也国民民主党幹事長(2024年12月6日東京千代田区)ⒸJapan In-depth編集部
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この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員
1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。
1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。
1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。
2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。