政治とSNSで各党新人議員討論 危うい規制論
安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)
【まとめ】
・NHKの番組で各党新人議員、SNSの政治に対する有用性を評価。
・一方、SNSは政治にかかわることについては収益化をしない、などの提言も。
・安易なSNS規制論は危険。選挙報道の在り方を見直す契機に。
兵庫県知事選や依然行われた東京都知事選などで、にわかに政治とSNSの関係がクローズアップされ始めた。
先の衆院選における国民民主党の躍進も、玉木雄一郎代表(現在役職停止中)が自ら認めているように、「ネットどぶ板」が功を奏したのは間違いない。
一方で、政党や候補者が配信した動画をもとにした「切り抜き動画」の拡散の影響力を懸念する声も出始めている。
こうしたなか、12月9日に放送されたNHK「日曜討論」にて、この問題について各党の新人議員が考えを述べた。
まずSNSの効用については各党議員から肯定的な意見が出た。
共産党の堀川あきこ衆議院議員は、自身が行ったガザへの連帯活動や離婚後共同親権に対する世論を例に、「SNSの力は本当に大きかった」と評価した。
さらに、日本維新の会の村上智信衆議院議員は「SNSが今後重要なツールになるべき」と述べ、さらにSNSにおける発信力、伝える力は政治家にとって必要であるため、「SNSによって政治が悪化することはないと思っている」と肯定的な考えを示した。
公明党の沼崎満子衆議院議員も、「SNSは、選挙あるいは政治運動で、情報を伝えていくツールとしては非常に重要だ」とSNSの有効性を強調した。
一方で、兵庫県知事選でSNSが選挙結果に大きな影響を与えたことを念頭に、SNSに対する何らかの規制が必要との意見も出された。
れいわ新選組の八幡愛衆議院議員は、「デマで別の候補者を貶めたり間違った情報を拡散するというのは民主主義が脅かされる。そこにはきちんとした規制をみんなで考えていく必要がある」と述べた。
自民党の向山淳衆議院議員は、「表現の自由はしっかり守らなければならない。一方で、一定のルールをこれから作っていかなければならない」と述べ、SNSに何らかの規制が必要だとの考えを示した。
具体的には、「SNSの仕組みとして、PVが増えれば増えるほど収益になってしまう。商業利用が政治的に利用されてしまう部分は、ある程度制約を考えていく必要がある」と述べるとともに、「ルールとして、例えば政治にかかわることについては収益化をしない」ことなどを挙げた。さらに、「民間ベースでのルールも必要だ。例えば情報の真正性も規制だけではなくて技術的にラベリングするという手段もある」と述べて、プラットフォーマーにも対応を求める考えを示した。
これに対し立憲民主党の岡田華子衆議院議員は、「まったく大賛成だ。SNSとの付き合い方をうまくやっていくことが大事だ。政治の部分と商用化の部分を切り離していくことが大事だ」と同調した。
公明党の沼崎満子衆議院議員は、「ネガティブな情報の方がより目立ちやすくて拡散してしまう」ことから、発信側の倫理が求められる、としたうえで、「受け止める側も、本当に正しい情報なのか、そういう目線を持って受け止める意識がこれから重要になる」と述べ、情報の受け手もリテラシーを身に着ける必要があるとの考えを示した。
こうしたなか、政府はデジタル空間の情報流通の「健全性」確保に向けた検討を進めている。総務省の有識者検討会「デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会」がそれだが、新たな法規制などにつながる議論については慎重論もある。
また、SNSの情報が政治に影響を与えている現状は、オールドメディアがカバーしきれないものをSNSが補完しているという意味において、評価すべきものであり、有権者にとって有益だ。
問題はSNSにあるのではなく、むしろオールドメディア側にある。有権者から批判されているのは、オールドメディアが、SNS上の情報のファクトチェックに消極的なことだ。オールドメディア、特にテレビは放送法を盾にネット上の言説のファクトチェックに及び腰だ。放送法は量的公平性より質的公平性を求めている。SNSとオールドメディアは、互いに検証しあうことで、有権者は投票行動に結びつく情報を掘り下げることができる。
SNSの安易な規制案は、有権者の知る権利を侵害しそこすれ、メリットはないと考える。選挙報道はどうあるべきか、改めてすべてのメディアに問われている。
(了)
トップ写真:イメージ 出典:cofotoisme/GettyImages
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この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員
1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。
1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。
1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。
2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。