ネット安全・熟慮断行の時(上)【2025年を占う!】社会
林信吾の「西方見聞録」
【まとめ】
・詐欺電話や迷惑メールの増加を問題視し、個人情報が狙われていると警告。
・詐欺行為に対する法的規制の強化が必要性を強調。
・SNSに関する他国の規制強化を紹介し、規制賛成の立場を示した。
読者の皆様、新年あけましておめでとうございます。
新年特集で『北朝鮮 終わりの始まりか』と題した、上下2本の記事を寄稿させていただいたが、かの国だけが問題山積というわけでは、もちろんない。
今月はわが国や欧米・中東に目を向けてみたいが、まずは私事にわたる事から語り始めるのをお許し願いたい。
昨年末のことだが、スマホに海外からの着信があった。しかも留守録にメッセージまで残されているとのこと。
登録していない番号だったが、仕事柄、海外からの着信もたまにはある。とりあえずメッセージを再生してみた。
「この回線に未払い料金がありますので、法的手続きに移行します。オペレーターとお話ししたい方は1を押して下さい」
どこの誰とも名乗らないし、こちらの名前も呼ばない。そもそも請求書も督促状も送られてこないのに、藪から棒に法的手続き……
詐欺だとすぐに分かったが、最近は海外から電話してくるのか。
ご苦労なことだ、という話ではなくて、忙しいときに何をしてくれるのか。それに、メッセージ聴くのだってタダじゃないんだぞ(通信料がかかる)、と憤慨したが、これでオペレーターからいくらか請求された場合、払ってしまう人などいるのだろうか。
にわかには信じがたい話だったが、高齢者がコンビニでお金を振り込もうとしたり、多額のギフトカードを買おうとして店員さんに制止された、というニュースがよく流れているから、やはり一定の確率でひっかかる人もいるのだろう。
私の電話番号を一体どこから……ということは考えるまでもなかった。たかだか11桁なので、ランダムに発信すれば誰かにはつながる。
また、本当に海外から発信されたのかどうかも、早計には判断できない。たしかに、海外に拠点を置く詐欺グループが摘発されたりもしているが、昨今のインターネット電話では、発信元が特定されにくいよう、わざわざ海外のプロバイダーを経由することも可能だからだ。
いずれにせよ、海外からスマホへの着信は初めてだったが、PCメールの方はまったくひどい。
毎朝立ち上げると、30件前後の着信があるのだが、大半が「未払い料金のお知らせ」や「お支払い方法が確認できません」というものだ。
一番多いのはAmazonで、私の場合スマホにはアプリを入れてあるが、PCアドレスを登録したことはない。
佐川急便から「配達のお知らせ」というのも毎日のように来る。人づてに聞いた話だが、配達状況を知らせるアプリというのがあって、それが悪用されているらしい。
資料などを送ってもらう場合、あらかじめ発送元と打ち合わせて、時間指定してもらうようにしているので、そうしたアプリはそもそも必要ない。
東京電力エナジーパートナーという会社からは、未払いの電気料金を請求する旨のメールが来る。社名からして怪しい、などと思っていたのだが、検索してみたところ、会社自体は実在しており。しかも公式サイトで
「当社を名乗る偽メールにご注意ください」
との注意喚起まで行われていた。
しかしまあ、東電くらいで驚いていてはいけない。国税局から「未払いの税金があります」というメールまでよく来る。
相手にする気も、その暇もないので、片っ端から消去しているが、そのせいで迷惑を被ったことまである。
やはり昨年末の話だが、スマホでPCメールを読んで、いつも通りさくさく消去したところ、なにか手違いでもあったのか、仕事関係の有用なメールまで消えてしまったのだ。
数年前の話だと記憶しているが、
「1億円当選しました」
というメールを受け取った人が、発信元を特定して「本当に払え」という訴訟を起こした。という報道があった。
これも記憶ながら、続報がなかったのでいくらか取れたのかどうかまでは分からないが、同様の詐欺メール(手数料などを請求するようだ)を送り続ける手合いに対して、一定の威嚇効果はあったのかも知れない。
ならば自分も……というわけには行かないので、訴訟まで起こすというのは、相応の時間的・経済的余裕がある人でないと難しい。
消費者庁などでも対応してくれるそうだが、この手のメールが頻繁に送られてくる現状を見ると、取り締まりはうまく行っていないと見られる。
と言うのは、昨今では直接的に金銭を詐取しようというのではなく、アクセスすると自動的に個人情報を盗み取られ、それが闇で売買される、という形態が増えてきており、これだと実際に詐欺行為の被害が生じるまでは現行法で対処するのが難しいのだ。
ならばどうすればよいのか、という話だが、これはやはり法規制の対象とするのが一番ということになるだろう。
ネットに対する規制、という話を持ち出すと、すぐに反発する人も多いのだが、私はネット一般を規制すべきだと言っているのではない。むしろ、言論の自由や表現の自由にかかわる規制には断固として反対し続けている。
ただ、実在の会社の名を騙る行為は断じて表現の自由の範疇には入らないし、実際に金品の請求にまで至らなくとも。詐称と詐欺は同列の行為ではあるまいか。
早いものでもう1年が経つが、昨年元旦に起きた能登半島地震では、
「家族が家の下敷きになっています」
といった虚偽の情報がSNS上に出回り、無用の混乱を招いた。
これはなにも日本だけの問題ではなく、すでに対策に乗り出した国もある。
たとえば英国では、フェイク情報の投稿だけでなく拡散も処罰の対象になり得るという「2023年プロバイダー安全法」がすでに施行されているし、オーストラリアでは昨年末、16歳未満のSNS利用を禁止する法案が議会で可決され、今年中には施行される見通しだ。
次回は、その話題を。
トップ写真:Covid-19 ハッカー詐欺 出典:Photo by thomaguery/Getty Images
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この記事を書いた人
林信吾作家・ジャーナリスト
1958年東京生まれ。神奈川大学中退。1983年より10年間、英国ロンドン在住。現地発行週刊日本語新聞の編集・発行に携わる。また『地球の歩き方・ロンドン編』の企画・執筆の中心となる。帰国後はフリーで活躍を続け、著書50冊以上。ヨーロッパ事情から政治・軍事・歴史・サッカーまで、引き出しの多さで知られる。少林寺拳法5段。