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.国際  投稿日:2025/8/25

アメリカより先なら「日本重視」になるのか?重要なのは首脳会談の内容だ


樫山幸夫(ジャーナリスト、元産経新聞論説委員長)

【まとめ】

・韓国の李在明大統領来日が、「米国より先」だったことを日本は歓迎、評価した。

・大統領自身も「韓日関係は重要だ」と説明しているが、優先的に訪問さえしていれば、「重視」になるのか。

・関心を払うべきは首脳会談の内容、具体的な行動であって、訪問のかたちではない。

 

 メディア各社は日本優先訪問を歓迎

 

 韓国の李在明大統領は8月23、24日に来日、石破首相と首脳会談、日韓議連会長の菅義偉元首相らとも意見交換し、その後、訪米の途に就いた。

  ハイライトは、石破首相と大統領の会談を受けての共同記者発表だ。「日韓関係を未来志向で安定的に発展させていく」と謳われたが、李大統領は野党時代、日本に対して強硬な発言を繰り返してきただけに、前向きな関係志向が盛り込まれたことに日本側は安堵したようだ。

 それにも増して歓迎されたのは、「韓国大統領が米国よりも先に日本を訪れるのは、日韓国交正常化以来初めて」(読売新聞、8月24日づけ)というこれまでなかった事態だった。朝日新聞(24日づけ)も「日本をさきに訪れるのは異例」、「日本重視の姿勢」と伝えた。

 各メディアとも同様な論調で筆をそろえたが、そもそもアメリカに先んじて東京を訪問したからというだけで、日本、日韓関係重視だと狂喜するほどのことか。 

 

 訪米前の「ついで」ではなかったか

 

李大統領は訪日のあと、その足で、アメリカに向かったことを考えれば、言葉は悪いが「ついで」に立ち寄ったという見方もできよう。

 むしろ、李氏が訪米を終えたあとに立ち寄り、トランプ米大統領と会談した結果をうけて、関税をめぐる交渉での協調、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記との会談に意欲をみせるトランプ氏の意図、方針をめぐって実効性ある意見交換をしたほうがはるかに実をあげたろう。

 もっとも、日本のメディアの中にも、冷静、客観的な論評は散見された。 

 産経新聞の「主張」は、李大統領の「訪日自体は評価できる」としながらも、韓国軍が7月に島根県の竹島周辺海域で訓練を行ったことに言及、「未来志向の関係をめざすというなら、それにふさわしい行動をとる必要がある」と指摘した。

李大統領自身、日本優先について、「韓米、韓日関係重視を示している」と力説したが、実際の動きを無視、優先訪日に幻惑されて、「対日重視」などとはしゃいでいたとすれば、ちゃんちゃらおかしいというべきだろう。 

 

 首脳来日、かたちにこだわる日本

 

 日本は外国首脳が来日する際、時期や形式に必要以上にこだわるのが常だ。

典型的なのは、もちろんアメリカ大統領だが、いまだに忘れられないのは、古い話だが、1998年6月のクリントン米大統領(当時)の訪中への日本側の反応だ。

 大統領はこの時、中国に約10日間も長逗留しながら、その前後、日本に立ち寄ることをしなかったため、日本国内には失望感が広がった。

中国に来ていながら日本を素通りするのは軽視だとして、当時の貿易摩擦に関連するジャパン・バッシングならぬ「ジャパン・パッシング」など自嘲気味めいた言葉もメディアを賑わした。

 前年に訪米した江沢民国家主席(当時)が、訪問先を米国だけに限定したことに対して、米側が同様の方法で応え、外交儀礼を尽くしただけだが、日本側はそれを理解できなかった。

 筆者は当時、米国在勤中でクリントン訪中も同行取材したが、米国務省の担当者が「米中関係と日米関係はまったく別ものだ。迷惑な話だ」とまゆをひそめていたのが忘れられない。

 米国にとって、日本は唯一の同盟国であり、多くを依存している。それだけに、その対日評価に神経質になるの理解できなくもないが、それを韓国にまで広げるというのは、韓国からも、「日本はわれわれに評価されたいのか」という誤解されかねない。

 大統領の弾劾など内政の混乱は常習的であるにせよ、GDP世界14位(2023年)、政治的にも、ウクライナ支援などで存在感を増し、大国に躍り出た韓国。

このままでは、力関係が逆転、日米のように韓国優位になってしまう可能性もあながち否定できないだろう。

 

トップ写真:韓国大統領の李在明氏が日本を訪問 2025年8月23日 東京・日本

出典:Photo by Kim Kyung-Hoon – Pool/Getty Images

 




この記事を書いた人
樫山幸夫ジャーナリスト/元産経新聞論説委員長

昭和49年、産経新聞社入社。社会部、政治部などを経てワシントン特派員、同支局長。東京本社、大阪本社編集長、監査役などを歴任。

樫山幸夫

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