パワーアップするニセコエリア。「食」と「スキー以外のスポーツ」で「通年型リゾート」へ
【まとめ】
・ニセコでは、最新リフトやAIレジ、絶景レストランが12月20日に同時始動し、利便性と高級化を両立。
・ NAC買収や旅先納税の期限延長により、マウンテンバイクなど「冬以外」の集客を加速。
・宿泊税の定率化による増収を交通整備に充て、住民優待アプリで観光地価格から生活を守る予定。
世界に冠たるスキーリゾート、ニセコ。JAPOW(日本のパウダースノー)を求めて世界中が注目するこの地が、2025年12月20日、ついに今シーズンのゲレンデオープンを迎えた。
東急不動産グループによる100億円超のプロジェクト「Value up NISEKO 2030」が本格化し始めた。(参考:持続可能なスキーリゾートへ:ニセコ東急 グラン・ヒラフ「エースゴンドラ」などに100億円超投資、冬だけじゃない!通年リゾートに向けニセコの夏がパワーアップ)
新施設の同時開業や最新リフトの稼働、さらには自治体による画期的な税制改正と住民還元策など、かつてない規模でアップデートされたニセコの「現在地」を現地リポートする。
■ 12月20日:最新リフト「キング第3シックスパック」が稼働開始
ゲレンデオープンに合わせ、今シーズンの目玉である中腹の6人乗りチェアリフト「キング第3シックスパック」が運行を開始した。
国内でも希少な「座面シートヒーター」を搭載しており、氷点下の吹雪の中でも座った瞬間にじんわりと温もりが伝わる。防風フードを閉めればそこはまさに「動くリビング」だ。輸送力は従来の1.3倍に向上。これは1時間あたり最大で600名の増員を可能にする計算であり、これまでゲレンデ中腹で発生していた渋滞の大幅な緩和が期待されている。国際的マウンテンリゾートに相応しい利便性を実現した。

▲写真 6人乗りチェアリフト「キング第3シックスパック」 出典:Ⓒニセコ東急グランヒラフ
■ 「食」が滞在の主役に。五感を刺激する2つの新拠点
今回のプロジェクトで最も象徴的なアップデートが「食」だ。山頂と山麓、それぞれ役割の異なる2つの拠点が誕生した。これらは単なる「スキー場の食堂」という枠を完全に超え、滞在の質を左右する目的地となっている。
【山頂】天空のガストロノミー「NEST813」
標高813m、エースゴンドラの山頂駅舎2階にオープンした「NEST813(ネスト・ハチイチサン)」は、まさに「大自然の巣」の名にふさわしいプレミアムな空間だ。813は山頂の標高813mからとった。

▲写真 NEST813が入居するエースゴンドラ山頂駅舎

▲写真 NEST813店内

▲写真 NEST813から羊蹄山を望む

▲図 ヒセコヒラフのゲレンデ図 Ⓒニセコ東急グラン・ヒラフ
見どころは、オープンキッチンでシェフがゲストの目の前で仕上げる「和牛ローストビーフ(1皿7,500円)」。厳選された和牛の塊肉が、分厚いステーキのような贅沢さでカットされる様子は圧巻だ。目の前にそびえる羊蹄山のパノラマを眺めながら味わうこの一皿は、もはや「ゲレ食」のイメージを超えている。その他、和牛すね肉のビーフシチュー、ズワイガニのラザニア、とんかつボロネーゼなどなど・・・中央に構えるバーカウンターで注文したワインやシャンパンで乾杯すれば、もはやスキー場にいることを忘れてしまいそうだ。

▲写真 和牛ローストビーフとまるっとじゃがいものグリル

▲写真 NEST813のランチメニュー
【山麓】アプレスキーを演出する「ALPEN NODE」
一方、山麓の「ホテルニセコアルペン」跡地に誕生した「ALPEN NODE(アルペンノード)」は、スキー場の「ベース」としての機能をアップデートした、オールシーズン型のハブ施設だ。
核となるのは、クラフトビール醸造所を併設したレストラン「POWDERHOOD RESTAURANT & TAPROOM」。エースゴンドラ山麓駅舎横という抜群の立地に完成した。巨大な醸造タンクが鎮座する店内では、ここでしか味わえないフレッシュな一杯が提供される。ビールの種類は10種以上、単に食事をするだけでなく、醸造文化に触れる体験を提供することで、冬のスキーヤーはもちろん、夏の観光客をも惹きつけそうだ。

▲写真 「POWDERHOOD RESTAURANT & TAPROOM」のバーカウンター

▲写真 クラフトビール醸造タンク

▲写真 クラフトビールは1パイント1,100円~
「NODE(結び目)」の名が示す通り、ここはゲスト同士、そして山と街を繋ぐ場所だ。10:30~23:00まで営業しており、夜はDJによる選曲や大型サイネージを活用したデジタルアートが空間を彩る。アプレスキー(スキー後の楽しみ)の文化が希薄だった日本のスキー場において、本格的なナイトライフの拠点となるだろう。
どちらも営業は、2025年12月20日(土)~2026年5月6日(水)だ。
■ 観光DXの切り札:AIセルフレジ
今回のアップデートで最も注目すべき技術の一つが、NEST813で実証実験中の次世代型セルフレジ「VISION CHECK-OUT」だ。韓国の企業、Fainders.AI が開発した日本初の360度型画像認識 AI セルフレジだ。
商品を台に載せるだけで7台のステレオカメラが360度から商品を認識し、高精度な AI 画像認識によって約99%以上の確度で品目を判別。約10秒で精算が完了し、一度に複数商品でも迅速に決済できる。
これまでのセルフレジはバーコードの読み取りや RFIDスキャンのものが主流で、主にスーパーマーケットやコンビニに普及している。このレジは、画像を読み取るだけで決済ができるため、レストランなどに向いている。深刻な人手不足への対策としても有効であり、スタッフを単純な会計業務から解放し、より付加価値の高い「おもてなし」に集中させることができる。また、多国籍なゲストが集まるニセコにおいて「言葉の壁」を解消する。このシステムは、日本の観光DXを牽引するスタンダードになる可能性を秘めている。
株式会社ファインダーズ AI ジャパンの李 知珉代表取締役は、今後、企業の社食や大学などの学食などにも採用を広げたい、と話す。

▲写真 株式会社ファインダーズAIジャパン代表取締役、李知珉氏
■ スキー以外のスポーツで通年営業:NAC買収
ニセコの悲願は、サマーシーズンの集客だ。東急不動産株式会社のグループ会社である東急リゾーツ&ステイ株式会社が、倶知安町でアドベンチャー事業を展開する「NAC(ニセコアドベンチャーセンター)」(代表者:ロス・フィンドレー)を買収した。これは冬のスキーに頼らない「通年型リゾート」への強力な布石だ。

▲写真 株式会社NAC エグゼクティブアドバイザー ロス・フィンドレー氏とNAC新社長の松原大輔氏
「ALPEN NODE」をアクティビティの玄関口に据え、従来から人気のラフティングやトレッキングに加え、マウンテンバイク、マウンテンカートなどのコースを充実させ、サマーシーズンの集客を強化する。エースゴンドラも最大3台のMTBを積載可能にするなど、冬・夏をシームレスに繋ぐインフラを整えている。松原社長は、将来的には、天候に左右されない「屋内ボルダリング施設」などの設置も検討したい、と展望を語った。こうしたソフト・ハード両面での拡充が、夏のニセコの価値を再定義する。夏のニセコは平均気温24度と過ごしやすく、宿泊料金は冬の約10分の1にまで下がる施設もある。スキー以外のコンテンツ充実で、「冬のニセコ」から「四季のニセコ」への脱皮を図りたい考えだ。
■ 夏の「空港シャトル」空白を埋める新財源「定率制」宿泊税
オールシーズン化に向けた最大の課題は「足」にある。現状、夏季のグリーンシーズンには新千歳空港からの定期直行バスが期間限定に限られるなど、冬期に比べ脆弱だ。この「二次交通の空白」を埋めるべく期待されているのが、自治体独自の財源活用だ。
そうしたなか、ゲレンデオープンを目前に控えた12月18日、ニセコ町議会は宿泊税を、宿泊料金の3%を徴収する「定率制」に変更する条例改正案を可決した。
| 項目 | 旧制度:段階定額制 | 新制度:定率制(2026年11月〜導入予定) |
| 課税方式 | 宿泊料金に応じた定額(上限2000円) | 一律 3.0%(上限なし) |
| 年間税収見込 | 約 1億7,000万円 | 約 2億5,000万円(ニセコ町税分) |
| 主な使途(方針) | 観光振興、景観保全 | 冬期間のタクシー増車、地域内循環バスの運行、空港連絡バス運行、デマンドバスの体制強化、など |
先行する倶知安町に続く形となり、ニセコ町では約8,000万円の増収を見込む。町はこの新たな税収について、観光客と地域住民の双方の利便性を高めるための交通インフラ整備などに充てる方針だ。特に、採算性が低いために民間企業が消極的な「夏季の空港直行バス」などの試験運行に向けた、公的な下支えとしての活用に大きな期待が寄せられている。
■ 独自の財源確保:全国1位「旅先納税」の躍進
ニセコエリアの財源確保策は宿泊税に留まらない。倶知安町が導入している、旅行中にスマートフォンから寄付して即座に電子クーポンを受け取れる「旅先納税 KU-KURU」が、2025年12月、寄付累計額2億円を突破し、導入自治体として全国トップを記録した。
これを記念し、12月15日よりクーポンの有効期限が従来の1年から「2年(730日)」へと延長された。これにより、「今年の納税枠を使いたいが、すぐに行く予定が立てられない」という層でも安心して寄付が可能となり、来シーズンの旅行計画にも利用できる。こうした「今すぐ使える、未来にも残せる」柔軟な仕組みが、観光客のリピート率を高め、地域の貴重な財源となっている。
■ 2026年、Kutchan ID+が描く『生活インフラ』への構想
2024年に産声を上げた「Kutchan ID+」は、マイナンバーカードを活用したデジタル住民証だ。現在は住民向けの加盟店での優待が中心だが、2026年以降に向けて、宿泊税の新財源を活用した公共交通とのデジタル連携の可能性が模索されている。スマホのIDをバスの端末にかざすだけで、観光客価格と住民優待運賃を瞬時に、かつ自動で切り分けることが実現できたら、「オーバーツーリズム」の弊害をテクノロジーで解決する世界初の社会実装モデルとなるだろう。今後に期待だ。
■ 取材を終えて:2025年12月20日、ニセコは「実需」のリゾートへ
冬だけに出現する「ニセコバブル」と称されたブームは今、100億円規模の設備投資、宿泊税によるインフラ整備、AI技術の活用、そして地域共生策という強固な「実需」によって再構築されている。
観光客の利便性と地域社会の持続可能性を両立させるための戦略的な一手だ。ニセコ東急 グラン・ヒラフの使用電力は既に100%再生可能エネルギーに切り替えられており、脱炭素リゾートとしての側面も強化されている。
2025年12月20日、新たなシーズンを開幕させたニセコ。デベロッパーと地域の企業、それに行政が一体となり、四季を通じて世界を魅了する「通年型マウンテンリゾート」の先進モデルとして、その真価を世界に問い始めたといえよう。
▲トップ写真 ALPEN NODE外観 ⒸJapan In-depth編集部
(出典がない写真はすべてⒸJapan In-depth編集部)




























