無料会員募集中
スポーツ  投稿日:2025/12/31

【2026年を占う】スポーツ TVが映し出した2025年の「スポーツ・エコノミー」大谷翔平という巨大経済圏


松永裕司(Forbes Official Columnist)

【まとめ】

大谷翔平選手は「インフラ・コンテンツ」として機能し、「結果」から「ストーリー」消費へのシフトを促進。

・男性ランキングはMLB関連に一極集中し、国内リーグでは「国内残留型」ニュースターの不足が課題。

・女性ランキングは競技が分散し、特にゴルフが多数ランクイン。10代のZ世代アスリートが「新しい時代のアイコン」として活躍。

 

テレビのメタデータを扱う番組・CMのリサーチ専門会社エムデータが集計した関東キー局におけるテレビでの話題数・放送回数最新データは、日本の旧メディアが何に価値を見出し、視聴者が何を求めたかという、極めて現代的な「欲望の地図」を描きだしている。

2025年12月14日までの約1年間、スポーツ選手を軸にデータを紐解くと、そこには「大谷翔平という特異点」「海を渡る侍たちへの渇望」、そして「女子スポーツにおける多様性の勝利」という3つの大きな潮流が見えてくる。このランキングデータから25年のスポーツビジネスと視聴トレンドの深層を読み解いていく。

「大谷翔平」という巨大経済圏の特異点

まず、誰もが予想しつつも、改めて数字として突きつけられると、その事実に圧倒される男性・総合ランキングにおける大谷翔平の圧倒的な存在感だ。

話題回数1万3,255回において他を寄せ付けないこの数字は、2位の山本由伸(4,134回)にトリプルスコア以上の差をつけている。露出時間換算においては、2,47万5,934秒。2位の山本(94万6,908秒)とは、まさにケタ違いの扱いだ。これはもはや「人気野球選手」という枠組みでは語れない。25年の日本のテレビメディアにおいて、大谷翔平は天気予報やニュースと並ぶ、あるいはそれ以上の「インフラ・コンテンツ」として機能していた証だ。

特筆すべきは、この「大谷効果」が周辺へも波及している点だ。ランキング5位にはドジャースのデーブ・ロバーツ監督(1,774回)が、14位にはムーキー・ベッツ、21位にはフレディ・フリーマンがランクインしている。10位には大谷と争い本塁打王を奪取したカイル・シュワーバーの名も見える。本来、日本の茶の間において海外チームの監督や選手がこれほど話題になることは稀である。しかし、大谷という巨大な太陽の周りを回る惑星として、彼らもまた日本のメディアコンテンツの主要キャストとなった。これは、視聴者が競技そのもの「リザルツ」だけでなく、チーム内の人間関係や舞台裏「ストーリー」を消費している証左であり、スポーツ報道が「結果伝達」から「ドラマ消費」へとシフトしたことを示している。

一方で、では大谷というアスリートが、常にさらされるケガなどにより試合に現れない日々が続くとなると、日本のテレビ業界は、天照が天岩戸に隠れたような緊急事態にさえ陥るのではないか危惧される。大谷の時代もおそらくあと10年ほどだろう。彼が引退した後、日本のスポーツ番組はどう変化するのか。大谷に代わるストーリーは発掘できないのか、気になるばかりだ。

■「世界」と戦う個への一極集中と、国内コンテンツの課題

男性ランキングの上位を見渡すと、また明確な傾向に気づく。TOP5(大谷、山本、佐々木朗希、鈴木、ロバーツ) がすべてMLB(メジャーリーグ)関連で占められている点だ。 また、TOP10中、8人までがMLB関連となっている。

さらにサッカー界に目を向けても、13位の久保建英、16位の三笘薫 と、欧州で戦う選手が上位を占める。バスケットボールでは19位の八村塁、34位の河村勇輝がランクインしている。ここから読み取れるのは、2025年の視聴者が「国内の最高峰」ではなく「世界の最高峰」で戦う日本人の姿を求めているという事実だ。ドメスティックなリーグ戦の結果よりも、「世界で戦う日本選手」がいかに評価されているか、という日本人の「承認欲求」を満たすコンテンツが選ばれているとも言える。

一方で、この傾向は国内リーグにとって残酷な現実も突きつける。ランキングには25年6月に亡くなった長嶋茂雄さん(12位)、イチローさん(8位)、王貞治さん(31位) といったレジェンドたちが依然として上位に食い込んでいる。これは、彼らの功績が偉大であることはもちろんだが、裏を返せば、彼らに匹敵するほどの国民的求心力を持つ「国内残留型」のニュースターが不足しているという、コンテンツの新陳代謝における課題も浮き彫りにしている。大相撲の両横綱・大の里(6位)、豊昇龍(9位)のような現役アスリートの躍進はあるものの、全体としては「海外輸出型」のアスリートに話題が集中する構造が鮮明だ。

■ 女子スポーツが示す「多様性」と「Z世代」の台頭

「一点集中」型の男性ランキングに対し、女性アスリートのランキング は、非常にカラフルで分散型の傾向を示している。これが25年のもう一つの重要なトレンドだ。

1位の早田ひな(卓球)を筆頭に、2位の張本美和(卓球)、3位の坂本花織(フィギュアスケート)、4位の石川真佑(バレーボール)、5位の北口榛花(陸上)と、TOP5だけで4つの異なる競技が並ぶ。男性側が野球に偏重しているのに対し、女子スポーツは競技を問わず、世界大会での活躍がダイレクトにメディア露出に直結している競争環境が見て取れる。

特に注目すべきは、ゴルフ界の層の厚さとメディア親和性だ。6位の山下美夢有を筆頭に、岩井姉妹、渋野日向子、古江彩佳など、TOP50内に多数のゴルファーが名を連ねている 。これは、毎週のようにトーナメントが開催され、継続的な露出が確保できるゴルフという競技の特性に加え、彼女たちのファッションやライフスタイルがSNS時代と親和性が高く、多角的な切り口で番組に取り上げやすいという「メディア・ユーザビリティ」の高さを示唆している。一方、ゴルフという競技に目を向けると、男子はTOP50に松山英樹ただひとりとなり、ゴルフ界の人気がいかに女子偏重かという、男子ゴルフ不人気も鮮明になる。

女性の年齢層の若さも際立つ。2位の張本美和(17歳)、49位の島田麻央(17歳) など、10代のアスリートが堂々とランクインしている。Z世代、α世代のアスリートたちは、競技パフォーマンスだけでなく、インタビューでの率直な言葉選びやデジタルネイティブな発信力を持っており、テレビ局側も「新しい時代のアイコン」として積極的に彼女たちを起用したことが伺える。

■ 2026年に向けた視聴の変化

このデータが示唆する25年の総括、そして来る2026年への展望とは何か。それは、スポーツ視聴が「ライブ観戦」という一点から、「ナラティブの共有」へと拡張したと考えられそうだ。

ランキング上位の選手たち、特に大谷翔平や海外組のサッカー選手たちの話題は、試合の勝敗そのものよりも、彼らの「発言」「ファッション」「現地の評価」、あるいは「誰と食事をしたか」といった周辺情報を含めてパッケージ化され、消費された。1万3,000回を超える大谷の話題数は、彼がもはやアスリートという枠を超え、毎日更新される良質な「ドラマシリーズ」として機能していたことを意味する。

企業やマーケターにとって、このランキングはスポンサーシップのあり方を再考させる材料となるだろう。単にスタジアムに看板を出すだけでなく、選手個人のストーリーにいかに寄り添い、その文脈の中でブランドを露出できるか。テレビ露出の多さは、その選手が持つ「ナラティブの強度」に比例する。

25年、日本人はテレビを通じ、アスリートいう「超人」たちの人生そのものを消費したとし過言ではない。26年、この傾向はさらに加速し、メディアはより深く、より個人的なアスリートの物語を掘り下げることになるだろうか。26年は、ミラノ・コルティナ冬季五輪、サッカー・ワールドカップが開催される。こうした中でもスポーツ番組は、特異点の大谷に執着し続け、彼の独走となるのだろうか。その時、ランキング地図はどう書き換わるのか、注視したい。

トップ写真:2025年ワールドシリーズ第7戦でトロント・ブルージェイズを5対4で破り優勝し、優勝トロフィーを掲げる大谷翔平選手とドジャーズの選手たち(2025年11月2日トロント・オンタリオ州)出典:Gregory Shamus/Getty Images




この記事を書いた人
松永裕司Forbes Official Columnist

NTTドコモ ビジネス戦略担当部長/ 電通スポーツ 企画開発部長/ 「あらたにす」担当/東京マラソン事務局初代広報ディレクター/「MSN毎日インタラクティブ」プロデューサー/ CNN Chief Directorなどを歴任。


出版社、テレビ、新聞、デジタルメディア、広告代理店、通信会社での勤務経験から幅広いソリューションに精通。1990年代をニューヨークで、2000年代初頭までアトランタで過ごし帰国。

松永裕司

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."