大手新聞も混同「武器輸出三原則」と「武器輸出三原則等」の大きな違い①
清谷信一(軍事ジャーナリスト)
我が国では新聞やテレビなどのマスメディア、政治家でも誤解していることが多いが、「武器輸出三原則」は武器、即ち兵器の輸出を禁じてはいない。10月22日付の日本経済新聞の「武器三原則見直し」でも同じ間違いを犯している。
「武器輸出三原則」とは、次の三つの場合には武器輸出を認めないという政策をいう。
- 共産圏諸国向けの場合
- 国連決議により武器等の輸出が禁止されている国向けの場合
- 国際紛争の当事国又はそのおそれのある国向けの場合
これは佐藤栄作総理大臣が1967年4月21日の衆議院決算委員会で答弁したものである。「武器輸出三原則」では本来これに該当しない国々には原則輸出が可能なのである。
だが、1976年2月27日、三木総理大臣(当時)が衆議院予算委員会における答弁で、「武器輸出に関する政府統一見解」を表明した。
これは、「『武器』の輸出については、平和国家としての我が国の立場から、それによって国際紛争等を助長することを回避するため、政府としては、従来から慎重に対処しており、今後とも、次の方針により処理するものとして、その輸出を促進することはしない」というものだ。
そして、
- 三原則対象地域については「武器」の輸出を認めない。
- 三原則対象地域以外の地域については、憲法及び外国為替及び外国貿易管理法の精神にのっとり、「武器」の輸出を慎むものとする。
- 武器製造関連設備の輸出については、「武器」に準じて取り扱うものとする。
としている。わが国の武器輸出政策として引用する場合、通常、「武器輸出三原則」(佐藤首相の答弁)と「武器輸出に関する政府統一見解」(三木首相の答弁)を総称して「武器輸出三原則等」と呼ばれる。
つまり武器の禁輸は「武器輸出三原則」ではなく、「武器輸出三原則等」によって規定されているのである。「等」がつくかつかないかで、大きな違いがある。ただ、これも「三原則対象地域以外の地域について『武器』の輸出を慎むものとする」としているので、まったく禁止しているわけではないとの解釈も出来る。先の日本経済新聞の報道・解説はこの両者を混同しており、読者のミスリードを招く。
日本経済新聞は何度か一面で軍事に関する誤報を流し、その度に筆者は抗議をしているが、同社は誤りを認めず、執筆記者、そして担当デスクの名前も教えない。誤りを見なおさないから同じような過ちを繰り返す。読者が信じているほど日経記者の質は高くない。PR会社の関係者に聞けばよく分かるだろう。
現在の武器禁輸規制は歪である。例えばソニーのビデオカメラの目ともいえる、CCD素子はイスラエルやロシア、そして恐らくは中国でも多くの国々でビデオカメラ、暗視装置、レーザー測距儀などを組み合わせた電子・光学センサーポッドに使用されている。軍用に耐えるCCD素子は筆者の知る限りソニーしか製造していないからだ。
[ソニーのCCD素子が使用されているセルビアの対戦車ミサイル、ALAS(Advanced Light Attack missile System)]
これらはUAV(無人機)や攻撃ヘリ、偵察車輌などに使用されている。更に米国の空対地ミサイル、マーベリックやセルビアの対戦車ミサイル、ALAS(Advanced Light Attack missile System)などのシーカーとして使用されている。
そして世界の紛争地域で実戦に使用されている。先のロシアとグルジアの戦争でも両陣営でソニーのCCD素子は使用されていた。ところがこれは「汎用品」なので武器禁輸の規制に触れない。筆者から見れば小銃など輸出よりもよほど「悪質」だと思うのだが。
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