グリーン政策で金持ちは補助金を貰うが貧乏人にはツケ回しが来るだけ
執筆:杉山大志(キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹 )
■本稿のポイント
・太陽光発電、電気自動車、ゼロエミッション住宅といったグリーン政策には、資金力のある人だけが補助金や経済的利益を受け取り、お金のない人には負担だけが回ってくる。
・グリーン政策に参加できない貧しい層は、電気料金への賦課金、税金、物価上昇、将来の国債償還などを通じて、優遇策の原資を確保するための費用を広く負担させられている。
・「環境にやさしい政策」という名のもと、実態としては、貧しい層から裕福な層への所得移転であり、不公正な再分配政策になっている。
杉山大志氏(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)は、太陽光発電・EV・ZEHを例に、グリーン政策の補助金制度が生まれる背景には、政府・役人側の「制度をつくりたい」というインセンティブがあると指摘。「環境のため」という大義名分のもとで見過ごされてきた構造的な問題を解き明かす。(Japan In-depth編集部)
◆グリーン政策の「恩恵」は誰が受けているのか
太陽光発電(PV)、電気自動車(EV)、ゼロエミッション住宅(ZEH)。どれも、環境にやさしい、脱炭素に役立つ、将来世代のためになる、と説明される。だが、これらの政策には、あまり語られない重大な問題がある。
それは、お金のある人だけが補助金や経済的利益を受け取り、お金のない人には負担だけが回ってくるという構造である。
太陽光発電を考えてみよう。屋根に太陽光パネルを載せられるのは、基本的には持ち家の人である。しかも、初期投資をする資金があり、日当たりのよい屋根を持ち、長くその家に住む見込みのある人でなければならない。賃貸住宅に住む人、集合住宅に住む人、古い住宅に住む人、そもそも投資資金のない人は、参加したくても参加できない。
一方、太陽光を設置した人は、売電収入を得る。自分の家で使えば電気代も節約できる。たいていは、手厚い補助金や優遇制度も利用できる。つまり、太陽光発電を設置できる人にとっては、脱炭素政策は「負担」ではなく「投資機会」になる。
だが、太陽光を設置しない人はどうなるか。売電収入は得られない。電気代の節約もない。それにもかかわらず、再生可能エネルギーを支えるための賦課金は、電気料金に上乗せされて請求される。つまり、太陽光を持たない人も、太陽光を持つ人を支える費用を払わされているのである。
電気自動車も同じである。EV補助金を受けられるのは、EVを買える人だけである。新車を買う資金があり、ローンを組める信用があり、自宅や近所に充電環境があり、生活上EVで困らない人でなければならない。
そういう人は、手厚い車両補助金を受け取り、ガソリン代の節約もできる。税制上の優遇も受ける。だが、中古車を乗り続ける人、軽自動車で生活している人、集合住宅で充電設備がない人、新車を買う余裕のない人は、EV補助金の受益者にはなれない。
それでもEV補助金の財源は、税金や国債で賄われる。国債で賄っても、国民の負担になることは変わりない。結局、EVを買えない人も、EVを買える人への補助を負担する側に回る。
ZEH住宅、つまり高断熱・高省エネ・PV採用の住宅も同じである。ZEH補助金を受けられるのは、新築住宅を建てる人、あるいは購入する人である。だが、いま住宅を新築できる人は限られている。土地を買い、建築費を払い、住宅ローンを組める人である。
賃貸住宅に住む人、古い家に住み続ける人、住宅ローンを組めない人は、直接の受益者にはなりにくい。
ZEH住宅を建てられる人は、補助金を受け取り、光熱費を節約し、快適な住宅に住み、場合によっては住宅の資産価値も高まる。だが、建てられない人には、そのような便益はない。それでも補助金財源は、広く国民が負担する。
◆補助金を受け取れない人が負担させられる仕組み
もちろん、脱炭素そのものの是非についても大いに議論はあるが、この点は本稿では脇に置いておこう。その点を別にしても、問題は、便益を受ける人と、費用を負担する人がずれていることだ。
太陽光発電を設置できる人は得をする。EVを買える人は得をする。ZEH住宅を建てられる人は得をする。
政府は、とにかく新しい法律や制度を作りたい。作ると役人にとっては手柄になるからだ。その為には、政府は政策の直接の対象となる人々の了解を取り付けねばならない。だから、高価な技術に対して、補助金などの優遇策を大盤振る舞いすることになる。
だが、どの制度にも参加できない貧しい人は、売電収入も、車両補助金も、住宅補助金も受け取れない。それにもかかわらず、電気料金、税金、物価上昇、将来の国債償還を通じて、優遇策の原資を確保するための費用だけは負担させられる。
これは「環境にやさしい政策」というきれいな言葉で包まれているが、実態は、参加できない金持ちから参加できる貧乏人への所得移転である。参加できる人は、多くの場合、持ち家があり、新車を買え、住宅を新築できる人である。参加できない人は、賃貸住宅に住み、中古車を使い、毎月の光熱費に苦しむ人である。
いまのグリーン政策の多くは、十分に資金力のある人に補助金を配り、そのツケを広く国民に回す仕組みになっている。
「環境のため」という言葉を使えば、どんな負担も正当化されるわけではない。グリーン政策が、金持ちには補助金を配り、庶民にはツケを回すだけの制度になっているなら、それは環境政策である前に、不公正な再分配政策である。

https://www.amazon.co.jp/dp/4485301257/
【よくある質問(FAQ)】
Q1:再生可能エネルギー賦課金とは何ですか?
A:電気料金に上乗せされる費用で、太陽光発電などの再生可能エネルギーで発電した電気を電力会社が買い取る際の費用を、電気を使う全消費者で広く負担する仕組みです。太陽光パネルを設置していない家庭にも自動的に課されます。
Q2:ZEH(ゼロエミッション住宅)とは何ですか?
A:高断熱・高省エネ設備と太陽光発電などを組み合わせ、年間の一次エネルギー消費量が正味ゼロ以下となる住宅のことです。建設・購入時に国や自治体から補助金が受けられますが、対象は新築住宅に限られます。
Q3:所得移転とは何ですか?
A:ある集団から別の集団へ、税金や補助金などの制度を通じてお金が動くことです。本稿では、補助金を受け取れない低所得層から、補助金を活用できる資産のある層へとお金が流れている状況を指しています。
Q4:国債償還とは何ですか?
A:政府が発行した国債(借金)を返済することです。補助金の財源を国債で賄った場合、その返済は将来的に税金などの形で広く国民全体が負担することになります。
Q5:グリーン政策とは何ですか?
A:温室効果ガスの削減や脱炭素社会の実現を目的とした政策の総称です。太陽光発電・電気自動車・省エネ住宅への補助金や税制優遇などが代表例として挙げられます。
(本校のポイント、リード、中見出し、FAQの文責:Japan In-depth編集部)
■シリーズ紹介
エネルギー・環境問題の現場と政策の最前線を、鋭い視点で切り取る杉山大志によるコラムです。私たちの暮らしと社会の行方を左右するエネルギー・環境をめぐる動きを、わかりやすく読み解きます。
トップ写真:Solar Energy
出典:Jiangang Wang / 寄稿者 / Getty Images
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この記事を書いた人
杉山大志キヤノングローバル戦略研究所研究主幹
【学歴】
1991年 東京大学 理学部物理学科卒業
1993年 東京大学大学院 工学研究科物理工学修士了
【職歴】
1993年~2017年 財団法人 電力中央研究所
1995年~1997年 国際応用システム解析研究所(IIASA)研究員
2017年~2018年 一般財団法人キヤノングローバル戦略研究所 上席研究員
2019年~ 一般財団法人キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹
2019年~ 慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科 特任教授

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